竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

てんぷらやすでに鰭張る今年鯊 水原秋櫻子

2020-09-30 | 今日の季語


てんぷらやすでに鰭張る今年鯊 水原秋櫻子

鯊の天ぷらは美味
私には父と釣り父が揚げた鯊が
ありありと目に浮かぶ
たしかに油に入れると鯊は泳ぐかの良い海胆鰓を張る
(小林たけし)


【鯊】 はぜ
◇「沙魚」(はぜ) ◇「ふるせ」 ◇「今年鯊」 ◇「鯊の秋」 ◇「鯊日和」(はぜびより) ◇「鯊釣」(はぜつり) ◇「鯊舟」 ◇「鯊の竿」
ハゼ科の魚の総称。一般には日本各地の川口の汽水域や内湾に棲息する真鯊を指す。体型は上下にやや扁平で頭と口が大きい。晩秋には深みへ落ちてゆくので、秋の彼岸前後からそれまでが鯊釣りシーズン。天ぷら、佃煮などにして食べる。秋の彼岸から釣り人が押しかけるので「鯊釣」という季語もある。

例句 作者

どないでつかまあぼちぼちと鯊日和 本杉康寿
タメトモハゼに今上天皇かかずらう 夏石番矢
水中に石段ひたり鯊の潮 桂信子
舟影に芥をはこび鯊の潮 桂信子

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人の手がしづかに肩へ秋日和    鷲谷七菜子

2020-09-29 | 今日の季語


人の手がしづかに肩へ秋日和    鷲谷七菜子

なんとも思わせぶりな措辞だ
もう夕刻、あの空高い秋晴れも暮れ合いの時間だ
人恋しい気分
この句の「人の手」は願望であって実際のものではあるまい
(小林たけし)


秋空の澄んで晴れわたっていること。空気も乾燥して爽やかでどこへ行くにも快適な行楽日和。「秋日和」と同じ意味である。

例句 作者

秋晴の岬や我れと松一つ 渡辺水巴
秋晴や少年釣を習ひ初む 大串 章
雲あれど無きが如くに秋日和 高浜虚子
嫁ぐ子の襟足を剃る秋日和 鈴木夕起子
秋晴を夜までたまひて誕生日 山口波津女
刈株の後ろの水や秋日和 一茶
秋晴のどこかに杖を忘れけり 松本たかし
秋晴やあてなく歩く楽しさも 川村ひろし
秋晴や京の町行く京女 高浜虚子
浪白う干瀉に消ゆる秋日和 大須賀乙字
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伐られたる竹やしづかに倒れゆく 京極杞陽

2020-09-27 | 今日の季語

伐られたる竹やしづかに倒れゆく 京極杞陽


倒れるというのだから
大きな妄想だけだろうか
長い年月を経たその竹がしずかに倒れていく
次の役わりもあるようだがこの句にそれはっ無用だ
伐られる竹とその一瞬の景だけを浮かび上がらせる
(小林たけし)

竹伐る(たけきる) 仲秋
2010/03/25
【解説】
竹は春、筍にその精力を奪われてみすぼらしくなるが、秋になると幹もしっかりして、中の虫も死に絶え伐るには恰好の季となる。

例句 作者

藪中にふはりと竹の伐られけり 永田青嵐「永田青嵐句集」
一日や竹伐る響竹山に 松本たかし「松本たかし句集」
山慮忌の秋は竹伐るこだまより 西島麦南
初冬や竹伐る山の鉈の音 夏目漱石
介錯を頼む友なし竹移す 田川飛旅子
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みちのくの乾鮭獣の如く吊り 山口青邨

2020-09-26 | 今日の季語


strong>みちのくの乾鮭獣の如く吊り 山口青邨


日本海に面した北國の漁村
塩を含んだ寒風に
晒す干し鮭が天井から夥しくぶら下がっている
作者はこれを見たに相違ない
たしかに海を渡り川を遡る魚の面影はない
獣の末路に擬して
作者は敬意をも感じているようだ
(小林たけし)



