玉川上水みどりといきもの会議

玉川上水の自然を生物多様性の観点でとらえ、そのよりよいあり方を模索し、発信します

子供観察会 ー 手応えのあること

2017-02-10 11:42:06 | 生きもの調べ

 玉川上水で観察会をして来ました。解説をしながら、背景の違う人から質問をもらって改めて考えたり、調べ直したりするのはよい経験になりました。
 そうした中でももっとも印象に残ったのは、子供を相手におこなった観察会「タヌキのうんちをさがしてみよう」でした。その記録は紹介しましたが、これは私にとって文字通り新鮮な驚きの連続でした。
 私はふつうの観察会ではとくに準備はせず、およその課題を考え、季節にふさわしい観察対象を確認する程度で会に臨みますが、子供を相手にするときはいつになく準備をしました。まず子供たちがリラックスするように、タヌキのお面を作って、「みなさん、こんにちは」と言えばよいのではないかと思い、紙粘土に絵の具を塗ってお面を作りました。それから何を見せるかを考え、もちろんタメフンは紹介するのですが、それだけでなく、実際に糞を拾うところを見せ、それをポリ袋に入れるが、その袋にデータを書くことを子供にさせました。それから、糞の水洗も子供に見せようと思い、ふるいと歯ブラシを持参しました。またこれまで検出して保管している、タヌキの糞から出てきた種子や輪ゴムなどを持参し、ルーペで見てもらうことにしました。
 糞をみて「汚い」、「汚いから見たくない」という子供がいても不思議ではありません。でも実際にはどの子も目を輝かせて見ていました。
 またタメフン場に行くとき、歩きやすい道を歩いてもよかったのですが、意図的に笹ヤブを突き進むことにしました。あとで写真を見ると子供の表情は嬉しそうでした。
 でも、糞の水洗は失敗だったと思いました。去年の2月の糞にはギンナンがたくさん入っており、ムクノキの種子が出てきたので、1月の糞にもなんらかの種子が出てきて、それが何の木の種子であるかを教えたら興味を持ってくれると思っていました。また、もし種子が出てこないときは、哺乳類の毛か鳥類の羽毛、あるいは昆虫の体の一部などが出てくることが多いので、そういうものが出てくるかもしれないと思っていました。
 ところがその日、2つの糞を水洗しましたが、うまくいきませんでした。まず乾燥していたために糞がカチカチに固まっていて、水を流してもなかなかほぐれてくれないのです。しばらく歯ブラシでごしごしこすりましたが、なかなかほぐれず、かなり力を入れました。少し時間が経ったので子供も退屈しているように感じました。気がつくとズボンの膝の部分が濡れていました。何か出てこないかなと、メガネをはずして何度か覗き込みましたが、イネ科の種子が少しあるだけで、動物の毛なども出てきませんでした。そういう訳でこれはうまくいかなかったと思っていました。そして
「ま、こういうこともあるだろう」
と自分に言い聞かせました。
 ところが、あとで感想を書いてもらったら、意外なことが書いてありました。幼稚園くらいの子供が私が糞を洗う行動をおもしろそうだと感じたらしく。真似をしていたそうです。それから私が膝を濡らしながら、ふるいを覗き込んでいた、そのこと自体が子供に印象を残したというのです。
 それから、風邪気味だった男の子はカメラに写ったタヌキの写真がパソコン画面に映しだされるのを見て「風邪がなおったみたい」と言っていたそうです。別の子は、タヌキが輪ゴムなどを食べていたことにお驚いたようです。野生動物がどういう生き方をしているかを考えたことのない子供たちは、動物もきれいに洗われたような清潔な食べ物を食べていると思っていたのでしょう。皿に乗ったものを食べるとは思っていないでしょうが、せいぜい畑のトマトとか、イチゴのような食べ物を食べると思っていたのかもしれません。だから、残飯のような不潔なものを食べるというのはショッキングなことだったのかもしれません。
 私は半生を生き物のことを調べることに費やしてきましたが、その根底には、子供の頃から生きものが好きだったからということがあります。その子供の頃に持った思いは、老人になった今もまちがっていなかったという確信があります。だから、このおもしろいことを若い人に伝えたいという気持ちがあります。そうした気持ちで若者向けの本を書きましたが、本を書くということは、読者という不特定多数の人を相手にすることで、直接話をすることとは違います。多くの人に読んでもらえるという、効率のよさはありますが、著者の一方的な発信ということになります。
 それに比べると今回の子供観察会ではわずか15人ほどの子供を相手にしましたから、経験や知識の伝達の広がりは狭いものです。しかし、私の中にはずしりとした手応えが残りました。要するに確かなことをしたという実感があったのです。
 私はすでに高齢者になりました。残された時間はそうありません。だからその時間を手応えのあることに使いたいと思います。それはこの子供観察会のように、自分の経験が確かに伝わったと実感が持てることです。どちらがよいというのではなく、本を書くというのは広がるというよさがあり、直接話すのは狭いけれども手応えのあるというよさがあるということなのでしょう。それをバランスをとりながらおこないたいと思います。

つづく

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