ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

一昨日の「衆議院議員河野太郎氏への公開討論記事」へのコメントについてリアップ

2016年12月22日 | 科学

昨日の僕のブログの調子がおかしくて、編集画面の一部しかアップできない現象が生じてしまいました。今日、改めてアップします。

一昨日(2016年12月20日)の僕のブログ、「衆議院議員河野太郎氏への公開討論記事修正版:研究関係のデータの読み方について」に対して、さっそくコメントをいただきましたので、とりあえずお答えをさせていただきます。

 島永さんという方からの二つのコメントをいただきました。二つとも、的を射たコメントであり、たいへんありがとうございます。

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コメント1:現場の研究者と言われますが… (島永)

 2016-12-21 14:32:21

 拝見したかぎりPIクラスの方の意見がほとんどで、かなりのバイアスがかかっているのではないでしょうか?ポスドク・助教クラスからみた問題はまたまったく異なる可能性があると思います。

コメント2:イノベーション? (島永)

 2016-12-21 14:37:16

 もう一点なんのデータも示されていない議論が、大学の研究や論文でイノベーションが起こってGDPが増加する、といういつもの「お話」です。ここを論証しない限り、いくら論文数を訴えても無駄です。個人的には、因果関係は逆ではないかと思います。GDPが増加(景気が好転)すれば論文も増加する、というのが正しいのではないでしょうか。

 

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 <コメント1への回答>

 まず、コメント1についてです。島永さんのご指摘の箇所は、前回のブログの「NISTEP定点調査検索」の「基礎研究」というキーワードで検索した自由記載のデータについて、コメントをおっしゃっているものと推察します。これは僕の説明不足であり、たいへんご迷惑をおかけしました。下に再掲しましたが、これは、あまりにたくさんの自由記載が出てまいりますので、そのうちのごくごく一部をサンプルとしてお示ししたもので、自由記載の文章も一部分しか読めず、また、職位が上位クラスの研究者の意見だけのところしがコピーされていません。実はこのリストの下には研究員・助教クラスのご意見がたくさんあるのです。

 それで、今回は、「研究員、助教クラス」の皆さんの「基礎研究」に対する自由記載を検索してみました。「基礎研究」だけ検索すると数が多くなるので、「基礎研究×予算」で検索した結果を下に示します。

 

 いかがでしょうか?さまざまなご意見がありますが、基礎研究がゆとりをもって行えない現場の状況が伝わってくるのではないでしょうか?彼らの何人かは、運営費交付金の削減が問題であり、基礎研究は、選択と集中ではなく比較的少額でもいいので幅広く配分してほしいと訴えています。

 さて、「基礎研究」が重要かどうか考える上で、民間企業の研究者が「基礎研究」をどう考えているかということも参考になります。以下に、上と同じ検索方法で民間企業の研究者の自由記載をお示ししておきます。職位は上層部が多いですが、民間企業の場合は、長年研究開発部門で研究をやってこられた責任者の方々の「基礎研究」に対する考え方は、非常に参考になると考えます。若手の研究者には、結果がでるまでに長期間を要する「基礎研究」の重要性は、ご自身の経験からは、まだ実感しにくいのではないかと思われるからです。

 

 いかがでしょうか?事業に結び付く研究の大切さを主張される方もおられ、また、大学に対して厳しい意見もありますが、僕は、大学における「基礎研究」の重要性をおっしゃる民間企業の方々の多いことに、ちょっとびっくりしました。

たとえば・・・

 **********************

「基礎研究は民間企業では難しく、大学や公的研究機関だからこそできるものと思っております。大学や公的研究機関の基礎研究は科学立国を推進するには必要不可欠なものであるという認識を共通化していく必要があるように思います。」

「過度の選択と集中の結果である大型研究プロジェクトに予算が集中して、地道な基礎研究に研究費がまわってこない。多様な基礎研究に基盤B、Cクラスの額でいいから沢山採択出来るように予算を割くべきである。独創的なハイリスクの研究テーマには、最低必要額の研究費を成果が見える期間まである程度長期間与えて進展をみるという選択枝があると思う。進展が見え始めたら増額、見込みがなかったら打ち切る。」

「純粋な基礎研究と実用化を視野に入れた基礎研究、実用化研究の配分をバランスよく考える必要がある。出口の議論が活発だが、純粋な基礎研究の予算は減らすべきではない。」

「企業側としては、大学に対し、即刻役に立つ応用研究などよりも、長期的な基礎研究を充実させること(また、それを通じて多様な熟考型人材を育成すること)をむしろ期待する。その点について、近年の科学技術予算はいささか短期成果を求めすぎるきらいを感じる。」

「現在の基礎研究の成果は、過去20年-40年前のものと考えます。応用研究はとても重要。しかし基礎研究をしつこくやることもそれと同じくらい重要。限られた予算で何にお金をつけるかは、日本国の将来や安全保障ともかかわる非常に重要な仕事であり将来を見つめた目利き能力が重要となる。」

「企業の真似事研究が横行しており、予算を獲得している現状があり、由々しき問題と考える。例えば、医薬品の研究開発では創薬研究と称して医薬品の候補化合物の創出を行っている学の研究者もいる。これは明らかに産の研究であり、将来のイノベーションの源とはなりえない。」

