竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

茅の輪にはたしかに空気膜ありぬ 石田よし宏

2020-06-30 | 今日の季語


茅の輪にはたしかに空気膜ありぬ 石田よし宏

知の輪を潜る瞬間
たしかに時空が静止して
自身が特別な空間に存在したかのような錯覚になる
作者はこの瞬間を「空気膜」と捉えたのだ

作者は私の所属する地元の結社の創設者
存命中に教えをうけられなかったが
その仲間と楽しく俳句を楽しんでいる
(小林たけし)


【名越の祓】 なごしのはらえ(・・ハラヘ)
◇「夏越の祓」(なごしのはらえ) ◇「夏越」 ◇「大祓」(おおはらえ) ◇「御祓」(みそぎ) ◇「形代」(かたしろ) ◇「夏祓」(なつはらえ) ◇「川祓」 ◇「夕祓」 ◇「祓川」(はらえがわ) ◇「川社」(かわやしろ) ◇「禊川」(みそぎがわ) ◇「茅の輪」(ちのわ) ◇「茅の輪潜り」(ちのわくぐり)

例句 作者

あきらかに茅の輪くぐりし前と後 齊藤美規
まつすぐに汐風とほる茅の輪かな 名取里美
ミルク飲人形茅の輪くぐりけり 寺村悦江
潜りたる茅の輪に水の匂ひせり 伊藤政美
胎の子に手を添え茅の輪潜りけり 伊勢鏡一郎
茅の輪くぐる爆裂髪の少年も 島田星花
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草笛の澄むまで父がそばに居り 和田浩一

2020-06-29 | 今日の季語


草笛の澄むまで父がそばに居り 和田浩一

草笛を吹いているのは作者だろう
上手に音の出ない自分を父がかたわらで
優しい顔つきで見ていてくれる
ついにきれいな澄んだ音が出た
父と私は一緒に笑顔になった
作者の懐古のようでもあるが
草笛が済む
は作者の独り立ちのことだろも伺える
(小林たけし)

【草笛】 くさぶえ
◇「蘆笛」(あしぶえ) ◇「麦笛」


例句 作者

草笛の草の傷むを恋という 篠原信久
草笛や少年の日のこころざし 丸山太一
草笛を吹いている間は大丈夫 髙橋悦子
草笛を吹く息つぎを取り戻し 巻良夫
草笛を子と吹くこころちぐはぐに 吉田未灰
草笛吹こうか点滴を外そうか 大坪重治
酒蔵の裏か草笛明日征くと 田中實子
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ばうばうと長けてゐたりし余り苗 藺草慶子

2020-06-28 | 今日の季語


ばうばうと長けてゐたりし余り苗 藺草慶子

余り苗は用心のためのもので
長い農耕の知恵なのだと聞いた
現代では田植えは機械でするので手植えの作業はほとんど無いのだが
田植えの後の畔に置かれている
掲句はしの余り苗が時を経て
伸びてしまいその様相を替えた様子を詠んでいる
用心、事故やアクシデントが無かったことを教えている
(小林たけし)


【早苗】 さなえ(・・ヘ)
◇「玉苗」 ◇「早苗束」 ◇「苗運び」 ◇「苗配り」 ◇「苗打ち」 ◇「早苗取」 ◇「余苗」(あまりなえ) ◇「捨苗」(すてなえ) ◇「流苗」 ◇「早苗籠」 ◇「苗籠」
初夏に苗代から、本田に移し植える苗をいう。やわらかく小さな葉を風に揺らすさまはまことに美しい。束ねて籠などに入れて運ぶが、大きな田では舟に乗せて配ったりする。植え余った苗が水口に固めてあったり畦に捨ててあったりする。玉苗は美称である。

例句 作者

あをあをとして生きてゐる余り苗 岩田由美
いつしかに余り苗にも耳や舌 宇多喜代子
くつぬぎにもたせかけけり余り苗 永田耕衣
ひかり立つものに棚田の余り苗 大橋利雄
余り苗いつまで待つも出番なし 津田清子
余り苗さざなみ迅くなりにけり 藺草慶子
余り苗まとめて植ゑして立ち去りぬ 北山痴木
余り苗伊吹の風を溜めてをり 関戸靖子
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鯛鮓や一門三十五六人 正岡子規

