竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

手を摶つて粉はらふ昼寒日和 桂信子

2022-01-16 | 今日の季語


手を摶つて粉はらふ昼寒日和 桂信子

はらう粉は何男粉だろうかと思わせる
寒日和 あまりみかけない季語の対語として
浮かぶのは雪、花 やはり雪片か
作者の明るい表情が映ってくる
(小林たけし)


【冬晴れ】 ふゆばれ
◇「冬日和」 ◇「冬晴るる」
冬の冴えわたった晴天。語感は、その晴れようの鋭さ、厳しさを伝える。冬晴れの下でのくっきりとした物象のたたずまいには印象鮮明なものがある。

例句 作者

半世紀過ぎたる社屋寒晴れぬ ひびのせつこ
寒晴のどつと来てゐる涅槃像 桜木久子
寒晴の以後はつつしむ箇条書 森早和世
寒晴やあはれ舞妓の背の高き 飯島晴子
寒晴や嬰のまばたきひびくごと 住谷不未夫
寒晴や観音様の薄き胸 山尾かづひろ
寒晴れの粘土めきたる病み上がり 赤羽根めぐみ
禽獣とゐて魂なごむ寒日和 西島麦南


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底冷えが卓の四脚を匍ひあがる 富安風生

2022-01-15 | 今日の季語


底冷えが卓の四脚を匍ひあがる 富安風生

はんぱなお寒気が部屋中に満ちている
それでもいよいよ寒気は強まって
ついには卓袱台の脚を這いあがってくるような
作者はどうにもやりきれない
みたことのない擬人化だ
(小林たけし)


【底冷え】 そこびえ
身体のしんそこまで冷えることや、そういう感じの寒さをいう。「冷たし」同様、皮膚に感じる感覚的な寒さをいうが、即物的な印象は薄い。

例句 作者

そこ冷えの夜ごとは筆のみだれけり 石橋秀野
眠りても底冷に置く耳ふたつ 橋本榮治
底冷えに水音のしてゐたるかな 猿山木魂
比叡暮るゝより底冷のはじまりぬ 岸 風三楼
底冷えの底に母病むかなしさよ 井戸昌子
底冷や詫びて仏間を丸く掃く 青木久美子
底冷の洛中にわが生家残る 村山古郷

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マフラーやうれしきまでに月あがり 岸本尚毅

2022-01-14 | 今日の季語


マフラーやうれしきまでに月あがり 岸本尚毅

作者にとってこのマフラーは特別だ
思い出のものか
それとも持ち主の匂い体温の温もりの残る借りたマヒラーか
うれしきまでの月あかり
本人の弾む心は明解だが
その所以は読み手の想像力次第だ
(小林たけっし)


【襟巻】 えりまき
◇「マフラー」
防寒のため首に巻くもの。毛糸、絹、毛皮などが素材。現在は「マフラー」の呼称が一般的。

例句 作者

襟巻の紅きをしたり美少年 尾崎紅葉
襟巻の狐が抱くナフタリン 桃澤正子
襟巻やうしろ妻恋坂の闇 小川千賀
襟巻やしのぶ浮世の裏通り 永井荷風
襟巻や思ひうみたる眼をつむる 飯田蛇笏
風の子となるマフラーの吹流し 上田五千石
襟巻やほのあたたかき花舗のなか 中村汀女
霧ひらく赤襟巻のわが行けば 西東三鬼
汽車にねむる襟巻をまきかへにけり 川上梨屋
襟巻の狐の顔は別に在り 高浜虚子
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ひたひたと寒九の水や廚甕 飯田蛇笏

2022-01-13 | 今日の季語


ひたひたと寒九の水や廚甕 飯田蛇笏


廚甕は台所に置かれる水甕のこと
寒の最中の廚甕のようすだ
おそらく水野音はしないのだろうが
よんどころない寒さを「ひたひたと」の措辞を用いたのだ
水と寒さにかかる絶妙な詠みといえる
(小林たけし)


【寒の水】 かんのみず(・・ミヅ)
◇「寒水」(かんすい) ◇「寒九の水」(かんくのみず)
寒中の水はとりわけ冷たい。その冷たい寒の水に古人は霊妙な効力があると信じた。特に寒中九日目の水を寒九の水と言い、それを飲めば、風邪や胃腸病に良く効き、身体を丈夫にすると信じられていた。

