チョコレート空間

チョコレートを食べて本でも読みましょう

黒蜥蜴(三島由紀夫VS江戸川乱歩)

2007-07-29 15:43:16 | 
VSということでもないのですが…。
三島由紀夫脚本の『黒蜥蜴』が読みたい、と思っていたらタイムリーについ最近学研M文庫から三島由紀夫作の戯曲『黒蜥蜴』が出版されました。
赤い表紙に黒い蜥蜴がいる印象的な表紙です。

ストーリーは
さる有名宝石商・岩瀬氏の一人娘、早苗と彼の所有する世界的に有名なダイヤ「エジプトの星」が怪賊「黒蜥蜴」に狙われる。
岩瀬はこの事件を名探偵・明智小五郎に依頼する。
岩瀬氏、早苗、それに付き添う明智がとある一流ホテルに滞在中、ついに黒蜥蜴は早苗誘拐を大胆不敵にも具体的な日時を指定して来る。
ホテルにはその他に岩瀬家と懇意になった美貌の貴婦人、緑川夫人がいる。
この緑川夫人が実は黒蜥蜴で、彼女は予告状ばりに大胆な手口であわや誘拐に成功するところを明智に防がれる。
しかし彼女は諦めず、後日早苗と「エジプトの星」略奪に成功。
ところがそこにも神出鬼没に明智小五郎が活躍し、ついに完膚なきまでに敗北を喫した黒蜥蜴は観念して毒をあおるのだった。
原作乱歩版にしろ、三島版にしろもうひとつの特徴であり、見所は明智と黒蜥蜴の攻防は犯罪のうえでだけではなく、追って追われるふたりの間にいつしか恋愛感情が芽生えているという点。
明智小五郎シリーズの唯一相手が女賊であるというのに加えて唯一の展開だ。

舞台劇という制限の中、三島版はホテルの予告状あたりから始まるがあとはほぼ原作どおり。
通天閣が東京タワーに変わっている。
そして真骨頂は三島独特の華麗な文章。
映画、舞台を見たが心に残る美しい科白。

明智 「今の時代はどんな大事件でも、われわれの隣の部屋で起るような具合に起る。犯罪の着ている着物がわれわれの着物の寸法と同じになった。黒蜥蜴にはこれが我慢ならないんだ。女でさえブルー・ジーンズを穿く世の中に、彼女は犯罪だけはきらびやかな裳裾を五米も引きずっているべきだと信じている。…」

黒蜥蜴「法律が私の恋文になり」
明智 「牢屋が僕の贈り物になる」

明智 「本物の宝石は、(ト黒蜥蜴の屍を見下ろして)もう死んでしまったからです」

舞台であるという都合上もあってか、全体は独特の様式美を持っている。
そのために小説としての感情移入はあまりできない(舞台を見た場合はまた別ではあると思うけれど)
小説としての緊迫感や、登場人物の気持ちは乱歩版「黒蜥蜴」のほうが臨場感を持っている。

乱歩版ではソファーに閉じ込めた明智を海中に放り込んで殺した黒蜥蜴が、「もう助けは決して来ない」という絶望的で残酷な宣言をわざわざ囚われの身の早苗に告げながら、ふたりで泣きじゃくるという場面があり、最期の場面では毒を煽った後に明智の腕の中で

「…あたし、こんな仕合わせな死に方ができようとは、想像もしていませんでしたわ」
明智はその意味をさとらないではなかった。一種不可思議な感情を味わわないではなかった。しかしそれは口に出して答えるすべのない感情であった。

というセンチメンタルな場面がある。
三島版は自分自身がダイヤモンドのような女という孤高な部分が強く描かれているが、乱歩版では大胆で残酷ではあるがより感情的な部分が描かれているように感じる。

今回両作品を続けて読み返してみて、どちらもそれぞれの魅力を持った名作だと改めて感じました。



ロシア大使館潜入!?

2007-07-22 00:31:50 | マトリョミン
今日はマトリョミンのS先生のマトリョミンミニライヴに行きました。
場所はなんとロシア大使館!!

ロシア大使館って…ロシア大使館って…
どんなところ!?
普通に入れるの!?



スタイロさんとスタイロさんのお友達、Iさんとご一緒させてもらう。

門や敷地の角角にはお巡りさんが立っています。
そして門は堅く閉ざされています。

どこから入るの!?


