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アーサー・ビナード詩集「ゴミの日」

2008-09-17 | 詩、短歌、俳句

おりたたみ

人間の心の中には 埋め立て処分場がない。

ゴミの焼却炉もなく、集積所すらない。

たえられないほどイヤなことがあっても、すてることはできない。

どこか暗いすみっこのほうへ うっちゃってしまえば、

不法投棄としてあとで、かならずかえされる。

 

イヤなことがたまるいっぽう…だが、落ち着いて点検して

ひとつひとつのイヤなことを ひっくり返し、くまなくさわれば

小さくできることがわかる。

折りたたみの椅子と同じで その肝心な関節をみつけ、

押すか 引くか、たたくかで 平たく、収納しやすくなる。

 

秋の晴れた日、心のクローゼットから

折りたたんでおいたイヤなことごとを

出して庭先にならべ 虫干しにするといい

 

ある人が山をながめ、中腹の森を伐採すれば

その材でいくら儲かるか 計算しはじめる。

山の草木は 芽を出し続ける。

 

ある人が山をながめ、ゲレンデとリフトと

リゾートホテルと莫大な利益を 想像する。

山は熊の冬眠の部屋を用意する。

 

ある人が山をながめ、木々の色と岩の輪郭、

陽ざしのえがく濃淡を 読みとこうとする。

山は静止して じっとしていない。

 

ながめる者を えり好みせず、

山はだれの 目にもある。

 

かげ

水面にうつった自分の影が だんだんと重くなっていく。

 

朝の湖に揺れるさかさの もうひとりのぼくは

最初は軽く、一緒に 櫓をこいですいすい進む。

 

だが、桟橋へ帰る夕暮れの ぼくの影は、沈みかけて

アンカーを曳いているよう。

 

桟橋に近づけば、水面は あちこちかすかに光って

瞬時にまた静まり、それは ミズズマシのゆきかう波だ

 

彼らは、自分の影が 重くないのか…

夕暮れでもすいすいと ミズズマシのかげは進む。

 



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