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小池昌代「裁縫師」

2011-10-12 | 小説

広大なお屋敷の鬱蒼とした庭の離れに、アトリエを構えるひとりの裁縫師。彼は、富豪のお抱えとも、息子だとも、愛人だとも噂されていた。ある日、9歳の「わたし」は、自分の服をあつらえてもらうために、母に連れられて裁縫師のもとを訪れる。採寸され、数日後にひとりアトリエを訪れた「わたし」だったが…。禁断の恋に身を任せる幼女を描いた「裁縫師」ほか、詩情とエロティシズムあふれる新感覚短篇5篇を収めた珠玉の小説集

裁縫師、女神、空港、左腕、野ばらの短編5編

「私」。主人公の回想で語られる文章である。

心の中の記憶というものは、良いものも、不快なものも、不思議なことも。自分という躰を通した感覚を。言葉に置き換えていくとき。真実かユメだったか。すべてが混沌としつつも、実感として強く、心にこもった想いと共に現れてくる。

あり得ない話であっても。誰しもが、夢で見たこと、現実に起こったこと。願いや理想、また、不安や恐怖。後悔など、どこかに自分と重ねた記憶が、よぎるかもしれない。

比較的読みやすい「空港」は、地方都市から東京で暮らす独り身の女性が。「待つ」という。事の感覚を久々に経験する。

~待つ人があるということが、いつもよりも、自信のある人間にしている。二時間と声を上げたものの、内心、少しも深いではなかった。むしろ、待つ理由が強化されのばされたことに、不思議な喜びを感じていた。待つ。出迎えるよりも、待つことが今日の本当の目的かもしれなかった。

~例え誰かを憎むということがあっても、誰かとかかわりあうことなしに、人はいきいきと生きられないものだ。そしてどんなことでも良いから、他人のために何かをしたいと思ったが、それは別に、道徳的な理由方ではなく、自分のために願った事であった。自分が生きるためにこそ、「他人のため」という名目が必要なのであった。

結末も、苦笑することになるのだが、このストーリーの組み立ても、そうそう人生は思うようにいかないわけで、なかなか…と思わせる。

かつて主人公がつき合っていた男のように、これから飛び立つ飛行機ってわくわくするし。

空港で待つ人の光景などを客観的に観察しつつ、想像するのも。大好きで。

ふいに、空港にいきたくなってしまいました。

 



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