国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

柔らかなフリューゲルホーンは、いつしか燃え上がり

2009年05月29日 | マスターの独り言(曲のこと)
聴いてみたくなる曲名がある。
「ブルースをそっと歌って」
何となく気になるタイトルではないか?
英語では『sing me softly of the blues』
よく直したものである。

そんな曲を取り上げたのが
トランペッター、アート・ファーマーで
アルバム名もズバリ『ブルースをそっと歌って』である。

アート・ファーマーのトランペットの響きは、
こもるようなやんわりとした感じである。
ぐっと引きつけるのではなく、包み込むような感覚だ。
このアルバムでは、トランペットではなく
フリューゲルホーンを使っていて、
ファーマーの元々持った柔らかさが更によく伝わってくる。

では件のタイトル曲はどうであろうか?
出だしはスティーブ・キューンの静かな切り口から始まるが、
すぐにファーマーがゆっくりと音をかぶせてくる。
それこそまさに「ブルース」の深みがある世界が広がる。
だが、リーダーのファーマーはどことなく違う。
ときおり先を急ぐかのように強い響きが聴ける。
2分30秒を越えるころから、ファーマーが燃え上がる。
他の楽器も一斉に盛り上げ、一気に頂点を迎える。

そこでキューンとソロが交代になるが、ベース音と共に
徐々に潮が引いていくかのように、一段抑えた演奏に変わる。
といってもキューンも盛り下がったわけではなく、
5分前後で力強く、エネルギッシュなソロを弾き、
後テーマへとつながっていく。
全体を引き締めているのは、ピート・ラロッカのドラムである。
静かな場所では適度なドラミングで、盛り立てるところは大いに盛り立てる。

柔らかなファーマーと硬めのキューン、
適度なリズムが組み合わさることで、
そっと聴くことのできないブルースの完成である。
ジャズメン達は燃えだしたら、そっとは歌ってくれないものなのだ。