竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

ハンモック少年のように撓うかな 董振華

2021-07-30 | 今日の季語


ハンモック少年のように撓うかな 董振華

ハンモックが少年のように撓う
句はこれだけを表意しているのだが
その言葉には大きな仕掛けがかくされている
その仕掛けに読者はそれぞれの来し方を重ねることになる
少年 心憎い
(小林たけし)


【ハンモック】
◇「吊床」 ◇「寝網」
太い緒で荒く編まれた網で、柱と柱との間や樹陰に吊ってこれに乗り、昼寝や読書などをする。

例句 作者

甲斐駒岳を斜めに仰ぐハンモック 宮武章之
仏跡を巡り疲れてハンモック 広田祝世
ゴッホ眠りゴーギャン揺するハンモック 堀之内長一
ハンモック海の機嫌のいいうちに 日置正次
山彦のゐてさびしさやハンモツク 水原秋櫻子
網の目に肉むら詰まりハンモック 北村妍二

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老人の紫煙涼しき東巴文字 森田かずや

2021-07-28 | 今日の季語


老人の紫煙涼しき東巴文字 森田かずや

嫌煙の風潮は国中に広まって煙草を好む人は肩身が狭い
私は禁煙してそろそろ20年になる
掲句はなんとも懐かしく採りあげさせていただいた
巴文字 の作者の工夫に感心させられた
現在ではこの景を<涼し>とは誰も言うまい
(小林たけし)


【涼し】 すずし
◇「涼気」 ◇「朝涼」(あさすず) ◇「夕涼」(ゆうすず) ◇「晩涼」(ばんりょう) ◇「夜涼」(やりょう)
夏の暑さの中にあって一服の涼気はことのほか心地よいものである。涼を最も求めるのは夏であることから夏の季語とされる。

例句 作者

晩涼やうぶ毛はえたる長瓢 杉田久女
花の実の中垣涼し梨子の窓 鬼貫
髪つめて涼しき妻の車椅子 鈴木喜八郎
さざめきのなかへ柝の入る涼しさよ 矢島久栄
思ひきり旅荷小さくして涼し 今成志津
汽笛涼し川も列車も急カーブ 松室美千代
イヤリング一つを外す一つ涼 小高沙羅
君羨し晩涼の両手は天へ 宇多喜代子
師の墓のうしろの石に涼みけり 深見けん二
引き際の波へ及べる夜涼の灯 花谷和子
目細めて涼むにあらぬ呼吸難 目迫秩父
裸涼みキャベツ畑は「青海波」 香西照雄
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抱かれるごと高階に虹を見る 寺井谷子

2021-07-27 | 今日の季語

抱かれるごと高階に虹を見る 寺井谷子

何か期待の予感
高階は高層マンションあるいはホテルのような非日常の空間は
そうしたところで見る虹はいつもよりずっと近い錯覚に陥ってみえる
足が地に着いていない分だけ心身が浮いている
作者はそれを抱かれるごとくと表意した
(小林たけし)


【虹】 にじ
◇「朝虹」 ◇「夕虹」 ◇「二重虹」(ふたえにじ)
夏、夕立の後などに特に多く見られることから夏の季語とする。大気中に浮遊している水滴によって太陽光が分散されて生じるもので常に太陽の反対側に見られる。まれにその外側に色の配列が逆の副虹が見えることがある。俗に朝虹は雨、夕虹は晴れと言われる。

例句 作者

新しき家はや虻の八つ当り 鷹羽狩行
朝の虹ひとり仰げる新樹かな 石田波郷
残りいる夕べの虹のレクイエム 安田詩夏湖
水使ひ虹樂します老園丁 伊達天
潰(く)えし半身虹もて補完せり吶喊 竹岡一郎
濁り世のゆふべに薄き虹かかる 関洋子
片虹や首の根ふかくしめりをり 佐怒賀正美
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巡礼のように蟻ゆく爆心地 和田浩一

2021-07-26 | 今日の季語


巡礼のように蟻ゆく爆心地 和田浩一

作者は戦争を悼む作品を多く発表している
掲句もその例だが
蟻の列の中にふと作者がゐる幻がみえてくる
(小林たけし)


