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玉川上水小平地区「328号線」予定地の群落の現状(中間報告)

2024-06-27 21:44:43 | 生きもの調べ
玉川上水小平地区「328号線」予定地の群落の現状(中間報告)

高槻成紀

「小平328号線」の計画が予定されている小平市の東鷹の橋と久右衛門橋の間(約340 メートル)の群落の2024年時点での現状を記録する目的で調査をした。左岸(北側)の調査が完了したので、中間報告をしておく。

方法
 調査地は久右衛門橋から東鷹の橋の間で、この中央部分が「328号線」予定地である(図1)。


図1. 調査地の範囲(水色枠内). 赤破線は道路予定の範囲

調査地のほぼ中央部分の景観を図2に示した。歩道があり、南側に低い柵があり、その先は緩斜面となって上水に達し、旧崖となる。高木にはコナラ、クヌグ、イヌシデが多く、元々は連続的な樹冠であったが、ここ数年のナラ枯れで伐採され、明るくなった。


図3. 調査地の左岸(北側)の歩道、柵、斜面の様子。右奥が上水。

 調査プロットは久右衛門橋から上流に向かって左岸(北側)の歩道の上水側にある柵から上水の「肩」までの緩斜面にとった(図3)。

図3. 調査プロットのイメージ図

 柵には2 m間隔に支柱が立っているので、久右衛門橋近くの支柱を0とし、そこから10 m間隔のプロットをとった。プロットは幅2 mの長方形とし、斜面が崖になる「肩」の部分までとした。この長さは場所により3 m程度から5 m程度までの幅があった。
 プロットの左手前を原点とし、そこからスタートして「面積-種数曲線」を得るために、10 cm四方から初めてほぼ面積が倍になるように調査区を拡大して、最終的に2 m× 約4 mの面積をとった。そして、出現した種ごとの被度(%)と高さを測定した。この場合、下生えの植物に着目したので、高さが1.5 m以上は除外した。またプロットの外側に幹があって枝を伸ばしてプロットに入り込んでいるものは記録に含めた。この積を「バイオマス指数」として算出した。このプロットは隣接する上流側のものも取ったので、10 m間隔に4 m幅を調べたことになる。久右衛門橋から東鷹の橋までは約340 mあり、68のプロットをとった。

結果
 面積-種数曲線のデータをとった30のプロットの平均値を図4に示した。種数は4 m2くらいまでは急速に増加し、その後伸びが鈍くなり、16種で最大となった。


図4. 面積-種数曲線(平均値)

種数
 68のプロットで通算111種が出現した。プロット数に対する種数増加を見ると12プロット程度までは急角度で増加したが、その後は増加が緩やかになった(図5)。ただし頭打ちにはならず、ほぼ直線的に増加した。


図5. プロット数-種数曲線

出現頻度
 プロットへの出現頻度を種ごとに求めて、上位から順に並べたのが図6aである。これには種名を省いているが、グラフの形からわかるのは高頻度種はごく限られており、中頻度が20種ほどで、半数以上はごく低頻度でありグラフは長い裾を引くということである。これはごく少数種はほとんどのプロットに出るが、かなりの種は半分程度のプロットで見られ、多くの種はたまにしかみられないということである。


図6a. 出現頻度曲線

 出現頻度が上位15位までを取り上げると図6bのようになった。上位3種はスイカズラ、コナラ、イヌツゲであり、これら3種は非常に高頻度であった。これに次いで頻度30程度のものにアオキ、ネズミモチ、ウグイスカグラ、ムラサキシキブなどが続いた。


図6b. 頻度上位15位までの頻度曲線

 バイオマス指数(被度×高さ)を種ごとに求め、頻度同様上位から順に並べたのが図7aである。これも頻度同様、多い種は少数に限られ、グラフはL字状になった。


図7a. バイオマス指数を上位順に並べたグラフ

 このうち上位10種を取り上げると、ムラサキシキブ、シラカシ、スイカズラ、イヌツゲ、ウグイスカグラ、マルバウツギ、ケヤキ、エゴノキ、ノイバラ、ナンテンの順であった(図7b)。草本はつる植物のスイカズラだけであり、高木・亜高木がシラカシ、ケヤキ、エゴノキの3種だけで、多くは低木であった。これらの多くは頻度も高く、これらがこの場所の下層植生で重要な位置を占めている。


図7b. バイオマス指数の上位10位までの推移

バイオマス指数の推移
 バイオマス指数のプロットごとの合計値の推移を見ると久右衛門橋側で大きいが100 – 150 mで少なくなり、その後上流で再び多くなった(図8)。


図8. バイオマス指数の東から西への推移. X軸の数字は距離(m)

 これは橋の近くは樹冠がないためにある程度の範囲は明るく、下生え植物の成長が良いためと考えられる。上流(図8の150 m以上の範囲)では東鷹の橋から離れている場所でも多かったが、これは2021年くらいから増えた「ナラ枯れ」のために枯れたコナラ、クヌギが伐採されて樹冠が失われ、明るくなったためである。

