蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

神話学第4巻「裸の男」続き 6(終)

2020年03月26日 | 小説
(2020年3月26日)
前回(25日投稿)での留意点は

1 イシスの冒険神話は南米の鳥の巣あらし神話と比定出来る
2 アビ女神話はその「逆位」inversionである。
3 神話の「正位」筋立てに対して「逆位」神話が存在する。両者が合わさって分子的融合(ラセミ葡萄酸状況)の合体形が成立する。
4 逆位の神話はその根幹、筋立て、立ち位置が「神話対位法」の法規則の中で決定される。

これを解せば、

神話とは基準となる正位の構成(armature)がまず語り継がれ、いずれ逆位の筋立て(これもarmatureの一つ)が、あたかも音楽理論の対位法のごとく、しかるべく位置に創出される。両者はラセミ葡萄酸的な、鏡をはさむ両側、実体にたいする鏡像としての位置関係を形成し、鏡像は実像を左右逆転すると同じく、逆位armatureも正位神話の構成を逆転している。

ここには力学必然が内包される。それに迫る;

神話の構成図(写真)には


上下に三角形が配置される。上三角が思想であり、それを小筆はメタ神話と決めつけた。この上三角に逆位が生まれる。思想の逆位とは弁証法が語る作用、反作用でもある。デカルトは思考で宇宙を語ったが、この思考は常に提示、反論、統合の繰り返しでもあった(蜜蝋や夜道を渡る人の分析などエッセイから)。すなわち一の思考進行の中に分析的と弁証法的思考を取り交えている。
カントに至るとこの二思考形態を分離して明瞭に分析的、弁証法的に分けている。なおレヴィストロースは無神論者である故、カント主義を信奉していると本人が語っている。

写真:イシスの冒険とアビ女の構成比較。向かう方向が文化と反文化、要素が文化行為と反文化行為対比される。

提示に対する反提示にはなんら「分析的」真理はない。反位が存在するかしないか、その以前に反位を想定する。この進行過程がヒトの、ある意味ブッタ、プラトン以来の、伝統的思考法なのであろう。この「不確実」性を切り離した哲学者にスピノザが挙げられる。分析(演繹)思考一直線の思考は正しいのだろうが、人間味がない。彼の哲学が「窓のない部屋」とフランスで揶揄される背景は、「反位」を排除したからに他ならない。
窓を通して外を眺めても分析には役に立たないと彼が断定したのだ。

上三角に「反メタ神話」を想定すればそれは反文化となる。

反メタ神話は反文化が主題にかかげられ、それが支配する下三角の反神話には反火、反狩猟、反タバコ、反装飾、反密が挿話に取り上げられる。アビ女神話ではそれらは村落を焼き尽くす天の火(竈の火の反対)、食えない肉を狩る弓矢、野を跳梁する一本足化け物の持つパイプを取り上げ焼却する(この逸話はBlogには紹介していない)。ヒト心臓の首飾り、塩泉(人が夢中になる蜜ではなく、動物が取り付く)などが表出している。

アビ女神話はかく、イシスの冒険(鳥の巣あらし神話の一形式である)と正逆の進行である。手書き図を添えたが、上下三角形のラセミ葡萄酸的鏡像が上に添えられている。

手書きの図で神話のラセミスムを説明した。

この正位と逆位の分子融合構造をレヴィストロースはracemismeラセミスムとした(実はこれは確認されていないから、とりあえず部族民蕃神の提案とする)。

ここで日本書紀古事記でのラセミスムに思い当たる。

アマテラスは八百万の神を配下として高天原に農耕文化を導入しつつ国作りに励んだ。弟スサノオはこの高天原文化を破壊する。そもそもスサノオは「穢れ」から生まれ、母恋しと泣きやまない。出生と成長する過程で「反文化」の経緯が濃厚である。(母恋しは上下婚ハハコタワケの願望である)。成長した彼が高天原でしでかした罪状は;

畔放、畔を壊して田に張った水を放出させる。稲は枯れる。
溝埋、水田を満たす水の通り道を埋める。水田はひからびる。
串刺、田に串を刺す、自己の所有と主張して収穫を横領する。
糞戸、神社を排泄物で穢す

記紀には他にも挙げているが、それら全てが天津罪と総称される。この総称を「高天原で犯した」故に天津とする説明があるが、天津=文化でありその罪とは反文化行為である。

アマテラスとスサノオ関係をイシスとアビ女のそれと対照すれば、記紀にも神話ラセミスムが記録されていた。古代日本人は新大陸先住民と近似した過程(上下三角のラセミスム)で神話を語っていたのだ。

これは今のところ仮説の段階である。というかここ数日の思考過程で頭に浮いてきただけなので、今後アマテラスが高天原で何をしていたか(記紀には記述が少ない)を深耕し、部族民なりに記紀神話のラセミスムを証明したいと思う。了

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