【鮭】 さけ
◇「初鮭」 ◇「秋味」 ◇「鮭の秋」 ◇「鼻曲り鮭」
サケ科。体長約1メートル。9月ころから産卵のため群れをなして故郷の川を遡ってくる。上流で産卵し、孵化した稚魚は海に下って成長する。北日本、特に北海道西海岸に多い。肉は鮮紅色で、東京ではしゃけ、北海道では秋味(あきあじ)と呼ばれる。

例句 作者

ここは生国鮭面と呼ぶ身内居る 鈴木八駛郎
ふるさとに鮭帰る川君もかへる 齊藤美規
みちのくの鮭は醜し吾もみちのく 山口青邨
乾鮭の背骨にふれて刃をすすむ 小檜山繁子
包丁の力を決めし鮭一匹 秋葉礼子
夕暮がからだにあふれ鮭のぼる 大石雄鬼
急き立てるしほから声や鮭の市 宮井保彦
星星は定位置にあり鮭上る 松王かをり
永遠やこの岸に鮭を繋ぐ人 安井浩司


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秋めくや少し大人になったふり たけし

2020-09-25 | 入選句


秋めくや少し大人になったふり たけし

朝日新聞 栃木俳壇石倉夏生先生の選をいただきました
身仕舞いも鷹揚だった夏が過ぎると
秋めいた気配に心身が立ち直るようだ

朝の身支度にも気を遣う
履の汚れも気にかかる
少し大人になったふり
このフレーズが気に入っている


【秋めく】 あきめく
◇「秋兆す」
本当に秋らしさを感ずるころ。8月も終わり頃になれば、目にも耳にも秋のたたずまいを感じるようになる。秋の状態になってくること全般をいう。

例句 作者
秋めくやあゝした雲の出かゝれば 池内たけし
書肆の灯にそぞろ読む書も秋めけり 杉田久女
秋めくと言ひ夕風を諾へる 稲畑汀子
庭木戸を鎖す宵々の秋めきぬ 内藤吐天
秋めきて白桃を食ふ横臥せに 森 澄雄
秋めくと思ふ貝煮る音の中 岡本 眸
秋めくとすぐ咲く花に山の風 飯田龍太
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土間涼し造り酒屋に蛇の目猪口 たけし

2020-09-24 | 入選句



土間涼し造り酒屋に蛇の目猪口 たけし



角川の令和俳壇 朝妻力先生の選を頂いた

推薦5句ということで選評もうただけたのが嬉しい



現代俳句とはほど遠い作品だが

見たものをそのまま表意する俳句に救われる気持ちがする



この句は「蛇の目猪口」の発見が選者の目に留まったのだろう

こうした古来からの言葉は捨てがたいものがある



この句はある小さな句会での

席題「蛇」の即吟だった
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佳きことの予感新米塩むすび 水野二三夫

2020-09-23 | 今日の季語


佳きことの予感新米塩むすび 水野二三夫

新米の塩むすび
海苔も具も何もいらない、塩だけこその味わい
佳き事はもうすでにそこにあるのだが
まさまだこれでは済まされない
ずーっと佳きことが続くような気がしてくる
(小林たけし)


【新米】 しんまい
◇「今年米」(ことしまい)
今年収穫した米。早稲種は早い所で7月下旬から出荷が始まる。新米が出回ると、去年の米は古米となる。生活実感として白くふっくらと炊き上がったご飯とそのおいしさがイメージされる。

例句 作者

きらきらと陸奥の国より今年米 柏田浪雅
まぶしきを神に捧げる今年米 徳永髙男
パリに住む娘に送りけり今年米 吉田飛龍子
何回も掬うては見る今年米 加藤宵村
味噌あらば佳し炊きたての今年米 西條泰弘
新米に麦すこし入れ仲良きかな 高木一惠
新米の光受胎は告知され 松澤龍一
新米の粥透きとおる漆椀 廣川昂臣
新米の青味挫折の色ならむ 中山皓雪
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秋分の日の音立てて甲斐の川 廣瀬町子

