隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1552.虚無への供物

2015年10月15日 | サスペンス
虚無への供物
読了日 2015/09/21
著 者 中井英夫
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 664
発行日 1974/03/15
ISBN 4-06-136004-3

 

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譜によれば、この作品は昭和39年(1964年)2月に塔晶夫の名で、講談社から刊行されたという。この文庫はその10年後に同社から出ているから、その間10年を要しているという勘定だ。これを買ったのはそれほど前ではないが、それでも買ってから数年は経つだろう。なんでそんなに間が空いたかと言えば、これと言って理由はない。いつもの気まぐれだ。一部のミステリーマニアの間では名作?の誉れ高いタイトルなので、いつかは読んでおこうと買っておいたのだった。
若いころと違って歳をとった今では、本の厚さに恐れをなす、といった感じで、そんなことも読むのが後回しになった要因かもしれない。僕は自慢になる話ではないが、中井英夫氏を知ったのは、この作品が「薔薇の殺意~虚無への供物」(1997年NHK)というタイトルでドラマ化されたものを見た時だった。
ミステリーファンが聞いてあきれる、などと言われ兼ねないが、僕は最近になって、知らないことの方が多いのは、普通だと思うようになった。だから、著者を知らなかったというのも、自慢にはならないが恥だとも思っていない。
ま、それはともかくとして、この分厚い文庫を読み始めて間もなく、その探偵趣味ともいえるような内容に、引き込まれたのである。余分なことだが最初にこの本が出た昭和39年は、僕が結婚した翌年で、たぶんその後何年かはミステリーを読んでいなかったと思う。だからといって僕がこの本を知らなかったという言い訳でも何でもないが、横溝正史氏の「本陣殺人事件」の一部分を想起させるようなところが、若いころの探偵小説に夢中だったことを思い出させたのだ。

 

 

零落した氷沼家を舞台に始まる四つの事件は、果たして連続殺人なのか?
第一の事件は氷沼家の風呂場で氷沼紅司の死体が発見されたことだ。現場は内側から施錠された密室であることから、病死と思われたが、一同は巧緻な犯人がいるという仮説に対して、推理合戦を始める始末だ。
何だこれは?と思わせる展開だが、徐々にミステリーらしさを増して、謎解きは単純と思われた事件が第2第3の殺人が起こるところが混迷を深めていく。

 

 

戸川乱歩氏をはじめ、古今、内外のミステリー作家や、その作品が比喩として現れるところも面白く、途中までユーモア・ミステリーかと思えるようなところもあるが、終盤に至るまでには、重厚さを表しながらミステリーとしての展開を見せ始める。
現在のスピード感にあふれるミステリーに比較すれば、時の流れがいかにも時代にふさわしい感じで、僕などはもう少しスピードアップしないかと思うようなところもある。しかしそんなところは枝葉末節なことだろう。全体としては、ミステリー好きの人なら一度は読んでおいて、損はないだろう。アンチミステリーとして有名だとの話もあるが、僕はミステリーとして、あるいは昔ながらの探偵小説?として楽しんだ。

 

 

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