高浜虚子 「五百五十句」第4回 昭和十一年四月
梨花村の直ぐ上にあり雪の山
宝石の大塊のごと春の雲
四月十九日 箱根丸にて楠窓、友次郎と協議の末、米国経由帰朝のことを断念。午後、松岡夫妻、楠窓、町田一等機関士、章子、友次郎等とサンフリート村に花畑見物。
舟橋を渡れば梨花りかのコブレンツ
両岸の梨花にラインの渡し舟
梨花村の直ぐ上にあり雪の山
四月二十一日 ライン河。
木々の芽や素十すじゅう住みけん家はどこ
四月二十一日 シユロツス・ホテル、バルコニーよりハイデルベルヒの町を望む。
望楼ぼうろうある山の上まで耕され
四月二十二日 午後一時五分発、車中雑詠選に没頭。夜、伯林ベルリン著。三菱商事藤室益三夫妻に迎へられ大和旅館に入る。沿道触目。
夜話やわ遂ついに句会となりぬリラの花
四月二十四日 藤室夫人東道、日本人の学校参観、講演。「あけぼの」にて昼食。それよりオリムピツク敷地一見。カー・デー・ベー百貨店に立寄り帰宿。大毎社員加藤三之雄来訪。夜、三菱商事支店長渡辺寿郎邸にて晩餐会。井上代理大使夫妻、孫田日本学会主事、藤室夫妻等と小句会。
春風や柱像屋根を支ささへたる
四月二十六日 渡辺夫人、藤室夫妻東道、ポツダムに赴く。恰あたかも日曜日。ポツダム宮殿。
箸はしで食ふ花の弁当来て見よや
四月二十六日 更に桜の名所ヴエルダーに車を駆る。藤室夫人携ふるところの日本弁当を食ふ。群衆怪しみ見る。
国境の駅の両替遅日ちじつかな
四月二十七日 藤室夫妻と再び日本人学校に赴き、日本人会にて昼食。午後一時五十分伊藤夫妻、迪子、バーミング、ビユルガ姉妹、京極、篠原、高田、寺井、昌谷、世良、仙石に送られツオ駅発、独蘭国境に向ふ。
倫敦ロンドンの春草を踏む我が草履ぞうり
四月二十八日 朝七時前ハーウツチ港著。それより汽車にてリバプール・スツリート・ステーシヨン著。上ノ畑楠窓、八田一朗、松本覚人、槙原覚、河西満薫、有吉ありよし義弥、高橋長春、常盤の主人岩崎盛太郎の出迎を受く。それより覚人君嚮導きょうどうの下に楠窓、一朗両君と倫敦市中一見、デンマーク街の常盤本店にて休息。タフネルパークロードの常盤別館に入る。駒井権之助、朝日新聞社古垣鉄郎氏来訪。晩餐を待つ間小句会。
名を書くや春の野茶屋の記名帳
四月三十日 覚人東道、沙翁さおうの誕生地ストラツトフオードに向ふ。楠窓、一朗、友次郎、章子同行。
春の寺パイプオルガン鳴り渡る
四月三十日 シエクスピア菩提寺ぼだいじ。
売家を買はんかと思ふ春の旅
四月三十日 三時頃シエクスピア菩提寺より帰途に就く。
船旅を思い切り楽しんでいる様子が伺える梨花村の直ぐ上にあり雪の山
宝石の大塊のごと春の雲
四月十九日 箱根丸にて楠窓、友次郎と協議の末、米国経由帰朝のことを断念。午後、松岡夫妻、楠窓、町田一等機関士、章子、友次郎等とサンフリート村に花畑見物。
舟橋を渡れば梨花りかのコブレンツ
両岸の梨花にラインの渡し舟
梨花村の直ぐ上にあり雪の山
四月二十一日 ライン河。
木々の芽や素十すじゅう住みけん家はどこ
四月二十一日 シユロツス・ホテル、バルコニーよりハイデルベルヒの町を望む。
望楼ぼうろうある山の上まで耕され
四月二十二日 午後一時五分発、車中雑詠選に没頭。夜、伯林ベルリン著。三菱商事藤室益三夫妻に迎へられ大和旅館に入る。沿道触目。
夜話やわ遂ついに句会となりぬリラの花
四月二十四日 藤室夫人東道、日本人の学校参観、講演。「あけぼの」にて昼食。それよりオリムピツク敷地一見。カー・デー・ベー百貨店に立寄り帰宿。大毎社員加藤三之雄来訪。夜、三菱商事支店長渡辺寿郎邸にて晩餐会。井上代理大使夫妻、孫田日本学会主事、藤室夫妻等と小句会。
春風や柱像屋根を支ささへたる
四月二十六日 渡辺夫人、藤室夫妻東道、ポツダムに赴く。恰あたかも日曜日。ポツダム宮殿。
箸はしで食ふ花の弁当来て見よや
四月二十六日 更に桜の名所ヴエルダーに車を駆る。藤室夫人携ふるところの日本弁当を食ふ。群衆怪しみ見る。
国境の駅の両替遅日ちじつかな
四月二十七日 藤室夫妻と再び日本人学校に赴き、日本人会にて昼食。午後一時五十分伊藤夫妻、迪子、バーミング、ビユルガ姉妹、京極、篠原、高田、寺井、昌谷、世良、仙石に送られツオ駅発、独蘭国境に向ふ。
倫敦ロンドンの春草を踏む我が草履ぞうり
四月二十八日 朝七時前ハーウツチ港著。それより汽車にてリバプール・スツリート・ステーシヨン著。上ノ畑楠窓、八田一朗、松本覚人、槙原覚、河西満薫、有吉ありよし義弥、高橋長春、常盤の主人岩崎盛太郎の出迎を受く。それより覚人君嚮導きょうどうの下に楠窓、一朗両君と倫敦市中一見、デンマーク街の常盤本店にて休息。タフネルパークロードの常盤別館に入る。駒井権之助、朝日新聞社古垣鉄郎氏来訪。晩餐を待つ間小句会。
名を書くや春の野茶屋の記名帳
四月三十日 覚人東道、沙翁さおうの誕生地ストラツトフオードに向ふ。楠窓、一朗、友次郎、章子同行。
春の寺パイプオルガン鳴り渡る
四月三十日 シエクスピア菩提寺ぼだいじ。
売家を買はんかと思ふ春の旅
四月三十日 三時頃シエクスピア菩提寺より帰途に就く。
旅先での邂逅の描写も踊っている
最後の掲句にこの旅の感動が著しい(丈士)