例句 作者

仏にも寒九の水をたてまつる 森 澄雄
焼跡に透きとほりけり寒の水 石田波郷
寒水に豆腐沈めしままの闇 赤尾恵似
焦土より寒水はしり出づるかな 加藤楸邨
寒の水飲めばたやすく心満つ 殿村莵絲子
米二合研ぎ澄むまでや寒の水 佐久間鮎子
寒の水ごくごく飲んで畑に去る 飯田龍太
金魚大鱗海の日に汲む寒の水 角川源義

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成人式終りし大き雪片よ 飯名陽子

2022-01-10 | 今日の季語


成人式終りし大き雪片よ 飯名陽子

作者は成人式出席の本人だろうと想像する
雪片は見慣れた景なのだが
晴着を着た作者には
不思議に新鮮に感じた
そんな感覚を素直に詠んだのだろう
(小林たけし)



【成人の日】 せいじんのひ
◇「成人祭」 ◇「成人式」

例句 作者

八方の嶺吹雪きをり成人祭 福田甲子雄
成人の日の華やぎにゐて弧り 楠本憲吉
成人の日の大鯛は虹の如し 水原秋櫻子
成人の夜を家継がぬ子が泊る 萩原麦草
山に来て成人祭の焚火あと 吉田鴻司
帆株に成人の日の風鳴れり 原田青児
道に弾む成人の日の紙コップ 秋元不死男
かなしくも成人の吾子ひるがへり 岸田稚魚
足袋きよく成人の日の父たらむ 能村登四郎
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まっ白いセーターを着て逢いにゆく 伊藤政美

2022-01-09 | 今日の季語


まっ白いセーターを着て逢いにゆく 伊藤政美

逢うは
その相手は恋人か思い人とされる
白いセーターに作者の意図がうかがわれる
その意図は読み手に委ねられている
(小林たけし)


【セーター】
◇「カーディガン」
毛糸で編んだ防寒用衣服。カーディガンも含む。


例句 作者

セーターにもぐり出られぬかもしれぬ 池田澄子
セーターに小さな毛玉父母いない 田中朋子
受付の花瓶に似合いそうなセーター 赤羽根めぐみ
妻知らぬセーターを着て町歩く 本井英
長男のセーター着こなし妻笑顔 渡部健

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椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真澄

2022-01-08 | 今日の季語


椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真

漂泊も火宅もならず鰯雲 たけし

こんな句を詠んだことがあったが
だれしも晩年になると叶わなかったこんな思いがあるようだ
掲句もそんな気風を感じさせる
(小林たけし)

初旅】 はつたび
◇「旅始」 ◇「旅行始」
新年初めての旅行。旅始。旅行始。

例句 作者

ちょっといい未来へ一歩旅始 山口紀子
初旅や五分遅れし掲示板 重盛千種
初旅や防犯ベルをテストせり 遠藤古都女
夢中なり船の初旅はじまれり 倉田しげる
椰子の実になってみたくて初の旅 佐中真澄

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野の色のうるみ出しけり七日粥 中村正幸

2022-01-07 | 今日の季語


野の色のうるみ出しけり七日粥 中村正幸

句意は明解
うるみだす の措辞が秀逸
椀のなかでの七種が目にやさしい
(小林たけし)

【七種粥】 ななくさがゆ
◇「七日粥」 ◇「若菜粥」
一月七日に、七種類の野草を摘んで粥に入れて食し、一年の無病息災を願う古来より伝わる行事。

例句 作者

天暗く七種粥の煮ゆるなり 前田晋羅
むさし野に摘みし若菜の粥なれば 下村梅子
七草に更に嫁菜を加へけり 高浜虚子
七草の粥のあをみやいさぎよき 松瀬青々
吹くたびに緑まさりて七日粥 小沢初江
小障子に峠の日あり七日粥 木村蕪城

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しなやかにとぐろ巻きたく寝正月 大木あかり

2022-01-06 | 今日の季語


しなやかにとぐろ巻きたく寝正月 大木あかり

どこへも出かけずに家ごもりの正月
とぐろをしなやかに巻きたいとは?
作者の願望であって実際は多忙なのではないだろうか
と推察する
しなやかが不思議な味わいを感じさせて面白い
しなやかな肢体は猫を想像させるがそれでは俳句にならない
(小林たけし)


