藤岡冷子さんとは2003年10月、韓国ソウルのリ・ウーファン回顧展の旅にご一緒して以来のお付き合いだ。ソウル市内を一緒に散策したが、その時作家であることを知った。帰国後、紀伊国屋ホールでの個展『南の風が吹く頃』を拝見させていただいた次第である。
作品の主題は風に揺れてさざなみ立つ海の表情だ。ブルーを基調にグリーン、グレーが混じりあった色彩は繊細かつ透明感に溢れている。海といっても明るい南の海ではなく、凍てつくかのように澄み切った北の冬の海だ。キャンバスには人物は勿論、島影も小船もなく、一見単調な風景に見える。
しかし、作家が描こうとしているのは海そのものではない。描かれているのは凍てつくような厳冬の海だが、海面を吹く風は緩んで、ゆっくりと冬の季節を終わろうとしている。つまり、作家が描いているのは春のきざし、風の気配に託した夢と希望なのではなかろうか。日常の中にありながらも、夢と希望を失わずに生きようとする藤岡さんの心の風景に違いない。そんな気持ちで見直すと、作品が静かに心に迫ってくる。
藤岡さんは国画会会員だが、ご主人は物理学の学者であるとのこと。家庭的な雰囲気の静かな女性だ。芸大院卒の若い頃、仏政府給費留学生として数年パリに滞在。その後20年近い空白期間があったにも拘わらず、ここまで独自の世界を持っている作家だ。是非、いい作品を作り続けていただきたい。(山下透)
藤岡作品
作品の主題は風に揺れてさざなみ立つ海の表情だ。ブルーを基調にグリーン、グレーが混じりあった色彩は繊細かつ透明感に溢れている。海といっても明るい南の海ではなく、凍てつくかのように澄み切った北の冬の海だ。キャンバスには人物は勿論、島影も小船もなく、一見単調な風景に見える。
しかし、作家が描こうとしているのは海そのものではない。描かれているのは凍てつくような厳冬の海だが、海面を吹く風は緩んで、ゆっくりと冬の季節を終わろうとしている。つまり、作家が描いているのは春のきざし、風の気配に託した夢と希望なのではなかろうか。日常の中にありながらも、夢と希望を失わずに生きようとする藤岡さんの心の風景に違いない。そんな気持ちで見直すと、作品が静かに心に迫ってくる。
藤岡さんは国画会会員だが、ご主人は物理学の学者であるとのこと。家庭的な雰囲気の静かな女性だ。芸大院卒の若い頃、仏政府給費留学生として数年パリに滞在。その後20年近い空白期間があったにも拘わらず、ここまで独自の世界を持っている作家だ。是非、いい作品を作り続けていただきたい。(山下透)
藤岡作品