おろおろしながらお巡りさんに入場券を見せ、ちょうど中から係りの人が出てきて入れる。
門の中には更に鉄網戸みたいな戸が。
さすが厳重ですね。

受付を済ませて、各種チラシとチョコレートが入った袋を貰って中へ。

 

…余分な事をいうと、写真は新しげに撮れてますが実際割と地味で古めかしい雰囲気です。


今日はS先生のライヴというか、写真家詩人で可愛らしい物の達人(この説明で良いんだろうか)沼田元氣さんのお話会がメインイベント。
沼田さん主催のロシアのかわいい発見の旅というツアー関連イベントですが、沼田さんのロシアのお話と、沼田さんとS先生のお話(主にテルミン、マトリョミンについて)、S先生のミニライヴ、その後にちょっと雑貨販売コーナーがあってロシアンティーと本場のピロシキを頂けるのです。
値段の事をいうのはなんですが、これで千円というなんとも太っ腹なイベント。

お話~ライヴは大使館内にある小学校の講堂です。

可愛い風船やら舞台の手作り飾りは学校の方で今回のイベントのために作ってくれたそうです。
どうせなら日本人がロシアを見にやってくるからロシア風がいいのに、なぜか日本アピール。
富士山、高層ビル、桜、東京タワー。

        でもそれもご愛嬌

マトリョーシカの歴史は意外と浅く、まだ百年ほどだとか。
マトリョーシカのルーツは箱根の入れ子細工のこけしを見たロシア人が本国で作り始めたのじゃないかとか意外で面白い話。
あとは沼田さんのロシアでのお話とか…お話を伺っていたらロシアツアー行きたくなりましたよ


S先生のミニライヴは3曲。
ムーンリバーに始まり、「東京とロシアの曲を」ということで東京ブギウギとカチューシャ。
東京ブギウギ、やっぱりいいですね。
ゆっくりな曲もあんな風にしっとりと弾けるといいなーと思いました。

そして終わったあとは雑貨バザールとお茶お菓子!
雑貨コーナーは机3台分くらいでほんとにちょこっとでした。
しかもその狭いスペースに人が群がって見られないのでさっさとお菓子コーナーへ。



おお~。ピロシキ山盛りですよ!

 
長いのと丸いのがありました。
長いのを選びました。

        


今まで食べたことあるのは揚げパンの中に挽肉や春雨、野菜なんかが入ったものがピロシキのイメージでした。
しかし、焼いてある-つまり普通のパンに具が入っている。
そして中身はレバーペーストです。
香辛料とか色々入っているようで、臭みはないです。
でもレバーだめな人はだめだろうな。
スタイロさんは丸い方、野菜ピロシキでした。
ひと口貰いました。
こっちもおいしかったです。

揚げてないパンにレバーペースト。
へえ~、でしたがこれが本式なんでしょうか(ロシア大使館だし)
おいしかったです。
しつこくないし、こっちの方がいいかも。
また食べたいけどどこかで入手できるんだろうか。
大使館の人に聞けば良かった

ピロシキの向こうはジャム。
これはいただいた紅茶に入れてロシアンティーにするのです。
おいしかったので2杯いただきました。
そのさらに向こうはチョコレート。
ああ、なんて幸せな会なの。

 いただいたチョコレート類。


 

いただいたチラシ類。
チラシもかわいい!保存です。

特に右、11月のミニツアーの裏。
つるつるで厚くてちょっといい紙です。
アエロフロートの非常時の注意書風なのですが、乗客がマトになってます。
かっ、かわいいよう


   

左:ロシアの墓地では生前の写真が楕円形のホーローに白黒の着色写真のように焼かれて各お墓に飾ってあるとか。
可愛くて沼田さんはご自分のを作ってしまったらしい。
マトリョーシカと共に展示してありました。
でもこれ、味があっていいですよね。
私も作りたいです

右:バザールで買ったマト笛。





中をあちこち見て廻るってことはやっぱりできませんでしたが、楽しかったです。
またこういうイベントあったら行きたいなぁ。
最後に門の前で撮影。
門の前の警備のお巡りさんに声を掛けられたので「注意!?」とちょっぴりドキッとしたら
「こっちからだとちょうど逆光になって写真撮りづらいから、レンズの上を手で隠すとかして撮ったほうがキレイに撮れるよ」
とアドバイスして下さいました。