2020-06-27 | 今日の季語


鯛鮓や一門三十五六人 正岡子規


鯛鮓を囲んでの一門の句座であろうか
子規の上機嫌の様子がうかがえる
決して順風満帆でなかた来し方
子規なりの達成感に似た述懐を感じる
(小林たけし


【鮓】 すし
◇「鮨」(すし) ◇「熟鮓」(なれずし) ◇「圧鮓」(おしずし) ◇「握鮨」(にぎりずし) ◇「早鮓」(はやずし) ◇「一夜鮓」 ◇「巻鮓」 ◇「鮎鮓」 ◇「鮒鮓」 ◇「鱒鮓」 ◇「鯖鮓」 ◇「ばってら」 ◇「五目鮓」 ◇「鮓桶」
鮨は「酸し」(すし)の意。酢に漬けた魚肉、または魚肉を飯と一緒に圧して、酸味を生じさせてから食べたことから名付けられた。鮨。おすもじ。因みに「寿司」は当て字。

例句 作者

ばつてらや出自誰かにしやべりたく 三浦照子
定型にすぎぬ凡句やにぎり鮓 加藤郁乎
飯白き柿の葉鮓をいただきし 後藤夜半
鮒鮨や近江の眞昼楕円なす 二村秀水
鮓食べてケインズ論は遠きかな 星野明世
鮨つまむシンプルも又食文化 山本洋
鮨喰わせ山見せて父淋しかろ 松本勇二

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大やませヒトの遠祖にプテラノドン たけし

2020-06-26 | 入選句


大やませヒトの遠祖にプテラノドン たけし

朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

風の強い場所にいると風に向かって進みたくなる
向かい風でなければならない
遠い先祖のDNAの名残だろうか
飛び立つ構えをしている錯覚さえ覚える

風とプテラノドン、始祖鳥を取り合わぜた句を
何度かトライしたが成功したことはなかった

今回初めての選で一息つける
このテーマで再度挑戦したい

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ラケットに遠い青春リラの花 岡部ひさ子

2020-06-25 | 今日の季語


ラケットに遠い青春リラの花 岡部ひさ子

遠い青春は少し安易な表意に感じるが
ラケッタを握る作者にふとリラの強い香りが襲う
時空を超えてあの日あの顔あのでき事が蘇る
甘く切ないあの熱い日の記憶である
(小林たけし)



【ライラック】
◇「リラ」 ◇「リラの花」
モクセイ科の落葉低木。ヨーロッパ原産。高さ5メートル内外。5月頃、淡紫色で四裂した長さ約1センチの花を開き、芳香を放つ。園芸品には白・淡紅色がある。日本では東北・北海道の寒地でよく育ち、ことに北海道が知られている。リラの英語名。香水の原料としてもしられる。

例句 作者

低音を好みてリラを愛しけり 後藤夜半
旅人のものうき刻のリラの花 草間時彦
リラ冷えや旅の地酒をすこし酌み 舘岡沙緻
リラの花朝も夕べの色に咲く 阿部みどり女
リラ挿せば羽ばたき過ぎし月日かな 林 翔
空もまた暮れつつリラの色となる 水原秋櫻子
リラ咲かすステンドグラスの夕映え 赤尾茶香
公園や領事夫人のライラック 船矢深雪
舞姫はリラの花よりも濃くにほふ 山口青邨
花曼茶羅締め括りですリラの風 浜本初子
降る雨の粒見えてをりライラック 照井翠

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らりるれろ言つてごらんよ羽抜鳥 三軒鼻恭

2020-06-24 | 今日の季語


らりるれろ言つてごらんよ羽抜鳥 三軒鼻恭

古希を越えたあたりから「羽抜鳥」の季語は
にわかに自分自身だとの認識が強まっている
掲句の「らりるれろ」は怪しい呂律を揶揄しているのだと
思われてくる
作者は羽抜鳥に言っているようだが
実は自分自身を揶揄しているのだろう
(小林たけし)


【羽抜鳥】 はぬけどり
◇「羽抜鶏」(はぬけどり) ◇「羽抜鴨」(はぬけがも) ◇「鳥の換羽」(とりのかえば)
鳥類は繁殖期の終わった夏から秋にかけて全身の羽毛が抜けかわる。羽が抜けた鳥の姿は滑稽であるが、また侘しくもみえる。こうした羽の抜けた鶏を羽抜鶏という。