2020-09-22 | 今日の季語


秋分の日の音立てて甲斐の川 廣瀬町子


作者の出自は知らないが
馴染んでいるはずの河川の音が
今日はやけに耳に清々しく聞こえる
そうか今日からほんとうの秋が訪れるのだ
(小林たけし)



【秋分】 しゅうぶん(シウ・・)
◇「秋季皇霊祭」(しゅうきこうれいさい)
二十四節気の一つ。9月23日ころ。昼と夜の時間がほぼ等しく、この日を境に夜の時間が長くなる。ここを境に「秋の夜長」がはじまる。また「秋季皇霊祭」は秋分の日に天皇が、皇霊殿で歴代の天皇・皇后・皇親の霊を祀る祭祀のこと。

例句 作者

秋分の正午の日ざし真向にす 管 裸馬
秋分の男松より夕日さす 田平龍胆子
山かがし秋分の日の草に浮く 松村蒼石
秋分やもみづりはやき岩蓮華 那須弥生
秋分の明るき昼の仮寝かな 山田葱風
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施餓鬼寺迎ふ十二支勢ぞろひ たけし

2020-09-20 | 入選句



施餓鬼寺迎ふ十二支勢ぞろひ たけし



2020年9月18日
朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選を頂きました

毎年、墓守をお願いしているお寺さんで施餓鬼会がある

昔のように近所の子供たちに菓子を配る事はなく

法師の法話のあと檀家がそろって経を読む


依頼してあった塔婆を頂いて墓に備える


今年も檀家200人ほどが集まった


この寺には十二支の石像がある
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草の実や空しく土と成るばかり 闌更

2020-09-18 | 今日の季語


草の実や空しく土と成るばかり 闌更 「半化坊発句集

名も知らぬ草、名も知らに実
咲いた花も実も知られることはほとんどない
知らず咲知らず実をつけ知らず落ちる
はかなく土になるばかり
それだけのことだが嫁層でなかなか詠めない
(小林たけし)



【草の実】 くさのみ
◇「草の種」 ◇「草の実飛ぶ」
秋草の実。概してあまり目立たないが、殻がはじけて実が飛んだりするものもある。中には手にとって愛でてみたいものもあり、秋季に実を結ぶことが多い草木類の実りをとらえた語。

例句 作者

実をつけてかなしき程の小草かな 高浜虚子
通夜に来る人みな草の実をはらひ 宮井港青
実をこぼしきつたる草の天を指す 坂本京一
草の穂に実が入り一日海濁る 沢木欣一
武蔵野や名もなき草が実をこぼす 真田風来

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いつよりか秋の歩幅になりにけり 根岸敏三

2020-09-17 | 今日の季語


いつよりか秋の歩幅になりにけり 根岸敏三


夏の果てを感じる間もなく
朝夕に秋の気配が感じられる
道すがらその気配を確かめるように歩いている自分
その歩幅はいつのまにか夏とは違う
秋の歩幅になっていた
(小林たけし)

【秋】 あき
◇「白秋」(はくしゅう) ◇「金秋」(きんしゅう) ◇「素秋」(そしゅう)
俳句では立秋(8月8日頃)から立冬(11月8日頃)の前日までを冬とし、ほぼ陽暦の8月、9月、10月に当る。清涼感と共に物悲しさを感じる季節である。「読書の秋」「芸術の秋」などといわれるように、秋は人々がさまざまなことにいそしむのに最適な季節とされる。「白秋」「素秋」は秋の異称。

例句 作者

「生きている」自分を探す秋の景 佐古澄江
「革命」のピアノ鳴りやまずホテルの秋 川崎幸子
あざやかに昃るを秋の喪としたり 松澤昭
ある秋の日の弾痕の鉄兜 和知喜八
あんまり笑うから対角線に秋 早川里子
おんなじに秋のふらここさらさら砂 伊東類
かの秋も広島の川澄みたるか 後藤章
くずし字を詠まんと秋の白秋碑 吉本孝雄
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豊年の村に無数の扉がありぬ 石田よし宏

