竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

二百十日晴れスクランブル交差点 三苫知夫

2021-08-31 | 今日の季語


二百十日晴れスクランブル交差点 三苫知夫

災害や災難は遭遇するまでは他人事
予兆も無い皆無のスクランブル交差点にいる自分
同じ時間に悲鳴をあげている人と場所がある
(小林たけし)


【二百十日】 にひゃくとおか(・・トヲカ)
◇「厄日」 ◇「二百二十日」
立春から二百十日目で、9月1日、2日ころ。二百二十日はそれから10日後。この頃は暴風雨に襲われることが多く、また稲の開花期にも当たることからその被害を案じ、農家では厄日としている。

例句 作者

農暦いまも手許に厄日過ぐ 森田かつ子
恙なき二百十日の入日かな 伊藤松宇
風少し鳴らして二百十日かな 尾崎紅葉
砂濱に藻を焼く煙り厄日過ぐ 棚山波朗
たゞ鰡の釣れに釣れたる厄日かな 河原白朝
川波も常の凪なる厄日かな 石塚友二
ひらひらと猫が乳呑む厄日かな 秋元不死男
高う飛ぶ蜻蛉や二百九日尽 松内大隠
移り行く二百二十日の群鴉 高浜虚子
魚匂う俎板二百二十日過ぐ 青木千秋
ぬるき茶の渋み鋭き厄日かな 丸山景子
ロザリオや二百十日の頸細く 柳生正名
二百二十日に着きたる二十歳の十七屋 須藤徹
二百十日へ凶暴な火を逃がす 秋尾敏
二百十日も多分おとことおんなかな 永井江美子
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大根蒔く来年も蒔く死ぬまで蒔く 伊藤政美

2021-08-30 | 今日の季語


大根蒔く来年も蒔く死ぬまで蒔く 伊藤政美

秋蒔>のんかでも<大根蒔く>は馴染みやすい
掲句は巻くを三唱して効果を狙って成功している
作者、あるいは作者のモデルの
生き様の覚悟を表意して見事といえよう
(小林たけし)


【秋蒔】 あきまき
秋に植物の種子を蒔くこと。冬や春に収穫する野菜の種は8月中旬から10月に蒔く。秋に種を蒔くものとして菜種、大根、芥菜、芥子、さらに田の肥料となる紫雲英(れんげ)などがあり、それぞれ「蒔く」の語尾をとり、「菜種蒔く」「大根蒔く」「芥子菜蒔く」「芥子蒔く」「紫雲英蒔く」として季語となっている。

例句 作者

秋蒔きの土にやさしく月さしぬ 菅原鬨也
うしろから山風来るや菜種蒔く 岡本癖三酔
大根播く光の粒をこぼすかに 西尾玲子
黒潮の黒の深まり菜種蒔く 延平いくと
峡の田にひとりとなりて紫雲英蒔く 森戸山茶花
菜種蒔くかそかなる音地に籠る 田中茅洋
秋蒔きの種子とてかくもこまかなる 能村登四郎
大根蒔くうしろの山に入る日かな 赤木格堂
大根蒔く短き影をそばに置き 加藤知世子
天命の余白に大根蒔かんかな 清水能舟





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乳房掠める北から流れてきた鰯 金子兜太

2021-08-28 | 今日の季語


乳房掠める北から流れてきた鰯 金子兜太

難解な句で鑑賞のしようもないと思っていたが
下記の鑑賞を発見した

 俳句の一つの分け方として次ぎのようなものがあるかもしれない。
1)最初のインパクトが強いが読んでいるうちにだんだん何も無くなっていってしまうもの。
2)最初のインパクトは弱いが読んでいるうちにだんだん何かが現れてくるもの。

 この句などは1)に属するのではないか。「乳房」と「北から流れてきた鰯」との遭遇ということには新鮮な驚きがある。感覚的に新鮮なのである。しかしその状況、例えば、海に入っている男性(作者)の乳房を鰯が掠めていったというような状況、を考えている内に、何だか只事のような気がしてくるのである。逆に昨日の句などは最初のインパクトはこの句ほどは無いが、読んでいるうちにとても気持ちのよい状況が開けてくる。
(小林たけし)