例句 作者

一兵の道あけておる蟻の道 後藤岑生
一匹の蟻ゐて蟻がどこにも居る 三橋鷹女
人と蟻居ても立つても居られない 吉川葭夫
働き蟻兵隊蟻日はかんかんと 江中真弓
僕に似た蟻穴を出て脱走す 前田霧人
先頭の蟻を知らない蟻の列 栗林浩
兵士蟻地面を踏まず急ぎけり 菊地乙猪子
刺草(いらくさ)に蟻走り入り走り出る 津根元潮
力行の範たる蟻をつぶしけり 相生垣瓜人
勤勉が身の破滅にて蟻の列 水谷郁夫
埋めきれぬ時間大きな黒い蟻が来て 福富健男
夜の卓に逃亡兵の蟻が来る 守谷茂泰
夜の蟻迷へるものは弧を描く 中村草田男

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少年に滑走路あり大夏野 三木基史

2021-07-23 | 今日の季語


少年に滑走路あり大夏野 三木基史

だれにでも記憶にある少年時代の滑走路
両手を広げ声を張り上げて野をかけた
いつしか心は空をも飛んでいた
(小林たけし)


【夏野】 なつの
◇「卯月野」(うづきの) ◇「五月野」(さつきの) ◇「青野」(あおの)
夏草の生い茂る野原。緑濃く、強い日差しを受けた草の茂みからは草いきれが立つ。「卯月野」は陰暦4月の新緑の頃の野、「五月野」は陰暦5月、梅雨の頃の野である。

例句 作者

子を盗ろ子とろ青野の果ての曲馬団 山田征司

少年の夏野にビラが降っている 秋尾敏
少年の眉目まっすぐ夏野かな 松本弘子
年三百日射爆の大地いま青野 大岩水太郎
怒らぬから青野でしめる友の首 島津亮
憲法へ水の流れる夏野かな 松下カロ
棒一本立てて夏野を去りし父 池田守一
母病む日青野を白く背に残し 安西篤
沈黙の青野ひろげる村なりき 髙尾日出夫

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水打って失いし日が匂いだす 永井潮

2021-07-22 | 今日の季語


水打って失いし日が匂いだす 永井潮

失いし日
水を打ってこれを取り戻す
今日はきっとあてが外れたような不本意な日だったのであろう
気を取り直したような感じが良く解る
(小林たけし)



【打水】 うちみず(・・ミヅ)
◇「水打つ」 ◇「水撒く」(みずまく)


例句 作者

水を打つ思いこみしを払うべく 河野胆石
水を撒く尾張平野のまんまん中 金子ひさし
水打ちし庭へ骨箱向けやりぬ 豊田まつり
水打ちておのれの影を消してゆく 横坂けんじ
水打ちて夕星ひとつともしけり 豊田都峰
水打ちて緑化何でも相談所 池田冨美
水打って影に重さの生れけり 高橋和彌
水打って末広がりに世を生きる 鈴木和代
水打つて戸の開いてゐる安寧かな 長澤奏子
水打つや休憩中の脳細胞 富田花舟
水打つや昨日の蜂も来ておりぬ 平田幸子


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長身のさびしきことも日の盛り 中井洋子

2021-07-20 | 今日の季語


長身のさびしきことも日の盛り 中井洋子

いつもは毅然として活気あふれる長身の友
何故か今日はさびしげに見える
夏の日盛り、だれもが元気を失う
作者はそこを切り取った
(小林たけし)


【日盛】 ひざかり
◇「日の盛り」
夏の日中の最も熱い盛り。正午過ぎからことに2時、3時頃を指していう。「炎昼」と共に太陽熱の激しさを強調する季語。《炎昼:夏(時候)》

例句 作者

日盛りの紺とたたかふ鳥飼へり 石田よし宏
日盛りを来てくっきりと押す拇印 鈴木砂紅
正装の鴉が歩く日の盛 名久井清流
滾るものあり日盛りの*祷りの木 橋爪鶴麿
羽根広ぐ孔雀のダンス日の盛り 石田敏子
腰太き南部日盛農婦かな 成田千空
象は皺に覆はれてゐる日の盛り 岩淵喜代子
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月見草黒部の水をやさしくす 宇咲冬男

2021-07-16 | 今日の季語


月見草黒部の水をやさしくす 宇咲冬男

月見草の咲きようは
だれをも優しくしてくれる
作者はひとたび荒れれば凄まじい黒部の川までも
月見草がやさしくしているのだという
だれしも頷く断定だ
(小林たけし)


【月見草】 つきみそう(・・サウ)
◇「待宵草」(まつよいぐさ) ◇「大待宵草」 ◇「宵待草」(よいまちぐさ)
南アメリカ原産のアカバナ科の多年草で、夏の夕方、白い四弁の花を付け翌日、しぼむと紅変する。観賞用として栽培されてきたが、最近ははあまりみかけなくなった。現在この名で呼ばれているのは、南米原産の待宵草、あるいは大待宵草で、海辺や川原に広く帰化している。こちらの方は鮮やかな黄色の花である。

