肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『ゆれる』、観ました。

2007-03-09 20:10:54 | 映画(や行)






監督:西川美和
出演:オダギリジョー, 香川照之

 『ゆれる』、観ました。
東京で写真家として成功した猛は母の一周忌で久しぶりに帰郷し、実家に残り
父親と暮らしている兄の稔、幼なじみの智恵子との3人で近くの渓谷に向かう。
懐かしい場所にはしゃぐ稔。稔のいない所で、猛と一緒に東京へ行くと言い出す
智恵子。だが渓谷にかかった吊り橋から流れの激しい渓流へ、智恵子が落下して
しまう。その時そばにいたのは、稔ひとりだった‥‥。
 これまでにも何人かの女性監督はいたし、その中で「傑作」と呼ばれる映画も
いくつかあった。が、そのほとんどが“女性の気持ちを代弁するもの”であったり、
あるいは、女性特有の感性(ポップさとか、アンニュイさ)を前面に押し出した、
およそ“正統派”とは言い難いものだったと思うんだ。だけど、この西川美和って
監督さんには驚いた。ストイックにテーマを見据え、正面から描き切るスタイルは
映画の王道を往く。性格から生き方まで、全てにおいて正反対にある兄弟の絆を
軸に、息苦しいほどの緊張感が映画全体を支配して、その重厚な人間ドラマに
圧倒される。中でも、凄みすら感じる脚本は、近年の日本映画では屈指の出来ばえ
ではあるまいか。抑制され、平静を装う感情とは対照的に、良心の呵責(かしゃく)と
自責の念の狭間で“ゆれる”兄と弟…。鋭く研ぎ澄まされた台詞が、互いの嘘を
見抜き、本性を暴く。かばえばかばうほど、相手を傷付け、自身がまたそれ以上に
傷付いていく。「言葉」とはこれほどまでに痛く、これほどまでに容赦なく、人を殺す
ものだと、ボクは今日のこのときをもって初めて知った。
 さて、感心するのは、それ(高度な文学表現)だけじゃない、緻密に計算され
尽くした“物語構成”、それから”構図の素晴らしさ”も見逃せない。例えば、映画
序盤、主人公一行の乗せた車が渓谷に向かう最中…、楽しいはずの車内は、
こともあろうに“暗いトンネル”の場面で始まる。それは観る側に、彼らの近い
将来に“不吉”が待ち受けていることを予感させ、3人の関係が表向きとは違う、
複雑な関係であることを象徴する。一方、それ以外でも本作では“対比の構図”が
数多く見受けられるのが特徴的だ。トンネルを抜けた一行が渓谷に到着すると、
兄ははしゃぎ、弟とかつての恋人は神妙な面持ちで会話を始める。その、2人の
“重たい会話”に、遠くではしゃぐ兄の“明るい声”をかぶせることで、その“重さ”が
一層強調される“演出の妙”。更に、映画終盤、ファミレスに一人取り残された
主人公の横を見れば、さっきまで賑やかに騒いでいた子供が忘れた“赤い風船”が
浮かんでいる。このあたりも“彼の孤独”を強調させる“対比の構図”が効果的に
使われている。いや、そもそも、よく考えてみれば、この映画自体が、自由だが
自堕落な弟と、実直だが狭い社会に生きる兄を比べた“対比の物語”では
あるまいか。吊り橋を正面に見据え、谷を隔たり、左右に分かれた地は“兄の岸”と
“弟の岸”。その両岸に架かる、今にも切れて落ちそうな細い吊り橋は“兄弟の絆”
だろう。その橋を渡り、先へ先へと進んでしまった弟を、かつての恋人が追っていく。
それを必死に引き止めようとする“兄の叫び”が、観ているボクの胸に突き刺さる。
兄にとっても…、かつての恋人にとっても…、すでに弟は“声も届かぬほど”
遠い場所に行ってしまったのに。その中で、弟だけは知っていたのかもしれない。
もう戻れない、あの頃のようには…。それほどまでに醜く薄汚れてしまった“自分
自身の正体”に。



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