竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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美しき緑はしれり夏料理   星野立子

2019-07-03 | 今日の季語


美しき緑はしれり夏料理   星野立子

さわやかな句です。「美しき」から吹いてくる微風を、そのまま全体へ行き渡らせています。夏料理というと、真っ先に思い浮かぶのが冷たいもの、冷麦やそうめんですが、緑という語からすると、むしろ野菜類、ピーマンやパセリをさしているのかもしれません。最近は、夏カレーという言葉もありますから、食欲を増すために香辛料をきかせた、野菜たっぷりのカレーであってもよいでしょう。「はしれり」という動きを伴った語は、白い皿の海の上を、緑の野菜が帆を張って動くさまを想像させます。もともと「食べる」という行為は、生きることの根源に関わるものですから、表現者にとっては抜き差しならないテーマであるわけです。しかし、ここではもちろん、「生き死に」から遠い距離を持ったものとしての食事が描かれています。「緑はしれり」といえば、もうひとつ思い浮かぶのが、白いそうめんに入っている緑や赤の数本の麺です。流しそうめんであれば、まさしく「緑はしれり」となるわけです。しかし、この色つき麺は、もとはそうめんと区別するために冷麦だけにまぜたもののようです。それがのちには、そうめんにも入ったというのですから、もう、なんの意味もないわけです。なんの意味もないからこそ、緑はまさしく緑であり、わたしたちの目の中を、美しくはしるのです。『俳句への道』(1997・岩波文庫)所載。(松下育男)

【夏料理】 なつりょうり(・・レウリ)
見た目にも涼しく、さっぱりした夏向きの料理の総称のこと。

例句 作者

お絞りの熱きがよろし夏料理 水木夏子
川上に雨のありたる夏料理 青山克子
美しき緑走れり夏料理 星野立子
夏料理燦たり暮れゆく河口背に 楠本憲吉
川甚に来れば雨やむ夏料理 村山古郷
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