ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

加速する大学の2極化と地方大学(その1)

2013年02月06日 | 高等教育

 一昨日、国立大学協会主催の臨時学長会議が学士会館で開かれ、文部科学省の皆さんから高等教育および科学技術関係の平成25年度予算案についての説明がありました。

 その会議の最後に今年度で退任される鳥取大学長の能勢隆之さんがご挨拶されたのですが、そのお言葉が強く印象に深く残りました。正確な文言ではありませんが、ご挨拶は、”国立大学協会はいろいろな大学から成り立っているが、ますます厳しい状況になり、皆でいっしょにやれる状況ではなくなってしまった”、というようなご主旨だったと思います。

 今までのブログでお話をした「大学改革実行プラン」、そして、今回の大学関係の予算案の説明から、基盤的経費の削減と重点化政策の強化により、国立大学の2極化が加速することは誰の目にも明らかですからね。今まで、一生懸命地方国立大学のレベルを高めようと尽力された学長のお立場として、僕にはそのお気持ちが痛いほどよくわかりました。

 今回の大学関係の予算案は、概ね「大学改革実行プラン」に沿った形となっています。前回のブログ「地方国立大学に想定される厳しいシナリオ」でも書かせていただきましたが、僕は「大学改革実行プラン」の中で、「リサーチ・ユニバーシティーの倍増」と「COC(Center of Community)構想」の二つに注目していました。「大学改革実行プラン」には、この二つの構想が書類としては同程度の重みで書かれているように感じられましたからね。それで、地方大学の学長経験者として、大きな期待を抱いていたのです。

 ところが、COC、つまり「地域再生・活性化の核となる大学の形成」の予算案では、概算要求時の42億円から大幅に削られて、国公私を通じて23億円となっており、それを40~50大学程度で分け合うということでした。もちろん、厳しい財政状況で新規の予算をつけていただいたことだけでもありがたいと思わねばならないのですが、果たしてこの額でCOCという名にふさわしい地域再生の中核となるセンターが形成できるのかどうか、僕はちょっと疑問に感じるところです。それに、他のおびただしい重点化予算に比べると、あまりにも見劣りのする予算規模ですね。

 たとえば、

「研究力強化プログラム」162億円(41億円増)(「研究大学強化促進費」64億円を含む)

「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」24年度補正20億円+98億円(8億円増)

「世界をリードする大学院の構築等」255億円(53億円増)、

「産学連携による国際科学イノベーション拠点(COI)の構築」24年度補正500億円+162億円(84億円増)(12拠点)

「産学連携による実用化研究開発の推進(大学に対する出資事業)」24年度補正1,200億円
(中核となる大学に出資を行い、産学連携等による実用化のための共同研究開発等を推進)

といった具合です。ここにあげた重点化予算以外にも数多くの重点化予算が組まれており、これらのほとんどは上位校に配分されるものと思われます。

 また、いわゆる「科研費」は、2318億円と、前年度よりも8億円増となっており、これは良かったと思っています。科研費は地方大学の研究者も申請できますからね。ただし、国立大学では上位10大学が約7割の科研費を獲得するという寡占状況です。

 国立大学の運営費交付金は、着実に削減され続けています。総額は1兆792億円で、昨年度に比較して149億円(1.36%)の減、および、給与臨時特例法等の影響で425億円の減、トータルで674億円の減となっています。

 このような「基盤的経費削減+重点化」政策が、2004年の国立大学法人化前後から毎年繰り返されることによって、大学間格差は人為的にどんどんと大きくなり、2極化が進んできました。

 1月16日のブログで法人化前夜に天野郁夫先生のお書きになった論説をご紹介しましたね。

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 『トップ30』は、これまでもトップ30 に類する特定の大学に重点的にお金を配るという政策は隠された形で実施されてきたが、それを公然化すること。
 
 ウィナー・テーク・オール(一人勝ち)状態となり、配分先の序列の固定化が起こる。
 無駄遣い⇒資金投入と研究アウトプットは必ずどこかで生産性が飽和
 限られた資源の再配分⇒いま持っている人から取り上げて、さらに持っている人のところに移すこと⇒不平等化、格差構造の強化⇒マジョリティーを占める大学の活性化が失われる。
 
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 この、天野先生の予言どおりに、現在、日本の大学(国立大学)の2極化が進行中ということでしょう。

  前のブログでもお話しましたように、「大学改革実行プラン」では、学長には各大学の強みのある「学部・学科・専攻」への学内配分の重点化が求められています。
 
「強み」とはトップレベルの「学部・学科・専攻」ということです。これは地方大学にとっては厳しい要求です。つまり、プランが求めているは、「学部・学科・専攻」単位でトップレベルでないといけないと言っており、これが“みそ”ですね。地方大学にもある程度の数のトップレベルの研究者がいますが、「学部・学科・専攻」単位でトップレベルにするとなると、これはとたんにむずかしくなるのです。各学部等に若干のトップレベルの研究者が散らばっているという状況では、大学は救えないのです。
 

 「強み」をもつ地方大学、つまり、トップレベルの「学部、学科、専攻」を持つ地方大学は、学長が重点配分をすれば、国から予算が配分され、部分的に助かる可能性はあります。あるいは、そうでない大学でも、各学部等に散らばっているトップレベルの研究者を集めて、「学部・学科・専攻」単位としてトップレベルと言えるような組織再編成や、それを実現できるような他大学との連携・統合をすることができれば、かなりの身を切る必要があるかもしれませんが、助かる可能性があると思います。

 しかし、そのような「強み」を持たない、あるいは持てない大学は、今後急速に劣化し、研究する余力が無くなって「専門学校化」が進むであろうことを、前回のブログで書きました。

 今回の平成25年度予算案を見て、概ね僕のシナリオ通りに進むであろうことを、さらに確信した次第です。

 鳥取大学長の能勢先生のご挨拶の意味は、大学間の2極化が加速することにより、国立大学間での利害の違いはますます明確となって、国立大学協会において、もはや上位校と下位校とがいっしょになって政策提言をすることはできない状況になってしまった、ということでしょう。

 国立大学協会の委員会等では、特に一生懸命がんばっている地方大学の学長さんから、大学改革実行プランの「リサーチ・ユニバーシティ」という考え方そのものに対して反対意見が強く出たということを聞いています。地方大学でも世界と戦える研究をしてきたし、しないといけない。リサーチ・ユニバーシティーという考え方で、一握りの上位校だけを重点化する政策では、上位校を目指してがんばってきた地方大学の機能低下を来し、日本全体としての国際競争力は向上できない、というご主張でしょう。

 僕のブログに寄せられたコメントには、大学の2極化の是非(より正確に言えば、従来からあった大きな大学間格差をいっそう大きくすること)について賛否両論がありますね。

 しかし、多少の反対意見があったとしても、わが国の大学の重点化政策の潮流は変わらず、2極化はいっそう進むことになると僕は見ています。

 そのような流れを変えることが極めて困難な潮流の中で、地方国立大学はどう対応するのか?果たして、思い切った組織再編や連携・統合により、各大学や学部等に散らばっているトップレベルの研究者を集めて、部分的にでも世界と戦える研究・教育拠点や産学連携拠点を形成することができるのか?

 例の「国立大学改革促進経費」(138億円)に申請されている各大学からの改革案に注目したいと思います。

(このブログは豊田個人の感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 

 


 

 

 

 

コメント (1)
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