例句 作者

紀の海に一筋の潮月見草 大嶽青児
眼鏡購いぬ海が続いて月見草 和知喜八
砂丘はなるる月のはやさよ月見草 大須賀乙字
英学の夢聴くミルン月見草 船矢深雪
躬のどこか滅びの色に月見草 河野多希女
軍港の眠り足りない月見草 川辺幸一
逢へなくば眼つむる癖や月見草 髙橋あや子
B型の月見草なり残生も 佐藤琳子
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夕立なか野鯉のやうな下校生 大竹照子

2021-07-15 | 今日の季語


夕立なか野鯉のやうな下校生 大竹照子

下校の子等が夕立の中を走っている
その様子を野鯉のようだと言い切っている
句意に他意はない
景を見事に切り取って見事
(小林たけし)







夕立】 ゆうだち(ユフ・・)
◇「夕立」(ゆだち) ◇「夜立」(よだち) ◇「白雨」(はくう) ◇「夕立晴」 ◇「夕立風」 ◇「夕立雲」
午後や夕方、急に曇って来て短時間に激しく降るにわか雨。夏に多い。発達した積乱雲によって起こり、雷を伴うことが多い。通常1時間位でからりと晴れる。「夕立つ」と動詞にも用いる。 「白雨」ともいう。

例句 作者

漆黒や鯉の跳ねたる夕立雲 秋篠光広
夕立来て暴れ神輿のなほ猛る 杉本光祥
夕立をにぎやかに来る飛騨乙女 鈴木五鈴
夕立の来さうな烏骨鶏の小屋 山尾玉藻
一滴の天王山の夕立かな 大屋達治
一滴の大きく夕立来りけり 柴田佐知子
夕立をかはす男のシャツの中 黛まどか
桑海や大夕立あとなほけぶる 高浜年尾
夕立来る暗さがワイングラスまで 山田弘子
言訳に一夕立の通りけり 一茶

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木曽川の音の中なり籐の椅子 長谷川 櫂

2021-07-13 | 今日の季語


木曽川の音の中なり籐の椅子 長谷川 櫂

作者のまどろんだ姿が浮かぶ
いつか寝椅子もろとも木曽川の音の中
(小林たけし)


【籐椅子】 とういす
◇「籐寝椅子」(とうねいす)
籐の茎などで編まれた椅子で、専ら夏に用いられる。仰臥出来るように大型に作られたものを籐寝椅子という。

例句 作者

週末は虹を門とす藤寝椅子 中島斌雄
竹籟を聴くまどろみや藤寝椅子 渡部抱朴子
籘椅子や一日かならず夕べあり 井沢正江
籐椅子のヌードモデルのガウンかな 浅井陽子
籐椅子に夜を大事にしてをりし 嶋田一歩
モーツアルトの音域に置く籐寝椅子 横坂けんじ
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またもとのおのれにもどり夕焼中 飯田龍太

2021-07-11 | 今日の季語


またもとのおのれにもどり夕焼中 飯田龍太

夕焼はおそらくとてつもなく見事なものだったのだろう
現世の塵芥に汚れた自分
夕焼を全身に浴びて昔のほんとうの自分を取り、脅したようだ
(小林たけし)


夕焼】 ゆうやけ(ユフ・・)
◇「ゆやけ」 ◇「夕焼雲」
日没の頃、西の空が赤く染まる現象で、朝焼けとともに薄明現象の1つである。夏の夕焼の景の壮快さから、夏の季語としている。

例句 作者

ゆうやけこやけだれもかからぬ草の罠 穴井太
ゆうやけのこれそれあれどれどれみれど 高橋京子
イヤホンを外す夕焼跨ぐとき 三木基史
リハビリの妻活き活きと夕燒す 川北昭二
一行ずつ夕焼け喰べる生家です 森田高司
中州まで靴が流れて夕焼くる 花房八重子
人生に悔あり夕焼一人見て 羽渕順子
伴大納言絵巻の中も夕焼けぬ 神田ひろみ
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さわさわと女神の濯ぎ青葉騒 岩佐光雄

2021-07-09 | 今日の季語


さわさわと女神の濯ぎ青葉騒 岩佐光雄

中七<女神の濯ぎ>が秀逸で全てを言い尽くしている
ざわざわと 青葉騒は捕捉に過ぎる
(小林たけし)


