瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。芝居とミステリが融合し、まったく新しい恩田ミステリの幕が開く…。
自殺? それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。
はあぁ~。女優、芝居、脚本家、男と女、デジャビュ…
恩田パワー満載。
あの、少し、展開に懲りすぎてきて、頭をフル回転にして、微妙に変化していく映像の数々、検証に…。
何度も、思考を巡りはらなければならない…。
要所に引用されたシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」「真夏の夜の夢」
ギブソンの「奇跡の人」、チェーホフ「桜の園」などの戯曲を、演じる場面も効果的で、このサスペンス小説を格調高く彩ります。
「偽証」…検察側の検証
人間は嘘をつく。保身のため、見栄のため、プライドのため。無関心、嫉妬、懐柔、慈悲、常識、気まぐれ。どんなモノにだって嘘をつく理由になる。むしろ、嘘をつかない理由を探す方が難しいくらいだ。
人が理解してくれることが、何よりも辛いときがある。
それが、好きな人であるならなおさら。うまくいかないものだわ。
理解できるからその人を好きになることもあるし、
理解できないからその人を好きになることもある。
人の心は不思議よね。
美しい夕暮れ。ちょっぴり冷たい風が、遠いところから吹いてくる。
琵琶湖の湖畔の旅館、微かに霞んだ水平線のむこうが、赤く染まって、それが少しずつ透き通って、夜になるのを舞っている。
本当に親しい人、安心しておつきあいできる人たちの間では、言葉がいらない瞬間がある。
湖の水面のように、みんなが同じ高さで心が凪いでいて、満ち足りた気分だった。
夜が忍び寄って、湖と空の色を変えていく。
その瞬間を見逃すのが惜しくって、ひたすら水平線を眺めていた。
あの時の満足感、幸福感。
幸せってああいうものかもしれない。成功したとか、賞を貰ったとか、結婚したとか、そういう喜びとは違って、あれがあたしの中では、幸せな瞬間としてここに焼き付いているの。
あの瞬間だけは、あたしにも、誰にも一生消せはしない。
虚構の中だって感情の動きはある。焼くのぶつかり合いでうまれてくるものがあるんだから、それは虚構の中であれ、本物の感情なのよね。
それって、現実とたいして違わない。
だって、あたしたちは、普段の生活でも演技しているんだもの。
自分を演じていない人間は、この世にいないと思う。
自分に与えられた役割を意識して、家の中でも、会社でも、社会でも、望まれた姿を演じている。だから、あたしたち役者は、あなたたちでもあるのよ。あたしたちの仕事は決して特殊なものじゃない。あなたたちがやっていることを具体化して、シェイクスピアのお芝居のように、あなた達の中で真実を確認してもらっているの。
そうは思わない?
あなたもそうでしょ?
あなたは、あたしたちがやったことを再現しようとしている。あたしたちに真実を確認させたがっている。そして、それと同時にあなたの中の真実も確認したがっている。
ねえ、そうでしょう?それがあなたのお仕事なんじゃないの?