【寝正月】 ねしょうがつ(・・シヤウグワツ)
元旦や正月の休みに何処にも出かけず、寝て過すことをいう。

例句 作者
ゆふぐれの机ありけり寝正月 藤田あけ烏
寝正月なれと天地広くゐる 森 澄雄
旅行書の南海青し寝正月 大島民郎
次の間に妻の客あり寝正月 日野草城
初夢の唯空白を存したり 高浜虚子
ふるさとにのこす名もなく寝正月 古舘曹人
透きとほる葛湯さみしき寝正月 中村苑子
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地霊みな狼(ヌクテ)の貌をして伏せる 橋本喜夫

2021-11-12 | 今日の季語


喜夫地霊みな狼(ヌクテ)の貌をして伏せる 橋本喜夫

不用意に踏んでいる地表だが
地霊は厳然としてそこに在る
厳かでいて不気味
(小林たけし)



【狼】 おおかみ(オホ・・)
◇「山犬」
食肉目イヌ科イヌ属。まさにイヌの祖先。ニホンオオカミはすでに明治38年に絶滅したとされる。家畜を襲うことから害獣とされたり、毛皮が高値で取引されたこともその一因であろう。しかし一方でオオカミを神の眷属として祀る神社もある。人間との深い関わりを示す例であろう。

例句 作者

大神と触れ狼を売りにゆく 宇多喜代子
狼が出そうに鏡研き上げ 松井国央
狼の残響のごと釣瓶落し 白石司子
狼の目に中世の風ありぬ 月野ぽぽな
狼は亡び木霊は存ふる 三村純也
管くぐる狼しろがねに濡れて 岡田一実
絶滅のかの狼を連れあるく 三橋敏雄
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炬燵から行方不明となりにけり 岩淵喜代子

2021-11-11 | 今日の季語


炬燵から行方不明となりにけり 岩淵喜代子

炬燵にうずくまると
そこは別天地
全てを放棄して時間を忘れる
家人が呼んでも返事も億劫になる
そんな気分がよく表現されている
(小林たけし)


炬燵】 こたつ
◇「切炬燵」 ◇「置炬燵」 ◇「炬燵切る」 ◇「炬燵櫓」(こたつやぐら) ◇「堀炬燵」
家庭で長年使われている暖房家具。もともとは囲炉裏を切った上に櫓をのせ蒲団を掛けたのがはじまり。現代では電気炬燵がほとんど。冬の一家団欒の場として日本人の生活にとけこんでいる。

例句 作者

あでやかな炬燵蒲団につまずきぬ 市川恵子
なんとなく入りし炬燵の花模様 吉田成子
一人用炬燵に痒いメロスの足 大畑等
休日の炬燵の中に討ち死にす 吉原波路
句を玉と暖めてをる炬燵かな 高浜虚子
炬燵に穴のこして海を見にゆけり 大石雄鬼
炬燵に顎のせ友恋か山恋か 矢島渚男
炬燵ぬくし奇なる話を交しいて 真木早苗
炬燵の間鯨のような父がいる 高橋富久江
炬燵出て歩いてゆけば嵐山 波多野爽波

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齢のみ自己新記録冬に入る 三橋敏雄

2021-11-10 | 今日の季語


齢のみ自己新記録冬に入る 三橋敏雄

措辞は平明でなめらかだが
その意味は深く身に染みる
新記録 になんとも切ない哀れがある
季語は動かない
(小林たけし)


【立冬】 りっとう
◇「冬立つ」 ◇「冬に入る」 ◇「冬来る」 ◇「今朝の冬」
二十四節気の一つ。陽暦では11月8日頃で、この日から冬に入るとされる。日差が弱くなり、日暮も早い。特に立冬の日の朝は冷気を体感することも多く「今朝の冬」などと言われる。

例句 作者

冬に入る農婦いんぎん禍福なく 飯田蛇笏
凪ぎわたる地はうす眼して冬に入る 飯田蛇笏
墨を磨る心しづかに冬に入る 桂信子
水中に滝深く落ち冬に入る 桂信子
水甕の水に浮く塵冬に入る 桂信子
羽ばたきの音をかさねて冬に入る 桂信子