【青葉】 あおば(アヲバ)
◇「青葉若葉」 ◇「青葉山」 ◇「青葉風」
若葉が茂っているさま。青々として生気に満ち溢れた様子である。「青葉若葉」は樹木により濃淡の異なる緑の葉が混じった様子をいう。

例句 作者

青葉光わけても桂林かな 名和未知
あおによし故国ことごとく青葉 鈴木砂紅
ひるがえる葉裏で僕の手錠はずそう 上月章
丁寧な黙*祷の刻青葉鳴り 御崎敏江
世界中トースト飛び出す青葉風 佐怒賀正美
何の木といわず青葉の匂う闇 對木鴻子
写経して弟の平癒や青葉祭り 川島チヨ子
呼吸さびし柱と青葉の樹がつつ立ち 阿部完市
土に還る土偶を照らす青葉かな 堀之内長一
土曜日のちょっといい酒青葉雨 朝日彩湖
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出水拡がる鉄格子にすがる女越し 金子兜太

2021-07-08 | 今日の季語


出水拡がる鉄格子にすがる女越し 金子兜太

鉄格子にすがる女
この女越しに出水がひろがる
まさか実景ではあるまいとは思うが
作者の戦争体験にてらせばありえないことは何もない
(小林たけし)


【出水】 でみず(・・ミヅ)
◇「夏出水」 ◇「梅雨出水」 ◇「出水川」
梅雨時の長雨や梅雨末期に多い大雨や集中豪雨で水量が増し河川が氾濫すること。溢れ出た水は濁流となって野や田畑や人家を襲う。時には都会を流れる川も氾濫することがある。台風による出水は「秋出水」という。

例句 作者

出水川橋洗ふ音夜もひびく 鈴木勇之助
水ひくや葉に擁かれて青胡桃 内田保人
白日に出水の泥の亀裂かな 沢木欣一
梅雨出水流るゝものに蛇からみ 松浦真青
出水して森の奥なる月明り 中川宋淵
天に星地に闇幹に出水跡 宇多喜代子


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七夕や別れに永久とかりそめと 鷹羽狩行

2021-07-07 | 今日の季語


七夕や別れに永久とかりそめと 鷹羽狩行

さまざまな別れのあった来し方をふりかえる
そうか今日は七夕だった
絶妙な取り合わせといえよう
句意は平易で鑑賞も不要だろう
(小林たけし)

七夕】 たなばた
◇「七夕祭」 ◇「星祭」 ◇「牽牛星」(けんぎゅうせい) ◇「彦星」 ◇「織女星」(しょくじょせい) ◇「機織姫」(はたおりひめ) ◇「織姫」 ◇「星合」(ほしあい) ◇「星迎」(ほしむかえ) ◇「星今宵」 ◇「七夕竹」 ◇「七夕流し」 ◇「鵲の橋」(かささぎのはし) ◇「乞巧奠」(きこうでん) ◇「願の糸」(ねがいのいと) ◇「梶の葉」(かじのは)

例句 作者

七夕や広げて見入る青写真 岡野順子
七夕や牛馬流れてゆきしかな 横須賀洋子
七夕や王様クレヨン散らかりて 国武十六夜
七夕や男忘れて病み居たり 河野南畦
七夕や短冊百枚あなたと書く 横須賀洋子
七夕や輪ゴムが一つ落ちてゐる 阿部青鞋
七夕や遠くに妣の衿白し 大西静城
七夕や遺髪といへるかろきもの 角川照子
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半身を空へのりだし袋掛け 片山由美子

2021-07-05 | 今日の季語


半身を空へのりだし袋掛け 片山由美子

おそらくは実景をみての即吟だろう
まざまざと絵画のようにその景が浮かぶ
活躍している作者の初学の作品とうかがえる
(小林たけし)



袋掛】 ふくろかけ
【子季語】
果物の袋掛
【解説】
夏に実った果実を、害虫や鳥から守る為に、紙で作った袋をかぶせること。枇杷、桃、梨、林檎、葡萄などに行う。

例句 作者

手の範囲脚立の範囲袋掛 山下美典
袋掛来世はどこで袋掛 星野明世
袋掛山腹かけてすゝみをり 清崎敏郎
裏富士を仰ぎて桃の袋掛け 大橋和子
黒潮の沖が雲呼ぶ袋掛 岩崎洋子
梨畑の女ばかりの袋掛 長谷川浪々子
波音のけふのびやかに袋掛 赤尾冨美子
海光に遠近のあり袋掛 岩本多賀史
父も見し樹上の山河袋掛 竹鼻瑠璃男

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