隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0435.桜姫

2003年09月25日 | 歌舞伎ミステリー
桜姫
読了日 2003/9/25
著 者 近藤史恵
出版社 角川書店
形 態 単行本
ページ数 234
発行日 2002/01/05
ISBN 4-04-873336-2

 

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easyseek.netの新着案内で出品されていることを知り購入した。ごくまれに本書のような比較的新しい本がネットショップに出品され、好きな作家の本だと多少無理をして買ってしまう。著者を知る契機となった「ねむりねずみ」(313.参照)と同様、タイトルを見ただけで「あっ、あのシリーズだな!」と判ってしまう事もあるのだ。送られてきた本は、予想通り「ねむりねずみ」、「散りしかたみに」(331.参照)に続く、今泉文吾シリーズのうち、梨園の事件を扱う歌舞伎ミステリーだった。
単行本の装丁が、内容に見合った趣で、良いなと思ったが、惚れてしまえば何とやらで、皆良くなってしまうのがファン心理か?

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さて今回の主人公で、語り手となっているのは、歌舞伎の名優・市村朔二郎の娘・小乃原笙子である。例によってもう一人の語り手が、歌舞伎大部屋俳優の瀬川小菊だ。二人あるいは複数の語りが交互に現れて、ストーリーを進展させる形式は、この作者の常道で、他の作品にも良く使われている。
家を出て一人暮らしをしている笙子の所へ、千草会から招待状が送られてきた。千草会というのは、大部屋の歌舞伎役者が、自分たちで運営している勉強会である。しかし、笙子と千草会は何の繋がりもなく、それ以来忘れていたが、土曜日の朝、封筒の中を見ると今日がその日だったことから、それまで行く気も無かった公演に出かけてみることにした、という幕開きだ。
公演は鶴屋南北の「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」だったが、笙子は劇場で貧血症で倒れ、医務室に運ばれる。気がつくと浴衣姿の青年が付き添っており、中村銀京という役者だった。
「僕が招待状を送ったのだ」と言う。笙子の死んだ兄を知っていたので、笙子に会いたかったとも言った。桜姫を演じたのがこの銀京だった。

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こういうところを読んで、僕はふと同じような話を読んだことがあるような気がしていた。が、よく考えてみると、話の筋ではなく雰囲気が似ているのだと気づいた。平岩弓枝氏の「黒い扇」を思い浮かべたのだ。
さて、この千草会の演目「桜姫東文章」が本公演になるという話が持ち上がったとき、同じ舞台に立った女形の瀬川小菊は何か腑に落ちないものを感じるのだった。

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著者のこのシリーズを、僕が好きなのはお馴染みの登場人物たちの会話が心地よい響きを持っているところである。小菊の女性言葉も少しも不自然ではなく、歌舞伎界の雰囲気をよく伝えている感じだ。
勿論、謎を追うストーリーが重要なファクターであることは言うまでも無い。その謎は、小乃原笙子の一人暮らしと、幼い過去の記憶の中にあった。

 

 

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