ありがとう、やさしいお巡りさん。
スパシーパ、ロシア大使館。





孤島の鬼(江戸川乱歩/創元推理文庫)

2007-07-16 23:35:00 | 
ご存知、乱歩の長編小説です。

時は大正。
まだ三十前だというのにすっかり真っ白な髪の主人公、蓑浦の独白で小説は始まります。
蓑浦の恋人、初代が突如密室殺人の被害者となり、蓑浦がその事件を解き明かすために頼んだ素人探偵も早々に何者かに殺されてしまいます。
初代の密室殺人や、姿なき殺人者に始まる本作ではありますが、前半・推理、後半・冒険小説といった趣です。

初代は彼女がずっと持っていた先祖の系図を狙われた故に殺されたらしく、どうやらそれには財宝のありかが暗号として隠されていたという意外な展開から冒険小説的に発展してゆくのですが、もうひとつこの作品で特徴的なのがかなり堂々と同性愛が描かれていることです。

主人公の蓑浦は恋人の犯人探しに奔走する若者なのですが、彼の先輩として事件の前後から登場し、後半は犯人の血縁であり謎解き役でもある諸戸道雄。
彼が蓑浦の事を非常に熱烈に愛し、また求愛するのです。
事件に発展する以前に蓑浦が諸戸の説明をするにもよく風呂に誘われただの、手を握られただの、「おいおい」という説明

当初、蓑浦は初代を殺したのは諸戸ではないかと疑う。
(その理由も自分に恋人ができたからその嫉妬のあまりではないかと疑うという凄い理由)
諸戸はそんな蓑浦に対して自分の疑いを晴らすどころか見事な推理を披露し、この事件に本格的に関わることになるのだが、その疑いを晴らす時にも同じ椅子に座って蓑浦を胸に抱きしめ、耳元で囁くのです。

はっきり言って今読んでても凄いな、と思います。
これを昭和四年に連載していたのか、と思うとほんとに凄いなと思います。

最後までこのふたりの(というか、諸戸の一方的な)恋情が諸所に出てくるのですが、無論そればかりではありません。
人工的に箱に閉じ込められて作られた一寸法師、傴僂、男女のシャム双生児など、乱歩らしい登場人物で溢れています。
ふたりはやがてこの事件の首謀者であると思われる傴僂の男(諸戸の父)の住む孤島へ乗り込んでいくのですが、ここはそういった不具者ばかりが住む島でした。
諸戸の父・丈五郎より先に財宝を見つけ、死んだ初代の親族へ渡し、そして犯人丈五郎を捕まえようとするのですが…。

読んでいると、ちょっと諸戸の心を弄び気味な蓑浦にむっとしてきます。
諸戸は自分が決して受け入れて貰えない事を知っていながらも、恐ろしい罪人である父を弾劾して罪に服させようと蓑浦に協力します。
(父親のしでかしたことの罪滅ぼしの気持ちもあり)
ところが蓑浦は、初代の敵と犯人探しをするのは当然として、そこで(諸戸は頭が良いので)知恵を借りるのも、まぁいいとして、初代に似た面立ちの倉に閉じ込められているシャム双生児の片割れの秀ちゃんのことをさっさと好きになってしまいます。
もう最後の方の諸戸は身も心もボロボロです。
ところが秀ちゃんも赤ん坊の頃にひとりの男の赤ちゃんと無理やりに作られたシャム双生児だったので、彼らをひとりひとりに戻す手術もそんなボロボロな諸戸さんにさせるのです。

最後の最後、「大団円」という章の最後に丈五郎ではなく本当の父母が判明した諸戸道雄の母から蓑浦へ宛てた手紙の一文で本作は終わります。
もう、この一文が泣けます
この一文のためだけでも、ぜひ読んで欲しいと思ってしまいます。


三十数年前に高階良子さんが本作をマンガ化した『ドクターGの島』
これを最近文庫で読んで、懐かしくなって原作である『孤島の鬼』を読み返したのでした。
高階さんの作品に触れると、主人公蓑浦が少女に変わっており、諸戸さんの正常な片思いに変わっています(同様にシャム双生児の性別も逆転)
三十数年前の「なかよし」でこのどぎつい同性愛はムリでしょうけれど、その他の設定といい、上手に改変してまとまっている作品だと思います。
コミック文庫を読んだ時、高階さんのあとがきに「『孤島の鬼』に大好きなセリフがあってそれを使いたくて入れたところ、その部分をカットされてしまった」とあります。

…たいへん気になります

改めて『孤島の鬼』を読み、これはこれで忠実に映像化されたら面白いなーと思うんですけど、やっぱりエログロすぎて無理でしょうか。
差別用語もバンバンですし。
諸戸道雄を単なる変態にならずに演じられる人がいないかもねー。
時代背景もあるので、蓑浦くんの名前も凄いですよ。
「蓑浦金之助」ですから!

