田中雄二の「映画の王様」

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『記憶にございません!』

2019-07-11 08:56:09 | 新作映画を見てみた
 
 史上最低の支持率を記録した総理大臣・黒田啓介(中井貴一)。ある日、一般市民の投げた石が頭に当たり記憶喪失に陥る。側近たちは、国政の混乱を避けるために、事実を隠して黒田に公務を続けさせるが…。監督・脚本は三谷幸喜。
 
 悪徳政治家が突然善良で素朴な普通のおじさんになったらどうなるのか、という話の骨子は、善良な床屋が独裁者と間違われるチャップリンの『独裁者』(40)や、善良なそっくりさんが悪徳大統領の影武者となるアイバン・ライトマンの『デーヴ』(93)など、いわゆる、よく似た別人による一人二役物から想を得ていると思われる。
 
 また、事故による記憶喪失故の、同一人物による一人二役という点では、マイク・ニコルズ監督、ハリソン・フォード主演の『心の旅』(91)や、最近の『アイ・フィール・プリティ』(18)にも近いものがある。
 
 その中でも、“生まれ変わった”黒田首相に側近たちも感化されていくところ、素人が政治を行った方がいいのかもしれないという皮肉、本来、政治家にはこうあってほしいという願望を、一種のファンタジーとして描く手法は、『デーヴ』の影響が大きいと感じた。
 
 その『デーヴ』は、もとをたどればフランク・キャプラの『スミス都へ行く』(39)などの精神に行き着くから、三谷幸喜もその線を狙ったに違いない。それ故、風刺や時事ネタは薄くして、政治そのものを喜劇の中で描いているのだが、それをドラマだと割り切って面白く見られるか、風刺が物足りないと感じるかで、評価は分かれるところがあるだろう。個人的には、同世代の彼の映画は、毎度自分と好きなものが似ていることを表明されているようで、ちょっと気恥ずかしい思いがする。
 
 三谷、中井共にダニー・ケイが好きだというから、この映画はケイ主演で一人二役映画の『天国と地獄』(45)や、一人で何役も演じた『虹を掴む男』(47)のテイストも入っているのかもしれないが、中井や佐藤浩市は本来コメディにはあまり向いていない気がする。脇役では、教師役の大ベテラン山口崇、秘書官役の小池栄子がなかなかいい味を出していたと思う。
 
二役映画

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