【鰯】 いわし
◇「真鰯」 ◇「鰯干す」 ◇「鰯引く」 ◇「鰯網」
真鰯、潤目鰯、片口鰯の総称。日本沿岸に棲息し回遊している。秋が旬で最も味がよい。九十九里浜など各地で地引網による鰯引が行われる。

例句 作者

鰯汲む夜は妻子も脛ぬらす 佐藤鬼房
絶叫の形に鰯干されけり 梅原昭男
十方に無私の鰯を供えけり 曾根毅
銀舎利に載せて一本干鰯 吉原波路
鰯の目いびつなものを探すかな 平塚波星
鰯干すスカートの裾八重に咲き 久保田慶子

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日の粒をぽろぽろこぼし零余子採り 遠藤しげる

2021-08-26 | 今日の季語


日の粒をぽろぽろこぼし零余子採り 遠藤しげる

零余子を作者は<日の粒>そのものと見た
その措辞のフィットさがそのまま句になっている
ぽろぽろこぼす も共感できる
(小林たけし)



【零余子】 むかご
◇「ぬかご」
自然薯、長薯などの葉腋に生じる暗緑ないし青褐色の長さ7,8ミリの肉芽。採取してつけ焼きや汁の実にしたり、ご飯に炊き込んだりする。

例句 作者

雨傘にこぼるゝ垣のむかごかな 室生犀星
触れてこぼれひとりこぼれて零余子かな 高野素十
二つづつふぐりさがりにむかごかな 宮部寸七翁
肩越しに山の音くる零余子かな 藤木倶子
黄葉して隠れ現る零余子蔓 高浜虚子
零余子摘む女の厄もたうに過ぎ 勝又春江
となりへもこぼれて風のむかごかな 飴山 實
ゆっくりと曳いて零余子を零したり 川辺幸一


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馬・牛の外寝うらやむ星月夜 鷹羽狩行

2021-08-24 | 今日の季語


馬・牛の外寝うらやむ星月夜 鷹羽狩行

現代俳人の雄である作者にこの句があるとは
なんとも救われる気になる
難解句から離れて平易な措辞で終始していて安心させられる
(小林たけし)

【星月夜】 ほしづきよ
◇「星月夜」(ほしづくよ) ◇「星明り」
満天の星の光が、月のように明るく地上を照らす夜。空気が乾燥するこの時期の空は清澄で、星夜の美しさが強く感じられる。

例句 作者

かりそめに人に生まれて星月夜 室生幸太郎
その手摺乗り出しやすく星月夜 近恵
ほろ酔ひて本音するりと星月夜 菊地章子
われの星燃えてをるなり星月夜 高浜虚子
オペレッタは恋の筋書き星月夜 尾畑悦子
チェロ弾きのめくる譜面の星月夜 対馬康子
レコードのノイズふつくら星月夜 田中亜美
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もう一度生まれる前に桃となる 瀬戸優理子

2021-08-23 | 今日の季語


もう一度生まれる前に桃となる 瀬戸優理子

なんという詩因だろう
作者の独特な発想の不思議に感心するばかり
もう一度生まれる前の
自分自身を考えるとは ただ脱帽だ
(小林たけし)


桃】 もも
◇「桃の実」 ◇「白桃」(はくとう) ◇「水蜜桃」(すいみつとう) ◇「ネクタリン」 ◇「冷し桃」
実は大型の球形。香りが高く果汁が多くて甘い。夏から初秋にかけて愛好される果物。種類は多いが、一般に外皮一面に細かい毛が生じている。

例句 作者

とある夜大きな桃を戴きぬ 石倉夏生
ながいきのできるまで痩せ桃を食う 大野忠孜
はるばると来し方行方桃さくら 和知喜八
ふいにまた雑魚寝にしぶく桃の水 瀧春樹
もぎたての白桃全面にて息す 細見綾子
ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下 石田波郷
よく晴れて少しつめたき桃の村 平佐悦子
わからぬ句好きなわかる句ももすもも 富安風生
わが影の起き伏し庭に桃散りて 桂信子
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あちこちに穴のあきたる秋思かな 隈元拓夫

2021-08-22 | 今日の季語


あちこちに穴のあきたる秋思かな 隈元拓夫

あちこちは作者の心中のことだろう
読み手はそこに共感する
ぽっかりと胸奥に空いた穴
なかなか容易には埋まりそうもない
(小林たけし)