例句 作者

ジーパンの穴も流行か羽抜鶏 東城保子
丸呑を見事果せし羽抜鳥 亀田蒼石
国歌斉唱はみだして鳴く羽抜鶏 幸喜美恵子
子の足にもう追ひつけぬ羽抜鳥 矢野雄三
宇宙探索人棲む村に羽抜鶏 石坂亜以子
寵愛のおかめいんこも羽抜鶏 富安風生
己が羽くわえて歩く羽抜鶏 穴井太
己が羽の抜けしを啣(くわ)へ羽抜鶏 高浜虚子
強がりの貎は別なり羽拔鶏 平野紀美子
気負いなき歩幅のしかと羽拔鳥 中野稔子
派出所の裏の広さや羽抜鷄 長峰竹芳
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たくさんの足音の消え沖縄忌 和田浩一

2020-06-23 | 今日の季語


たくさんの足音の消え沖縄忌 和田浩一

一読戦争の全ての無為と沖縄の無残を語る
少ない言辞と平易いな韻が見事である
消えた足音に読み手それぞれの思いを呑み込んでいる
思わず二読三毒して感動した
(小林たけし)



仲夏
慰霊の日

六月二十三日。太平洋戦争の終わりの頃、沖縄は日米の最後の決戦地になり、多くの民間人が犠牲になった。沖縄の日本軍が壊滅した昭和二十年六月二十三日のこの日を、沖縄県慰霊の日とした。

例句 作者

ノートの余白ただ見てをりぬ沖縄忌 前田典子
地下鉄に熱風が来る沖縄忌 安西篤
戦争がまだ墜ちてくる沖縄忌 松下けん
沖縄忌たった一度の死がずらり 宮里晄
沖縄忌どこへ逃げても海ばかり 國定義明
沖縄忌まだあとずさりする蟹も 宮里晄
沖縄忌参加のための足二本 鈴木築峰

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黒鯉は自意識つよし夏至の家 宮坂静生

2020-06-21 | 今日の季語


黒鯉は自意識つよし夏至の家 宮坂静生

この作者には珍しい心象の句
訪ねた家からの帰途のように感じる
立派な邸宅の庭に立派な池がある
その池にはまた見事な鯉が泳いでいる
大きな黒い鯉の姿がこの家の主を彷彿させる
おりからの日差しも強い
(小林たけし)


【夏至】 げし
二十四節気の1つで、6月21、22日頃に当る(芒種の15日後)。1年中で昼が最も長い日で、東京では昼間が14時間半を超える。

例句 作者

夏至の日の百のグラスを満たしけり 森田智子
夏至の日やみな太陽の子でありし 宇咲冬男
夏至の月更けて日記の一行に 進藤芙蓉
夏至の木に蘊蓄すこし傾ける 菅谷和夫
夏至の水呑んできれいな声を出す 山﨑政江
夏至終わる呼吸が終わる人終わる 山口木浦木
夏至過ぎというは水辺の大男 塩野谷仁
孫マリア北に嫁ぎて夏至祭 林壮俊
思想までレースで編んで 夏至の女 伊丹公子
昏れようと力を拔きし夏至の空 池田璋子
泛子沈む水のくぼみも夏至の昼 桂信子
渦で了る女医の巻尺夏至時刻 澁谷道
私の声で夏至といふ鳥のこゑ 小川双々子
空っぽの犬小屋匂う夏至の雨 広瀬孝子
胸やけがする即ちそれが夏至 山内俳子洞

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三線を蛇の抜け出す午前二時 大竹照子

2020-06-20 | 今日の季語


三線を蛇の抜け出す午前二時 大竹照子

三線は沖縄の蛇皮線のひとつだが
午前2時に蛇が抜け出すという作者の感性に脱帽する
人が最も深い眠りに入っている時間
蛇はそっと抜け出して蛇の世界を享楽している
気取られぬように戻って三線に収まっているのだという
メルヘンチックだが恐ろし気な余韻もただよう
(小林たけし)


【蛇】 へび
◇「くちなわ」 ◇「ながむし」 ◇「青大将」 ◇「縞蛇」 ◇「山楝蛇」(やまかがし)
アオダイショウ、マムシなど色々いるが、トカゲ目ヘビ亜目の爬虫類の総称。ヘビは冬眠するが、啓蟄のころ冬眠から覚め穴から出て夏場、辺りを徘徊し、蛙などの小動物や鳥の卵を食べる。水面を上手に走ることもできる。蝮やハブの類は有毒だが、その他は無害。

