私が最初にテルミンを始めたときの先生はやの雪さんであった。やのさんの奏法では、指を使うのはあくまで補助的手段で、手(腕)全体を使うことを推奨していた。たしか、その理由は指先の動きに頼ると演奏がチマチマしてしまうので、右手では、むしろダイナミックな表現を行うべき、というような説明であったかと思う(このあたり、既に記憶があいまいで、かなり不正確な表現かもしれない)。
やのさんのレッスンを継続せず、1年弱の先生無し生活を経て竹内さんの教室に入ったが、教室に入る前にフレンズオブテルミン東京支部での練習会に参加し、竹内先生の直接指導を含め都合3回ほど竹内メソッドによる指導を受けた。私は比較的すんなりと現在の奏法に移行できた。(「移行できた」というより、最初の奏法ではそれほど弾きこんでもいなかったのだと思う。)
移行したときの感想は「こっちのほうが(技術的に)簡単だ」ということであった。また、最終的にはカラダに覚えこませなければならないことに変わりは無いが、より「覚えこませやすい」と感じた。なぜならば「論理的な動き」だから、である。
しかし、だからといって私はやのさんの奏法を否定はしない。むしろ、やの奏法(と十把一からげにすることの是非はともかく、ここでは便宜的に指の動きを補助として基本的には腕全体の動きで音程をとっていく奏法のことをこう呼ぶことにする)での美しい演奏を驚嘆しつつ拝聴している。「そっちのほうが難しいのに」と思うからである。
後は好き嫌いの問題だろうか。これはいつも書いてる問題にまた行き当たってしまうが、テルミンを普通の音楽を演奏する普通の楽器として存続させたいのか、あるいは、特殊な普通でない楽器として発展させたいのか、の違いに帰結するのではないか。あるいはそういう意識や思いがなくとも、必然的にそういう選択をしていることになっているような気がする。
一番のポイントはポルタメントであろう。ポルタメントを自由に使える利点や美点を徹底的に活かしつくす、という行き方と、あえてなるべくポルタメントは使わず、ここぞというときにのみ使う、という行き方である。やの奏法による演奏で美しいと私が感ずるのはやの奏法であるにもかかわらず、ポルタメントを多用せず、瞬時に腕全体を次の音程ポジションに移動させている演奏である。ものすごい訓練が必要な演奏だと思うが、ときどきやってのけていらっしゃる方がいるのでびっくりする。それにひきかえ自分を振り返ると、カチカチしすぎていて情緒が足りない。と反省しつつ本日これまで。
論じている出発点と趣旨は異なるが、この記事は三毛子さんのBlog(みけこの詰め合わせ)記事に刺激を受けて書いたものである。
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テルミン自体もよくわかっていないのですが、色んな奏法があるんですねぇ。
4月の円盤、できたら伺って体験してみたいです。
貴重な情報ありがとうございます。
ここでのお話しのような高度なことではありませんが、マトチャンを入手したときはまだ竹内さんの演奏も見たことなかったので、まったくの自己流で手のひら全体を動かして音を出していました。それでもなんとなく音階は取れるので練習すればなんとかなるのかなぁと思いつつもそのまま飽きてしまいました。2/6に円盤で演奏を見せて頂き、またその後『テルミンを弾く』を読んでみて、竹内奏法ならば楽譜を見ながら演奏することができるんだと改めて気付きました(まだほとんどできませんが)。
近々FOTのお仲間へ入れさせて頂きます。よろしく。
先日、ワタクシの知り合いの方が「録音CD」を聴いてみたいと仰ったのでワタクシ選りすぐりの方々
(こち殿とO氏とH女史と自分)のをお聞かせしたところ、こち殿の演奏は丁寧だし、なかなか情感も出ていると評判が良かったですよ。
多分、ポルタメントが結構かかっていたからだと思うけれど、ワタクシはあの録音のこち殿の音はいつものこち殿と違ったように聞こえました。
ワタクシも師の仰るように「ポルタメント」はここぞと言うときの切り札として使用できるように精進いたしたいと思っている次第。頑張ろうね~!
島田@Purismさん
「クリテツのテルミン日記」によると、次回円盤でのFOT東京サロンは4/17(日)でした。
マトチャンさん
マトリョミンはたくさんの方といっしょに演奏できて、楽しいです。
マキさん
「選りすぐり」に入れていただき、ありがたき幸せ。
そういえば、師匠はどう思って聴いていたのでしょうか?。いいも悪いもなく、「固くなってましたか?」のお言葉だったので、やっぱりイマイチだったんでしょう。(ほんとにカチコチに固くなってました。)
今までも、簡単に弾けますか?とかをちょこちょこたずねられていたのですが、一度まとめて書いてみようかと思いました。 今日(4)を書いて、半分くらいまで来ました。
正直なところわたしは奏法を選べる人がうらやましいです、でも、自分がちゃんと弾けないことの言い訳ではなく、制限があってもこれから始めようとする人へのヒントになるように書きたいと思います。(^^)
三毛子さんが書いていらっしゃるように「ちゃんと」が何を指して、どの程度を言ってるかによるんでしょうけど。
かたちだけ出来てても、ピッチが緩かったり、微妙なコントロールが出来てなかったりする演奏のほうが、私としては
わが身を振り返りつつ
やのさんのCD”eyemoon”も聴いてみましたが、ポルタメントが強すぎて、私の好みには合いませんでした(かといって竹内さんの演奏もストイックな印象を受けるので、もっとはじけてもいいのにな、と思ったりもしますが。)
それにしても、手の動き、竹内さんとやのさんで全く違うんですね。やのさんのHPにある写真だと、手の広げ方が竹内さんと違うので、気にはなっていたんですが。またeyemoonを聞きなおしてみようかと思います。
ちなみに、わたしなんぞは、アーティキュレーション以前に、テルミンの前にずっと立ってひとつのピッチを安定させるのも厳しいので、高めの椅子に座って上体を安定させて練習しています。
e-windsいいですね。私も2度ほど触る機会がありましたが、いい音してますよね。
>もっとはじけてもいいのにな、
なるほど。でも、性格的に難しいでしょう。やのさんと竹内さんとの中間くらいだとちょうどいいかも。
上にコメント寄せていただいている三毛子さんも、お体の都合でイスに座って演奏される有名なイス派(?)奏者ですよ。