**********************

 ノーベル賞学者が基礎研究の重要性を訴えたということが、河野太郎先生の今回の一連のブログのきっかけになっていると思われますが、実は、民間の方々も大学における基礎研究の重要性を訴えておられるのです。

 ただし、国の財政が困難になり、予算配分が社会保障費の伸びを抑えることと天秤にかけられている状況では、「基礎研究が重要だ」というだけでは、政策決定者や国民を納得させられない状況になっていることも確かだと思います。国民に「基礎研究が何のために必要か?」ということを説明して、納得してもらわなくてはなりません。

 その際「リニアモデルの終焉」ということが言われています。参考までに2009年に科学技術振興機構の研究開発戦略センターによる「研究開発戦略策定のためのハンドブック」から、引用しておきます。

 「リニアモデル」あるいは「基礎研究至上論」は否定され、そして、リニアモデルではないStep & Loopモデルというものが提唱されています。

 

  このモデルでは、「基礎研究」そのものを否定しているものではなく、むしろ、出口を考えない、パラダイム・シフトを起こせるような、独創的な基礎研究を求めています。そして、リニアではなく、どのステップにあっても、より発見・科学的知識のステップに近いステップに戻るループが必ず存在することが重要としています。

 出口を考えない基礎研究の多くは失敗する、あるいは何の役に立つかわからないことも多いわけですが、しかし、それが確率的に国民にとって新たな価値を生み出さないといけない。そのために、各ステップ、つまり基礎研究から社会実装の各段階で、より基礎的な研究とより応用的な研究を行き来しつつ、世の中に役に立つ確率を高める努力をしないといけない、ということでしょう。

 僕も、基本的にはこの考え方に賛成です。個人的には、例えば少子化対策に結び付くような基礎研究、応用研究をしていただいて、早く社会実装までつなげていただきたい。基礎研究か応用研究か、どちらが大切かなどと議論している間に、日本民族が滅んでしまいます。

 

<コメント2への回答>

コメント2は論文数とGDPの因果関係に関する疑問でした。このコメントも的を射ています。

以下に僕が論文数とGDPの間に、因果関係があるのではないかと推測するもとになったデータをお示しします。

 昨日のブログでもご紹介した僕の「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究 ~国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として~」の「5研究教育指標と経済成長について」におけるデータです。

http://www.janu.jp/report/files/2014-seisakukenkyujo-uneihi-all.pdf

以上のような先行研究および僕自身が相関分析したデータから、「GDP増➡論文数増」とともに「論文数増➡GDP増」の両方がありうると考えており、仮説としてはそれが循環するモデルを考えています。

仮に 「論文数増➡GDP増」の直線回帰が成立するとしますと、回帰係数、決定係数からの単純な計算では、日本の論文数の産生をほぼカバーしている大学を中心とした約1兆円の研究費をさらに1兆円増やして2倍にすれば、GDPは約26兆円増えるという計算になります。税収がその約10分の1とすれば、2.6兆円増えることになり、研究開発に投資をした1兆円は回収されて、しかもおつりがくる計算になります。

GDPは交絡する因子も多いので、断定することは躊躇されますが、データ上はこのようになります。

ただし、上に書きましたように、たとえばStep & Loopモデルなど、GDPの増や社会に役に立つことを確率的に高めるような基礎研究から社会実装までの一連の流れを俯瞰しつつ、各段階への資源投入のバランスを考えることが必要であると考えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (12)
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昨日の「衆議院議員河野太郎氏への公開討論記事」へのコメントについて

2016年12月22日 | 科学
昨日(2016年12月20日)の僕のブログ、「衆議院議員河野太郎氏への公開討論記事修正版:研究関係のデータの読み方について」に対して、さっそくコメントをいただきましたので、とりあえずお答えをさせていただきます。

島永さんという方からの二つのコメントをいただきました。二つとも、的を射たコメントであり、たいへんありがとうございます。

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コメント1:現場の研究者と言われますが… (島永)
 2016-12-21 14:32:21
 拝見したかぎりPIクラスの方の意見がほとんどで、かなりのバイアスがかかっているのではないでしょうか?ポスドク・助教クラスからみた問題はまたまったく異なる可能性があると思います。
コメント2:イノベーション? (島永)
 2016-12-21 14:37:16
 もう一点なんのデータも示されていない議論が、大学の研究や論文でイノベーションが起こってGDPが増加する、といういつもの「お話」です。ここを論証しない限り、いくら論文数を訴えても無駄です。個人的には、因果関係は逆ではないかと思います。GDPが増加(景気が好転)すれば論文も増加する、というのが正しいのではないでしょうか。
 
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<コメント1への回答>
 
まず、コメント1についてです。島永さんのご指摘の箇所は、前回のブログの「NISTEP定点調査検索」の「基礎研究」というキーワードで検索した自由記載のデータについて、コメントをおっしゃっているものと推察します。これは僕の説明不足であり、たいへんご迷惑をおかけしました。下に再掲しましたが、これは、あまりにたくさんの自由記載が出てまいりますので、そのうちのごくごく一部をサンプルとしてお示ししたもので、自由記載の文章も一部分しか読めず、また、職位が上位クラスの研究者の意見だけのところしがコピーされていません。実はこのリストの下には研究員・助教クラスのご意見がたくさんあるのです。
 