例句 作者

余命とは未だ逢わざる槌の子ぞ 高橋修宏
全身で蛇死にゆくや尼寺冷え 和田悟朗
全長のさだまりて蛇すすむなり 山口誓子
冷遇ガール多彩な蛇に名前あり 田島健一
出合いたる蛇の性別不明なり 小川紫翠
利根ぶりの赤き蹴出しや蛇御輿 今井妙
原子ノ火 盗ンデキテアヤツル蛇使イ ますだよりこ
双頭の蛇の如くに生き悩み 野見山朱鳥
口中の傷絶えずして蛇の裔 穴井太
咎のやうに蛇うすれゆくねむりゆく 栗林千津
嘆くまじ濁世をなびく蛇の衣 河野多希女
土の上を利根は流るる蛇は渡る 武田伸一
土臭し生きのびがてらねむる蛇 三橋敏雄
夕釣や蛇のひきゆく水脈あかり 芝不器男
天風は蛇一本に添うて吹く 宇多喜代子
嫌われることを力に蛇生きる 城内明子
宮縁起蛇はひらがなしかよめず 神﨑ひでこ
富嶽百景青くちなわの彫身(ほり)だな 安西篤
己が尾を嚙む虚時間の蛇宇宙 松浦敬親
帝国の蛇の身長切ってみよ 谷山花猿
庭の蛇ながし目のこし消えにけり 高橋千賀子
悪城の壁蛇はたしかにのたうてり 河野多希女
憧れの蛇に覚えてもらいけり 杉浦圭祐
我より出し聲聲なさず蛇の前 千原叡子
指をさす子は見ていない蛇の貎 古市蛇足
搏てば光る小学校の蛇・とかげ 瀧春樹
日表に孤影を残す青大将 宮原光女
日輪のまなぶた蛇のまなぶたひらく 玉記ヒミコ
昼の月石垣に蛇食ひ込みて 星野昌彦
昼の火事蛇ゆっくりと衣脱ぐ 金子徹
暗い河から渦巻く蛇と軽い墓 赤尾兜子

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師の言は濃いめの酸味心太 たけし

2020-06-19 | 入選句


朝日新聞/栃木俳壇 石倉夏生先生の選を頂きました



師の言は濃いめの酸味心太 たけし



季語心太に酸味は簡易な取り合わせだとの想いの残る句ながら

濃いめの酸味」の言葉を捨てがたく作ったものでした



この投句欄には知人の名前が散見されて

元気な様子がうかがえるのも楽しみになっている
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今年竹空をたのしみはじめけり 大串章

2020-06-18 | 今日の季語


今年竹空をたのしみはじめけり 大串章

芽を出したその瞬間から
空を楽しむことを知っている
この空の下
風と遊び雨と唄い雪とは力比べ
長い長いこれからの一生に胸が高鳴ってくる
こんなさわやかな風を感じる
(小林たけし)


【若竹】 わかたけ
◇「今年竹」 ◇「竹の若葉」
筍が成長してすべての皮を落とすと、健やかな若竹となる。幹の緑が若々しく、節の下部に蝋質の白い粉を吹くため緑の幹に白い輪が目立つのも若竹の特徴。

例句 作者

経蔵に万巻眠る今年竹 有馬籌子
高高と皮ひつさげて今年竹 大澤ひろし
今年竹見えざる雨の雫せり 野沢節子
ふるさとの風をあつめて今年竹 竹中伸子
今年竹わが倦怠を突き抜ける 金子功
今年竹晩齢の涯蒼茫と 中島斌雄
抜きん出しことを悔いてる今年竹 宮澤雅子
断念の前もうしろも今年竹 後藤昌治
熱中する青竹薮に働く聲 金子兜太
脱ぎきれぬ皮ぶらさげて今年竹 江中真弓
風渡る秀の弓なりに今年竹 川島芳江
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橡の雨母も安らぎ給ふらむ 結城昌治

2020-06-17 | 今日の季語


橡の雨母も安らぎ給ふらむ 結城昌治

母堂を偲んでの作者の心情は重く切ない
花をつけた橡の木のかたわらに作者は立っている
おりからのそぼふる雨は梅雨寒である
母も安らかに の措辞が雨にしっとりと響きあう
(小林たけし)