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くらがりへ人の消えゆく冬隣 角川源義

2021-11-06 | 今日の季語


くらがりへ人の消えゆく冬隣 角川源義

読者によって上五の「くらがり」は自由な解釈を赦されそうだ
私は黄泉につづく暗がりのように思えた
消える これは客観的凝視に感じる
冬隣は自分自身の自覚のようだ
(小林たけし)


【冬隣】 ふゆどなり
◇「冬近し」 ◇「冬を待つ」
冬が間近に迫った暮秋の気配を指す。厳しく長い冬を前にしたはかなさと、年末を控え何かあわただしさもある語。

例句 作者

蓼科は被く雲かも冬隣 石田波郷
昼めしの精進揚や冬隣 川上梨屋
押入の奥にさす日や冬隣 草間時彦
冬近き日のあたりけり鳶の腹 白雄
交番の似顔絵手配冬隣 関 利治
隠岐の山皆冬近き姿かな 敗天公
灯を消してかんばせに冬近づきぬ 森 澄雄
七色に繰り出す投網冬隣 岡田史乃
赤松の高きに日差冬隣 藤田あけ烏
炒り塩のそこらに跳ねて冬隣 近恵
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地下街に鮮魚鮮菜文化の日 鷹羽狩行

2021-11-03 | 今日の季語


地下街に鮮魚鮮菜文化の日 鷹羽狩行

地下街そのものが文明文化の象徴のようだが
そこで鮮魚鮮菜を販売している景
自然とは大きく乖離した場所でという不思議
作者の痛烈な風刺画をみるようだ
(小林たけし)


【文化の日】 ぶんかのひ(・・クワ・・)
◇「文化祭」 ◇「明治節」(めいじせつ)
11月3日。国民の祝日。戦前は明治節とされたが、戦後、自由と平和を愛し、文化を進める日とされた。学校ではこの日を中心に文化祭行事がある。「明治節」は明治天皇の誕生日で昭和23年に文化の日となったが、戦前の人々にとっては特別に懐かしい日である。

例句 作者

つつがなく目鼻耳口文化の日 隈元拓夫
イグアナの散歩をさせる文化の日 本杉康寿
ゴム毬に昔へそあり文化の日 横坂けんじ
サンバに乳ゆれて難波(なんば)や文化の日 竹岡一郎
一条を一茶と読めり文化の日 金子野生
兄弟の理系文系文化の日 石田香枝子
児童画に元気を貰う文化の日 安澤節子
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一本のくさりに縋る紅葉山 中村克子

2021-11-02 | 今日の季語


一本のくさりに縋る紅葉山 中村克子


作者は見事な紅葉にさそわれて
気づけば山中深くに迷い込んでいる
一本の鎖にすがっているのは作者か
はたまた紅葉の樹木そのものか
(小林たけし)


【紅葉】 もみじ(・・ヂ)
◇「紅葉」(こうよう) ◇「夕紅葉」 ◇「もみづる」 ◇「色葉」(いろは) ◇「村紅葉」 ◇「谷紅葉」 ◇「紅葉山」 ◇「紅葉川」 ◇「雑木紅葉」(ぞうきもみじ)
秋半ばより木の葉が赤や黄色に色づくこと。楓、蔦、漆、櫨などの紅葉が美しい。霜が降りると紅葉は一段と美しさを増す。色がほんのり薄く染まりはじめたころのものを「薄紅葉」という。まだらの色づきが趣深い。また楢、櫟、欅などの雑木が色づくことを「雑木紅葉」という。手近な紅葉を示す語。


例句 作者

三度まで許す積りや蔦紅葉 仰木節子
不知火の海見えわたる紅葉かな 八重津沙汰王
人の世から諸鳥の世へ紅葉する 中井不二男
人はみな紅葉の中人の中 平出雅春
修善寺の風のかそけき紅葉かな 本間愛子
全山の紅葉冷えくるくすり指 福井有樹男
北方に紅葉新たな森現ず 目迫秩父
口遊む紅葉のなかの孤独かな 原田麦吹
吐息もてくさもみじ消しきりしたん 小川双々子
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