秋思】 しゅうし(シウ・・)
◇「秋懐」(しゅうかい) ◇「傷秋」(しょうしゅう) ◇「秋あわれ」 ◇「秋淋し」
秋の寂しさに誘われる物思い。秋は人生の寂しさに触れることが多い季節である。事に寄せ、物を見て秋を感じること全般をいう。

例句 作者

帯きつく秋思を秘めて末席に 進藤 紫
わが秋思水わたりきし一羽鳩 中村草田男
開くまで秋思の無音オルゴール 鈴木まゆ
炉は燃えて秋思さだかに老いきざす 鳥谷網生
山の湯を出でて化粧ひてより秋思 斎藤杏子
この秋思五合庵よりつききたる 上田五千石
やや沖に孤礁秋思の水柱 原子公平
万華鏡へ秋思とぢこめ旅決意 遠藤悦子
三つ目の釦穴から逝く秋思 白水風子
六本木の五十二階のわが秋思 八木健夫
古層の秋思俳句以前のことを言う 加藤知子
城壁に残る手の跡秋思かな 藤井サカエ
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半生を語るおとがい半夏雨 たけし

2021-08-18 | 入選句


半生を語るおとがい半夏雨 たけし



2021.08.14

朝日新聞栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました



おとがいは人間にのみある部位だという

また幼児期にはないものだと知った



しばらくの人生、その半生をおとがいが主張しているという句



そこからの発想による句だったが

上五、下五の半の韻にも工夫したつもりなのだが

果たして成功したかは未だ自信がない
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影の数人より多し敗戦忌 渡辺誠一郎

2021-08-15 | 今日の季語


影の数人より多し敗戦忌 渡辺誠一郎

影はきっと戦死者のことだろう
この措辞であとは語らない
これ以上何も語らないところが敗戦の悼みを象徴している
(小林たけし)


【終戦記念日】 しゅうせんきねんび
◇「終戦日」 ◇「敗戦忌」 ◇「敗戦日」 ◇「八月十五日」
8月15日は、昭和20年、日本が連合国側のポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦が終了した日。戦争の根絶と平和を誓い、戦没者を追悼する行事が全国各地で行われる。

例句 作者

生涯の父の号泣敗戦日 大橋敦子
我泪見て妻笑ふ終戦日 岩脇五風
終戦の人ら泳げり敗戦日 鈴木六林男
堪ふることいまは暑のみや終戦日 及川 貞
髪染めて己あざむく終戦日 雨宮抱星
十五貫五尺七寸敗戦忌 山田征司
地下鉄に後頭並び敗戦忌 森田智子
永久凍土という墓あり敗戦忌 津根元潮
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あきつ舞ふ 野は一面の無重力 井上ひろし

2021-08-11 | 今日の季語


あきつ舞ふ 野は一面の無重力 井上ひろし

広い秋野であろう
空を埋め尽くさんばかりの赤とんぼの大群が
追われるように東の空へ移動している
作者もいつかその中の一片になった気分
一面の無重力はなかなか言えない措辞だ
(小林たけし)


【赤蜻蛉】 あかとんぼ
◇「秋茜」(あきあかね) ◇「深山茜」(みやまあかね)
小形で体色が赤みを帯びた蜻蛉の俗称。雄は赤色、雌は黄褐色である。秋空に群れる赤蜻蛉の姿は、秋の涼気を誘う。爽やかな秋の象徴といえる。

例句 作者

あきつとぶひかり薄れつ夕鳴子 西島麦南
から松は淋しき木なり赤蜻蛉 河東碧梧桐
みちのくに輪廻転生赤とんぼ 妙田節子
わが見しはあきつの群るる湖の虹 鈴木詮子
アキアカネ親近感とも違う距離 堀之内長一
アンデルセンの空があるよ赤とんぼ 小野露光
人の世を辞してそろそろアキアカネ 横須賀洋子
仮の世を流れ解散秋あかね 髙野公一
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西鶴忌帯を低めによろけ縞 八木ひろ子

2021-08-10 | 今日の季語


西鶴忌帯を低めによろけ縞 八木ひろ子

浮世草子の作者、好色ももが有名で
西鶴といえば男女の色恋が浮かぶ
掲句もそれのたぐい
低めによろけ 次の仕草は読み手に委ねる
(小林たけし)


