硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 47

2021-05-10 20:53:18 | 小説
気が付けば、外はすっかり暗くなっていた。風は相変わらず吹き続けてる。しかし、晩秋の空を覆っていた雲はいつしか去り、夜空に浮かぶ満月は、カーテンの隙間からつなぎ合った私達の手を照らしている。
それは、未来の道筋を照らすようにしっかりと明るく。
ユニットバスにお湯を張り、狭い空間で二人の気持ちを再度確かめ合う。

「愛しているわ。」

「僕も愛しています。」

彼の言葉に感じたことのない安心感を覚えた。そして、私が頑なに拒んできたものが、本当は願っていた「愛」であることを知った。
思い悩みながら生きてきたけれど、人生を投げ出さなければ、思わぬギフトを受け取る事も出来る。
狭かった視野が少しだけ広がった時、みにくいアヒルの子にはこんな一文があった事を思い出した。

「じぶんをみにくいあひるのこだとおもってたころは、たくさんのしあわせがあることにきづけなかった」

あれから一年が経とうとしている。
あいかわらず、ネガティブな私は、時々、頑なだった自分を思い出しては落ち込むことがある。そんな時、寄り添ってくれる人がいるというだけで、心持も随分違う。
私達はまだ幼いのだ。それでも、手探りで愛というものを育みながら、ゆっくりと、確実に、未来に向かって前進している。
今は誰にも話せないけれど、その時が来たら、周りの人達もきっと私達を祝福してくれるに違いない。
だって、この気持ちに偽りはないのだから。

「松嶋くん。校内での携帯の使用は・・・分かってるわね。」

「心得ています。先生。」

「ありがとうね。」

後、三か月。卒業式が待ち遠しい。