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壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

春月

2011年03月15日 23時00分29秒 | Weblog
        春月や印金堂の木のまより     蕪 村

 「印金堂(いんきんどう)」は、山城国葛城郡花岡村妙光寺の山上にある。清滝の付近、と言った方がわかりやすいかも知れない。方一間の小仏堂であるが、壁の上に五色の絽を張り、印金で模様を表している。
 「木のまより」は、「木の間越し」の意ではない。つまり、木の間から春月の光が差し込んでいるの意ではなくて、木の間から春月が上ったの意である。「より」で切ったところに、月の出の勢いがこめられている。
 もちろん、作者の身は堂外にある。堂影も樹影も一様に暗いのであるが、それだけに春月の面は明るいのである。春月の「黄色い光」があまりにもきらめいて鮮やかなので、それが直ちに想念として堂内の「金色」と結びついたのである。
 
        五月雨の降りのこしてや光堂     芭 蕉
 これも、金色が想念としてのみ働いている点は共通である。ただ、芭蕉の句は、光堂そのもののたたずまいが、奥深く命あるものとして探られていて、幻想味が勝っている。
 対して蕪村の句は、絵画的構図の方にすぐれていて、その点でやや平面的である。
 芭蕉の句のリズムの荘重さは、五月雨にふさわしく、蕪村の句のリズムの軽快さは、春月にふさわしい。

 季語は「春月」で春。

    「印金堂をめぐる木立の間から、いましも、まるまるとした春月が上った。いかにも
     艶にきらきらしく、堂内の壁上の印金を空に施したかのようである」


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