正午。時間通りにチャイムが鳴る。のぞき窓を除くと、扉の向こうには下を向いて立っている彼の姿が見えた。二重ロックを外して、「いらっしゃい。」と声をかける。
黒いニット帽、黒いダウンジャケット、ストンウォッシュのデニム。日常的に履きならされていて、少し色あせているナイキの黒いシューズ。見慣れない私服を身にまとった彼は、「無理を言ってすいません。」と言って、コクンと頭を下げた。
「寒いから、入りなさい。」
「・・・お邪魔します。」
照れくさそうにそう言うと、ニット帽を脱いだ。丸刈りから伸びた髪は帽子の被り癖で、初夏の草原のように折り重なっていた。近づくと柑橘系フレグランスの香りがした。少し背伸びしているようだけれど、落ち着かない様子は手に取るようにわかった。
「上着。与るわ。」
「すいません。」
彼は、おもむろに上着を脱ぎ、私に手渡した。
見た目より大きなダウンジャケットに驚きながらハンガーに通し、上着掛けのフックへ引っ掛ける。
私の狭いリビングで彼はキョロキョロしながら立ち尽くしてしまっている。その姿を見て可愛いなと思った。
「来てくれてありがとう。とりあえずソファーに座ってて。と、それから、コーヒーと紅茶とココアがあるけれど、どれがいいかな? 」
「あっ、お構いなく。」
「遠慮しないの。」
「じゃあ、紅茶で。」
「砂糖とミルクはいる? 」
「おっ、お願いします。」
この部屋に男性がいる。そして、他愛のない会話をして、その人の為に紅茶を入れている。
あり得ないシチュエーションに、眩暈のような感覚に陥る。
これは幻想なのか、それとも、夢の中なのか。
リビングを見ると、手持ち無沙汰の彼が小さくなって座っていた。
黒いニット帽、黒いダウンジャケット、ストンウォッシュのデニム。日常的に履きならされていて、少し色あせているナイキの黒いシューズ。見慣れない私服を身にまとった彼は、「無理を言ってすいません。」と言って、コクンと頭を下げた。
「寒いから、入りなさい。」
「・・・お邪魔します。」
照れくさそうにそう言うと、ニット帽を脱いだ。丸刈りから伸びた髪は帽子の被り癖で、初夏の草原のように折り重なっていた。近づくと柑橘系フレグランスの香りがした。少し背伸びしているようだけれど、落ち着かない様子は手に取るようにわかった。
「上着。与るわ。」
「すいません。」
彼は、おもむろに上着を脱ぎ、私に手渡した。
見た目より大きなダウンジャケットに驚きながらハンガーに通し、上着掛けのフックへ引っ掛ける。
私の狭いリビングで彼はキョロキョロしながら立ち尽くしてしまっている。その姿を見て可愛いなと思った。
「来てくれてありがとう。とりあえずソファーに座ってて。と、それから、コーヒーと紅茶とココアがあるけれど、どれがいいかな? 」
「あっ、お構いなく。」
「遠慮しないの。」
「じゃあ、紅茶で。」
「砂糖とミルクはいる? 」
「おっ、お願いします。」
この部屋に男性がいる。そして、他愛のない会話をして、その人の為に紅茶を入れている。
あり得ないシチュエーションに、眩暈のような感覚に陥る。
これは幻想なのか、それとも、夢の中なのか。
リビングを見ると、手持ち無沙汰の彼が小さくなって座っていた。