【橡の花】 とちのはな
◇「栃の花」(とちのはな) ◇「栃咲く」
全国各地の山地に自生し、大木に成長するものも多い。5月頃、いくつもの白い花穂が空に向かって咲いている様は美しく、街路樹や公園の植樹にも用いられる。「マロニエ」は西洋橡の木と呼ばれているが、こちらはピンク色の花で別種である。

例句 作者

水中にしんと日を置く橡の花 ながさく清江
橡の花貴船といへばこぼれけり 後藤夜半
古里を共に捨て来し栃の花 薮田慧舟
橡の花 フランス菓子とゴスペルと 中田敏樹
橡咲けり人等疲れて笑ひやすく 八木絵馬
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なめくじりいちいち尻を見るなかれ 大畑等

2020-06-16 | 今日の季語


なめくじりいちいち尻を見るなかれ 大畑等

いちいち尻をみるなかれ
このフレーズで幼少期の野糞を思い出した
なかなかなめくじに尻をみせる姿はないだろう
作者の脳裏に残っている景なのだろうと思う
(小林たけし)


蛞蝓(なめくじ、なめくぢ)三夏
【子季語】
なめくじり、なめくじら
【解説】
蝸牛に似ているが、まったく貝がらをもたない陸上軟体動物であ る。腹面の伸縮で這い、そのあとには銀色に光った粘液の道を残 す。梅雨の終わる頃によく出る。

例句 作者

なめくじり寂光を負い鶏のそば 金子兜太
なめくじり育ちし路地のあばら骨 岩本甚一
なめくぢり流れて夜の大都会 永井江美子
はるか来てはるかへ歩むなめくぢり 折井眞琴
捨てたあの思ひが蛞蝓で干(から)ぶ 金子晉
昨日から革命中のなめくじり なつはづき
月光のあと恍惚となめくじら 高橋修宏
生きているなめくじ鉄を越えるかな 杉﨑ちから
真夜中の方向音痴なめくじり 奥山和子
蛞蝓の地へと月光ひきずりゆく 大山安太郎
蛞蝓の速足死処をあやまつな 岩下四十雀
蛞蝓バター図太く溶けるかな 植村金次郎
蛞蝓急ぎ出てゆく人ばかり 石田波郷
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たとふればレノンの眼鏡夏の月 橋本直

2020-06-15 | 今日の季語


たとふればレノンの眼鏡夏の月 橋本直

レノンはあのジョンレノンのことだと分かる
夏の月が彼の眼鏡だと作者はなぞらえる
読み手の解に委ねてにんまりの作者の姿が浮かんでくる
現代俳句ばらではの表現技法なのだ
私には重量の無い白い夏の月のその先をみようとしている
眼鏡のレンズが見えてきた
絶対者への反抗、意思表示なのかも知れぬ
(小林たけし)


【夏の月】 なつのつき
◇「夏月」 ◇「月涼し」 ◇「夏の霜」 ◇「梅雨の月」
単に「月」といえば秋の季語であるが、春夏秋冬それぞれの趣で詠まれる。暑いさ中、一服の涼を求めて外に出、眺め見る夏の月は風情のあるものである。『枕草子』にも「夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ・・」とあり、「夏の月」は古来和歌・俳句にしばしば詠まれた。「梅雨の月」は梅雨の間、雨の降っていない日に見られる月。「夏の霜」は夏の夜、月が地面や草を白々と照らし、さながら霜を置いたように見えることをいう。

例句 作者
たまゆらの草
の匂や夏の月 山中恵子
ためらい傷ほどの痛みや夏の月 柴崎ゆき子
なほ北へ行く汽車とまり夏の月 中村汀女
ゴキブリを叩き損ねて夏の月 谷口慎也
バルカンに火渡りはあり夏の月 秋尾敏
ヒロインの落飾で幕月涼し 松王かをり
三人で熊野に帰る夏の月 杉浦圭祐
地下鉄に人は吸われて夏の月 前川弘明
夏の月とろんと仮名の解けだしぬ 池嶋庄市
夏の月めったやたらに風が吹く 野﨑憲子
夏の月水のいのちを纒ひけり 栗林千津
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