2020-09-16 | 今日の季語


豊年の村に無数の扉がありぬ 石田よし宏

無数の扉あり
豊年満作の稲の貯蔵庫か
または収穫のあとの宝物か
どの家も豊穣の潤いに満ちている様を
無数の扉との比喩が見事だ
(小林たけし)

【豊年】 ほうねん
◇「豊作」 ◇「出来秋」(できあき) ◇「豊の秋」(とよのあき)
台風の被害もなく、天候に恵まれて五穀がよく実った年。


例句 作者

豊年の畝集まりて吾家なす 久米正雄(三汀)
豊年の雨をふるひし夜の傘 吉田成子
豊年やあまごに朱の走りたる 永方裕子
豊年や切手をのせて舌甘し 秋元不死男
豊年や空の深さに農夫消ゆ 安田龍泉
道へ出て木の夜叉ぶしの豊年か 齊藤美規
駅が建ちコンビニが建ち豊の秋 北登猛

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放生会真つ赤な鯉のあばれけり 岸本尚毅

2020-09-15 | 今日の季語


放生会真つ赤な鯉のあばれけり 岸本尚毅

日常の殺生を
この祭りひとつで許されるはずもないが
この国の神事は人間に優しい
放たれる緋鯉の鮮やかさに作者はあわれを禁じ得ない
(小林たけし)


【八幡放生会】 やはたほうじょうえ(・・ハウジヤウヱ)
◇「八幡放生会」(やわたほうじょうえ) ◇「放生会」 ◇「八幡祭」(はちまんまつり) ◇「男山祭」(おとこやままつり) ◇「石清水祭」(いわしみずまつり) ◇「南祭」(なんさい)
各地の八幡宮で魚や鳥を放つ行事。京都の石清水八幡宮で9月15日に行われる「石清水祭」が有名。放生会(ほうじょうえ)とは仏教の殺生戒に基づいて、生物を池川山林に放って供養に供する儀式。

例句 作者

渡御待つや虫の夜空の男山 本田一杉
からくりの泣いてぞ果てぬ放生会 岸田稚魚
放生の泥さかな鰌こぼるる草の土 廣瀬ひろし
放生会べに紐かけて雀籠 村上鬼城

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石榴落つ開き直りに欝なかり 高尾敏夫

2020-09-14 | 今日の季語


石榴落つ開き直りに欝なかり 高尾敏夫

落ちた石榴の実をみての作者の心象
開き直る潔さを渇望している様子がみてとれりう
いっそこのように身を投げ出して
開きなおれたら
私のこの鬱々たる気持ちが救われるのだが
(小林たけし)



【石榴】 ざくろ
◇「柘榴」(ざくろ) ◇「実石榴」
果実はこぶし大のいびつな球形。秋に熟すると硬い果皮が裂け、多数の白い種子が桃色の果肉に覆われているさまが見える。食べると甘酸っぱい。

例句 作者

石榴割れAKBがいっせいに 宮崎斗士
石榴重たし降神の儀のかたわらに 横山白虹
聞えない耳なら石榴ぶらさげよ 金原まさ子
自転車を立てかけ青い柘榴の樹 岡みずき
虚空にて見えざる鞭が柘榴打つ 桂信子
退屈がせつぱつまつた石榴の実 坂本敏子
露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す 西東三鬼

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甚平や定年のない脛二本 たけし

2020-09-12 | 入選句


甚平や定年のない脛二本 たけし

朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選を頂きまし
2席という事で過分な選評も頂きました

リタイアしてもう15年になります
甚平を着るとなんとも解放感にひたされますが
何故か落ち着かない所在ない様になってきます
決してたくましくはない脛二歩が寂しげです
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