竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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暗算の途中風鈴鳴りにけり 村上鞆彦

2019-07-26 | 今日の季語


暗算の途中風鈴鳴りにけり 村上鞆彦

この頃は町中を散歩していても風鈴の音を聞かない。風鈴を釣る縁側の軒先もなくなり、風鈴の音がうるさいと苦情が来そうで窓にぶら下げるにも気を遣う。風鈴の音を楽しめるのは隣近所まで距離のある一軒家に限られるかもしれぬ。気を散らさぬよう暗算に集中している途中、風鈴がちりんと鳴る。ほとんど無意識のうちに見過ごしてしまう些細な出来事を書き留められるのは俳句ならではの働き。宿題を広げた座敷机、むんむんと気温が上がり続ける夏の午後、かすかな微風に鳴る風鈴の音にはっと顔を上げて軒先に広がる夏空を見上げる。掲句を読んで昔むかし小学生だった自分と、宿題に悩まされつつ過ごした夏休みの日々を久しぶり思い出した。『新撰21』(2009)所載。(三宅やよい)



【風鈴】 ふうりん
◇「風鈴売」

正確には限定出来ないが、鎌倉・室町時代には既に中国より伝わり、江戸時代になって、庶民に広く普及した。鐘のような形の内側から垂れた舌(ぜつ)に短冊形の紙を吊るし、それが風の動きにつれて涼しげな音を奏でる。鉄・硝子・陶器・貝殻などで作る。最近は夜店以外には見かけなくなったが、機械化された現代に於いても、その音色は昔と変わらず味わい深い。沢山の風鈴を荷台につるし、涼しげな音を立てて行く風鈴売は、東京下町の夏を彩る風物詩の1つ。

例句 作者

父母よりのこの家風鈴よく鳴つて きくちつねこ
風鈴の音色美し留守の家 進藤 紫
夜半にして風鈴鳴りぬ貧漁村 斎藤 玄
風鈴やとばし読みして虚子句集 菅原鬨也
風鈴の音の中なる夕ごころ 後藤比奈夫
渡さるるとき風鈴の鳴りにけり 栗島 弘
みな海へ行き風鈴のよく響く 町山直由
風鈴や夫を待つ夜と待たぬ夜と 市ヶ谷洋子
またぞろの風鈴守となりにけり 山地春眠子
風鈴をしまふは淋し仕舞はぬも 片山由美子 
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