捨て猫の石をかぎ居つ草いきれ 富田木歩
木歩は、大正期の俳人。一歳のときに病いを得て、生涯歩行の自由を失う。学校にも行けなかった。このために関東大震災で落命することになるが、彼の句には、自由に外出ができなかった者の観察眼が光っている。この句も、そのひとつ。彼を励まし支えた新井聲風の『木歩伝』の絶版は残念だ。(清水哲男)
【草いきれ】 くさいきれ
◇「草いきり」 ◇「草の息」
夏草の生い茂った叢が夏の強い日差しを受けて発する草の匂いと蒸したような気の混ざったのをいう。噎せるような強烈さがある。
例句 作者
草いきれして一草も動かざる 藤崎久を
草いきれ断層盆地鬱と照り 豊長みのる
草いきれ匍匐前進せし父よ 菅原鬨也
草いきれ緬羊に美醜あるあはれ 関口比良男
陪塚の荒れるにまかす草いきれ 出水青陵
高原の蝶噴き上げて草いきれ 西東三鬼