主要種のバイオマス指数
 バイオマス指数の平均値が大きかった10種を取り上げる(図8. 9)。


図8. 調査地で量的に多かった10種

 ムラサキシキブは明るい林に生育する。調査地では全体にあったが、0−50mで量も頻度も高かった(図9(1))。


図9(1). ムラサキシキブのバイオマス指数の推移

 シラカシは安定した林の樹冠を形成し、林床にも生育するが、調査地では広く見られ、特に150-250 m辺りに集中的にあった。


図9(2). シラカシのバイオマス指数の推移

 スイカズラは林縁などに生育するつる植物であり、本調査地では0-100 mと200-330 mに集中的に生育した。スイカズラは歩道脇の柵に絡まるのがよく見られたが(図3)、同時に林床に水平に伸びて生育しているのもよく見られた。


図9(3). スイカズラのバイオマス指数の推移

 イヌツゲは暗い林に生育する。調査地では量的には少なかったが満遍なく出現し、100-150 mでは少なかった。


図9(4). イヌツゲのバイオマス指数の推移

 ウグイスカグラは明るい林に生育するが、調査地では0-100 mに集中的に出現するほか、他の場所でも断続的に出現した。


図9(5). ウグイスカグラのバイオマス指数の推移

 マルバウツギは林縁に生育するが、調査地では50-250 m辺りに出現し、0-50 m、280-340 m辺りにはなかった。


図9(6). マルバウツギのバイオマス指数の推移

 ケヤキは樹冠を形成し、実生は明るい場所に見られるが、調査地では30-80 mに集中的にみられた。


図9(7). ケヤキのバイオマス指数の推移


 エゴノキは明るい林の亜高木層や低木層に生えるが、調査地では場所の偏りはあまりなく、点々と出現した。


図9(8). エゴノキのバイオマス指数の推移

 ノイバラは林縁で藪を作るが、本調査地では0-20 mの林縁の他明るい場所で点々と出現した。


図9(9). ノイバラのバイオマス指数の推移

 ナンテンは林床に生えるが、本調査地では250-300 mで集中的に出現するほか、所々で少量見られた。


図9(10). ナンテンのバイオマス指数の推移

 このほか量的には少ないが注目される種を取り上げる(図10, 11)。


図10. 注目すべき4種

 アオキは暗い林の林床に生育するが、本調査地では0-60 mと250-330 mで多く生育した。


図11(1). アオキのバイオマス指数の推移

 ヘクソカズラは空き地などに生育するが、本調査地では260-340mに限定的に出現した。なぜ0-100 mになかったのか不明である。


図11(2). ヘクソカズラのバイオマス指数の推移

 ノカンゾウは直射日光が当たる草原的な場所に生えるが、調査地では0-50 mの明るい場所だけでなく、250 m以西でも見られた。


図11(3). ノカンゾウのバイオマス指数の推移

<総合評価>
 以上を総合的に見ると、本調査地においては久右衛門橋で樹林帯が途切れて明るくなるため、0-50 mには明るい場所を好む低木や草本類が多かった(図8)。これに次ぐ西側の50-80 mは暗く、これらの植物は少なくなった。本来であればこの状態がさらに西まで続くのだが、ナラ枯れに伴う伐採のために明るくなったために200 mより西側でも植物量が多くなっている。ただし東鷹の橋はごく小さく、久右衛門橋を通る府中街道ように自動車が走る舗装道路ではないからもともとは樹冠は繋がっていて直射日光は当たらず、植物量は少なかったが、現在はナラ枯れ伐採のため多くなった(図8)。
 ムラサキシキブ、マユミ、ガマズミなどが多いのは伐採後に増加したためだが、ここがこれまでずっと安定的な落葉樹林であったかというと、そうではない可能性がある。というのは、この辺りにノカンゾウがかなりあったからである(図11(3))。このほか、ツリガネニンジンもあった。これらはかろうじて生き延びており、開花はしていなかった。このことは、この場所がかつては明るい草原状態であったことを示唆する。これらは多年草であり、ナラ枯れ後に明るくなってから侵入したとのではない。おそらくかつてこの辺りは現在の小金井のように草原的な環境であり、これら陽性草本はコナラなどの樹木が生育してから徐々に減少しているものと思われる。
 一方で − 盗掘の懸念があるために公表しないが − この調査地ではシュンラン、キンラン、チゴユリ、マンリョウなどが生育していた(図11)。これらはノカンゾウ、ツリガネニンジンなどが消滅しつつあるのとは対照的に、落葉樹林が形成されて安定した林になりつつある中で生育するようになったものと推察される。


図12. 安定した林に生育する種

  このように見てくると、長い時間の中で草原的環境が落葉広葉樹林に変化しつつあり、樹木の管理の仕方によって下層植物が影響を受けながら盛衰を見せていることが理解される。ムラサキシキブ、ウグイスカグラ、エゴノキ、マユミ、マルバウツギなどはこの場所ではごくありふれた低木であり、花や果実が林に彩りを添えているが、東京都の緑地においては必ずしもそうではなく、これらが豊富なこのような場所は玉川上水全体でも限定的であり、保全上の価値が高いといえる。

 今後、右岸(南側)でも調査を行いたい。
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