さらば、我がタイガー

三沢光晴が死んだ。

この一報を聞いた私は、高校時代の友人の事を思い出した。丁度、世間ではジャイアント馬場が亡くなった時期だったか。プロレスが大好きな彼は「馬場はもういない。これからは三沢の時代だ」と言いながら、エルボーの練習をよくしていた。私と言えばプロレス知識は梶原一騎の漫画でしか知らないので、そんなものかとさして興味もなく聞き流していた。

それからしばらくして、ゲームセンターで「ジャイアントグラム2000」というゲームが出た。このゲームは全日の実在のレスラーが多数キャラクターとして出ており、三沢も出場していた。驚いた事に、三沢の入場曲がスパルタンＸだったのだ。

ジャッキーチェンの映画の中で私が最も好きな作品がスパルタンＸだ。そういう縁から一方的に私は三沢に愛着を持ち、ゲームでも彼ばかりを使っていた。バーニング技もカッコよかったし。王道継承……だったかな。後日、三沢が二代目タイガーマスクの正体だということも知って梶原一騎好きの自分は、ますます彼が好きになった。

時が経ち、ゲームに対する情熱も失せ、三沢の事もバラエティ番組とかで観て「下品なおっさんだなあ」と笑うくらいでしかなくなっていた。

その三沢が試合中の事故で死んだ今、なんだか呼吸の一回一回が妙に深くなっている。精神的に落ち込んでいる証拠だ。一度好きになった人が死ぬのはどんなにブランクがあっても辛いものなのだな。

友人は今何を思ってるだろうか。そもそもこの訃報を既に知っているのだろうか。連絡するにも、東京の大学に進学した彼の連絡先を私は知らない。

青春は遠きにありて、その空白に愕然とするものなり、合掌。