 
それで、今回は、「研究員、助教クラス」の皆さんの「基礎研究」に対する自由記載を検索してみました。「基礎研究」だけ検索すると結構数が多くなるので、「基礎研究×予算」で検索した結果を下に示します。
 
いかがでしょうか?さまざまなご意見がありますが、基礎研究がゆとりをもって行えない状況が伝わってくるのではないでしょうか?彼らの何人かは、運営費交付金の削減が問題であり、基礎研究は、選択と集中ではなく比較的少額でもいいので幅広く配分してほしいと訴えています。
 
さて、「基礎研究」が重要かどうか考える上で、民間企業の研究者が「基礎研究」をどう考えているかということも参考になります。以下に、上と同じ検索方法で民間企業の研究者の自由記載をお示ししておきます。職位は上層部が多いですが、民間企業の場合は、長年研究開発部門で研究をやってこられた責任者の方々の「基礎研究」に対する考え方は、非常に参考になると考えます。若手の研究者には、結果がでるまでに長期間を要する「基礎研究」の重要性は、ご自身の経験からは、まだ実感しにくいのではないかと思われるからです。
 
 
いかがでしょうか?事業に結び付く研究の大切さを主張される方もおられ、また、大学に対して厳しい意見もありますが、僕は、大学における「基礎研究」の重要性をおっしゃる民間企業の方々の多いことに、ちょっとびっくりしました。
 
たとえば・・・
 
「基礎研究は民間企業では難しく、大学や公的研究機関だからこそできるものと思っております。大学や公的研究機関の基礎研究は科学立国を推進するには必要不可欠なものであるという認識を共通化していく必要があるように思います。」
 
「過度の選択と集中の結果である大型研究プロジェクトに予算が集中して、地道な基礎研究に研究費がまわってこない。多様な基礎研究に基盤B、Cクラスの額でいいから沢山採択出来るように予算を割くべきである。独創的なハイリスクの研究テーマには、最低必要額の研究費を成果が見える期間まである程度長期間与えて進展をみるという選択枝があると思う。進展が見え始めたら増額、見込みがなかったら打ち切る。」
 
「純粋な基礎研究と実用化を視野に入れた基礎研究、実用化研究の配分をバランスよく考える必要がある。出口の議論が活発だが、純粋な基礎研究の予算は減らすべきではない。」
 
「企業側としては、大学に対し、即刻役に立つ応用研究などよりも、長期的な基礎研究を充実させること(また、それを通じて多様な熟考型人材を育成すること)をむしろ期待する。その点について、近年の科学技術予算はいささか短期成果を求めすぎるきらいを感じる。」
 
「現在の基礎研究の成果は、過去20年-40年前のものと考えます。応用研究はとても重要。しかし基礎研究をしつこくやることもそれと同じくらい重要。限られた予算で何にお金をつけるかは、日本国の将来や安全保障ともかかわる非常に重要な仕事であり将来を見つめた目利き能力が重要となる。」
 
「企業の真似事研究が横行しており、予算を獲得している現状があり、由々しき問題と考える。例えば、医薬品の研究開発では創薬研究と称して医薬品の候補化合物の創出を行っている学の研究者もいる。これは明らかに産の研究であり、将来のイノベーションの源とはなりえない。」
 
ノーベル賞学者が基礎研究の重要性を訴えたということが、河野太郎先生の今回の一連のブログのきっかけになっていると思われますが、実は、民間の方々も大学における基礎研究の重要性を訴えておられるのです。
 
 
ただし、国の財政が困難になり、予算が社会保障費の伸びを抑えることと天秤にかけられている状況では、「基礎研究が重要だ」というだけでは、政策決定者や国民を納得させられない状況になっていることも確かだと思います。国民に「基礎研究が何のために必要か?」ということを説明して、納得してもらわなくてはなりません。
 
その際「リニアモデルの終焉」ということが言われています。参考までに2009年に科学技術振興機構の研究開発戦略センターによる「研究開発戦略策定のためのハンドブック」から、引用しておきます。
 
 
「リニアモデル」あるいは「基礎研究至上論」は終焉し、そして、リニアモデルではないStep & Loopモデルというものが提唱されています。
 
 
 
  このモデルでは、「基礎研究」そのものを否定しているものではなく、むしろ、出口を考えない、パラダイム・シフトを起こせるような、独創的な基礎研究を求めています。そして、リニアではなく、どのステップにあっても、より発見・科学的知識のステップに近いステップに戻るループが必ず存在することが重要としています。
 
 出口を考えない基礎研究は失敗をすることも多いわけですが、しかし、それが確率的に国民にとって新たな価値を生み出さないといけない。そのために、各ステップで確率を高める努力をしないといけない、ということでしょう。僕も、基本的にはこの考えに賛成です。
 
 
コメント (8)
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