天使の牙から(ジョナサン・キャロル/創元推理文庫)

2007-07-07 11:20:49 | 
レナードの友人ソフィーの兄が、旅行先のリゾート地で不思議なカップルと知り合う。
彼らはこの島へ行く直前、飛行機で知り合ったばかりだという。
しかも男のほう・マギャンの「夢」の話でふたりは恋に落ち、島へ来た。

ただしそれはロマンティックな夢ではない。
数年前に死んだ友達が夢に出てくる。
彼に死に関する質問をした。
答えを理解できれば良し。
理解できなければ目が覚めたとき体に恐ろしい傷がついている。
そしてマギャンはその夢を見続け、本人の意志と裏腹に質問を途中でやめることはできず、質問に失敗したときの傷はだんだん大きくなってゆく。

ソフィーの兄、ジェシーはそんな不思議な出会いをしてウィーンに戻ってきたあと、今度は自分が同じような夢を見始めるようになってしまった。
夢の中に現れた死人は、お前やマギャンを助けることができるのはアメリカにいる妹の友達、ワイアットだと言う。

『空に浮かぶ子供』にも出てきたかつての子供向けTVショーの人気者、ワイアット・レナードが今回の主人公。
『空に浮かぶ子供』でも癌に侵されているということで登場したが、今回も冒頭からかなり希望のない状況であるということがわかる。

ソフィーから兄の話を聞き、「一緒にウィーンへ来て欲しい」と頼まれるワイアット。
いちどは白血病を理由に断るのだが、結局一緒に行く羽目になる。

一方、もうひとりの主人公アーレン・フォード。
彼女は若くして映画女優として大成功。
しかしその後だんだん仕事は下り坂となり、ハリウッドスターという存在に疲れきって引退を決意する。
ウィーンで隠遁生活を始めた彼女はやがてひとりの報道写真家と恋に落ちる。

ワイアットの場合はマギャンの夢、そしてウィーンへ発つ前の白昼夢のような死神の登場など最初から不思議に満ちているが、アーレンの方は元大女優の地味でささやかだけれど満ちたりた生活が描かれている。

話が進んでいくにつれ、ワイアットは最初はジェシーに協力するのも気乗りしなかったが自分同じ夢を見て死神(ライフル自殺した友人)から質問の正解を増やすことで自分自身が他の人と違って元々直面していた「死」に対する真実を掴めるのではないかと思い始める。
もしそれができるならあと10年生きられるより価値があることかもしれない、と。
そしてアーレンは、報道写真家リーランドとの出会い、ふたりが親密になっていく様が親友への手紙という形を取って綿密に描かれる。
こちらにはまるでホラー要素もファンタジー要素も一切皆無。
恋愛小説のようである。

キャロルの小説にはよくある形。
この小説ってホラー?というくらいまったく何も出てこなくて主人公の生活が普通に描かれる(ただしそれも、別にこのままの形で終わっても面白いと思えるくらいに面白い)。
しかし、最後の1章、または数ページ、または数行ですべてが覆されて大爆発のように終わるのもまたキャロル。
なのでページが少なくなってくるとどうなってしまうのかだんだんドキドキしてくる。

ウィーンにいるワイアットとアーレンは(元々知り合いではある)それぞれの経験をしたうえで出会う。
ふたりは違う形で「絶望」を味わされるが…。

ネタバレするので細かくは書きませんがワイアットの絶望はショッキングではあるが、こういうやりくちは死神らしいともいえる。
アーレンのほうがそれまでの展開のせいもあり、よりひどく感じる。
この残酷な状況のまま読者は元の世界に放り出される形ではなく今回は終わるが、そのほうが読者側としてはホッとして終われます。
その希望が「希望…?」というくらいささやかなものでも。