【西鶴忌】 さいかくき
陰暦8月10日、元禄期の大小説家、井原西鶴(1642-1693)の忌日。「好色一代男」「好色五人女」などの浮世草子の作者。元禄6年没。

例句 作者

おとろえを見せぬ暑さや西鶴忌 波切虹洋
西鶴忌女の哀れ今もなほ 大場美夜子
色街に住んで堅気や西鶴忌 安村章三
上六で道聞かれゐる西鶴忌 角 光雄
西鶴忌うき世の月のひかりかな 久保田万太郎
朝顔に格子みがかれ西鶴忌 加藤かけい
くぐり戸を開けて味噌買ふ西鶴忌 伊東類
今の世も男と女西鶴忌 三宅清三郎
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柵を脱ぎすててきたなめくじり たけし

2021-08-09 | 入選句


柵を脱ぎすててきたなめくじり たけし

2021.08.7 朝日新聞
栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

原句 「しがらみ」 を「柵」と添削していただきました
投句の前に悩んだ個所でしたので納得できました
こうしたところで迷わず漢字を当てられないのが未熟ということなのだろう

句意は平明だが
なめくじりの進化は
人間の加齢化になぞらえたつもりだ
コメント

柵を脱ぎすててきたなめくじり たけし

2021-08-09 | 今日の季語


柵を脱ぎすててきたなめくじり たけし

2021.08.7 朝日新聞
栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

原句 「しがらみ」 を「柵」と添削していただきました
投句の前に悩んだ個所でしたので納得できました
こうしたところで迷わず漢字を当てられないのが未熟ということなのだろう

句意は平明だが
なめくじりの進化は
人間の加齢化になぞらえたつもりだ
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炎天に煌と城壁草田男忌 見市六冬

2021-08-05 | 今日の季語


炎天に煌と城壁草田男忌 見市六冬

生命の賛歌の多い草田男に相応しい
炎天をも許容する自然人草田男を彷彿させる
(小林たけし)


【草田男忌】 くさたおき(・・ヲ・・)
8月5日、俳人中村草田男(本名清一郎)の忌日。東大俳句会に参加し、『ホトトギス』で虚子の指導を受ける。石田波郷や加藤楸邨らと共に人間探求派と呼ばれた。生命賛歌の句も多く、代表句に「万緑の中や吾子の歯生え初むる」。この句により「万緑」が季語として定着した。昭和21年に『万緑』を創刊・主宰。句集『長子』『万緑』『火の島』など。昭和58年、82歳で死去。

例句 作者

夏帽のつばの弱りや草田男忌 藤田あけ烏
大輪の花火の音や草田男忌 今井誠人
炎天こそすなはち永遠の草田男忌 鍵和田?子(ゆうこ)
森に入りひとりの緑酒草田男忌 宮脇白夜
炎天こそすなはち永遠(とは)の草田男忌 鍵和田秞子
草田男忌の鍋をはみ出す鶏の骨 大類準一
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四次元へ手足あそばす水眼鏡 鈴木良戈

2021-08-03 | 今日の季語


strong>四次元へ手足あそばす水眼鏡 鈴木良戈

四次元とは 次元が四つあること。ふつう、空間の三次元に時間の一次元を合わせていうのだそうだ
水中という異次元であそぶには手足が自由に遊ぶのだと作者が断定したようだ
四次元はどらえもんの世界だろう
(小林たけし)


水中眼鏡】 すいちゅうめがね
◇「箱眼鏡」 ◇「硝子箱」
水中でも物が見えるようにつける眼鏡。水泳時にも漁にも用いる。「箱眼鏡」は四角い箱の底をガラス張りにし、水面に浮かべて水中を覗き、魚や貝を獲る道具で海女などが使う。「硝子箱」ともいう。

例句 作者

落潮の匂ひこもれる水眼鏡 大木あまり
箱眼鏡なまこの眠る国のぞく 米田一穂
この世よりおもしろきかな箱眼鏡 藤本安騎生
箱眼鏡みどりの中を鮎流れ 宇佐美魚目
箱眼鏡山下淳の笑い顔 永田タヱ子

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