蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

妻問いは月を読む、万葉集に探る色恋 上

2023年04月22日 | 小説
序文:本稿は月の呼称への2の新規解釈をまとめています。1は「イザヨイ」は月ではなく人がいざよう 2 十六夜(イザヨイ月)から二十夜(更け待ち月)までの月呼称は「妻問い」行動を表す。万葉集から幾首かを引用している。新規とした背景は岩波古文体系、古語辞書などにあたっても上記2点は明瞭にされていないから。しかしながら部族民(蕃神)は古文には全くの素人なので、学術論文などですでに論ぜられていたら、新規を取り下げます、乞うご指摘。(2023年4月22日)

日は数え月を読む。さまよう月はいつも夜空に一人。ならば数えない、夕べには戻る月の明かりをひたすら人が読む。

♪熟田津に船乗りせむと月待てば潮ひもかないぬ今は漕ぎいでな♪

万葉集、額田王の作と伝わる。熟田津は今の愛媛県松山市。斉明帝新羅御親征に大兄王子を伴いに投錨した(661年Wikipedia)。月が西に傾いた、おっつけ引きが始まる。澪を睨む船頭の口が開いた「漕ぎ出せ」。船乗りらは櫓を手繰り寄せた。歓声のグーッオは強者共の出立の剣叩き、槍が朝のあかね空を抜いた。船頭は月読で潮の分かれ目を探った。
この歌は海の叙事詩である。谷の洛邑に住む者は月に何を語るのか。
月の出、月の明かり山端への差し込みを読む。まずは月の呼称から ;

朔(サク、ツイタチ、新月)、二日月(フツカヅキ、繊月センゲツ)、三日月(眉)、上弦(弓張り)、十三夜、小望月、望月(満月ミチツキ)と呼ばれる。いずれも月の形状を伝え月齢を報せる。ここまでは日が落ちても空に月が掛かる。その出は何時かに気を揉むことはない。
満月ミチツキを境にして月の出は日没後、呼称が様変わりする。


十五夜、望月、満月、フルムーン、Pleine Lune


満月の翌夜、それ以降 ;

十六夜(いざよい)、立ち待ち(17夜)、居待ち(18)、寝待ち(臥し待ち19)、更け待ち(20夜)と続く。人の行動「待つ」を齢に言い換えている。21、22夜は伝わらず、23夜以降は下弦、25夜は有明、30夜は晦日(ミソカ)と月の形状に戻る。人の動きと月を結びつける16,17,18,19,20夜のみ呼称は特殊で、形状で示す呼びかたより馴染みも深い。後ろ立ちの姿で女の齢を推量する視覚則と同一です。

(十六夜(いざよい)は地平から出る前の「月の思わせぶりな行動」との解釈が一般である。しかし部族民(蕃神)は「出をためらう」月の動作をどうしても想像できない。月にそのような感情はないし、昔の人もそのことなど知っている。「人」がいざようと考える。すると人の動作と月齢の一貫が見えてくる。なお岩波国語辞典に月呼称をあたるといざよい、立ち待ち月、寝待ち月が十五夜以降で採り上げられるが、他は見当たらない)
これら呼称を動作に擬えると ;

満月から一夜おいての十六夜、日没は18時25分、月の出は19時33分。(明石市4月、気象庁のサイトから)一時間余の差に隔たる。夕が暮れてもまだ月は見えない。日に見放され助けの月はまだ出ない。闇が大地を閉ざす。
「でも今夕は16夜おっつけ出てくる」。そのはずだから待つ人は一刻だけいざよう。いざようその場は軒下、せいぜい庭先。ちょっとの間だから門先にまで行くは、はしたないと笑われそうだ。それでも月よ「早く出ておくれと」軒下で人が「いざよう」。

十七夜「立ち待ち月」、月の出は20時27分、日没からは2時間、それだけ待ちが辛くなる。
月を待つ人は「今夕こそ待ち頃、それほどに遅く無い」と門脇に立つ。立ちながらしばし、東が明るみ「やっと明かりが差し込んだ、おっつけ来るだろうよ」明かりの希望に人が救われる。
何故、ヒトがこれほど月を待つのか、疑念が読者に湧いているかと。そこで一首 :

♪月読みの光に来ませあしひきの山きへなりて
                   遠からなくに♪
(万葉集4巻670湯原王と伝わる)
拙訳:月を読んで足下明かりが確かになってから来てくださいませ。山を越すとしても夜道も遠くはありませんから。

月の呼称と妻問い、万葉集を読む 上 の了
(2017年12月にGooBlogに投稿した稿を、2023年4月に加筆した)

追記 : 最近はチョー硬口の投稿ばかり(構造人類学なんか)で接近者数がジリ貧。柔らかめの原稿だって書けるのさ、そもそも俺ってナンパだから、こんな意気込みで投稿した(蕃神)

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