Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「誠実な詐欺師」トーベ・ヤンソン著(富原眞弓訳)筑摩書房

2010-03-02 | 外国の作家
「誠実な詐欺師」トーベ・ヤンソン著(富原眞弓訳)筑摩書房を読みました。
雪に埋もれた海辺に佇む「兎屋敷」と、そこに住む老女性画家アンナ。
アンナに対して、従順な犬をつれた風変わりなひとりの娘カトリがめぐらす長いたくらみ。しかしその「誠実な詐欺」は、思惑とは違う結果を生んでいきます。
改訳のうえ出版された文庫版で読みました。内容について触れますのでご注意ください。

愛想が悪く礼儀正しさもないため人々から敬遠されていますが、計算に天賦の才を発揮する「誠実な」カトリ。カトリはあるきっかけで解雇され、弟マッツと自分の生計をたてるために、兎屋敷で住みこみで働くために計画をたてます。
屋敷の女主人アンナは親の遺産がありお金に不自由せず、人の悪口を言ったことがない画家。ふたりとマッツと犬はひとつの屋敷で一緒に住むようになり、3人と一匹の関係はいやおうなく変わっていきます。

ふたりだけの密な姉弟関係に入り込む、アンナとマッツの本を介した親しい関係。
カトリの犬をカトリからひきはなしたアンナのたくらみ。

数字、命令、利権。あいまいさを考慮しない価値観で生きてきたカトリ。
みんなに頼られはするものの愛されてはいない。
妄信、怠惰、つきあい。人の悪意を考えず、金の計算に無頓着で芸術の世界に生きてきたアンナ。お人よしでだまされやすいけれど一定の地位を築いて暮らしている。
ふたりは当然のごとく反発しあいますが、でも次第にお互いの価値観が自分たちに侵食してくるのも感じます。

「カトリ、四六時中不信感に苛まれるより、騙し取られるほうがずっといいわ。」
「でも手遅れですよ。あなたはもう人を信用しなくなっている。」

どちらの生き方や考え方が正なのではありません。
個人的には今まで「お嬢さん」で生きてきたアンナが、老年になってから「人への懐疑」を植えつけられるのは読んでいて心が痛むものがあります。
でも変わってしまったものはもう変わったままでいくしかない。
最後、アンナが「失意」ではなく新しい目で森を見るようになるのは救いです。

「モモ」ミヒャエル・エンデ著(大島かおり訳)岩波書店

2010-03-02 | 児童書・ヤングアダルト
「モモ」ミヒャエル・エンデ著(大島かおり訳)岩波書店を再読しました。
町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。
町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。
そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります。

私がこの本を初めて読んだのは中学一年生のとき。
その当時「モモちゃんとアカネちゃん」という児童書のイメージが強かった「モモ」という名前。友人に薦められた本でしたが「(装丁からいっても)こどもの本でしょ・・・」とあまり気もすすまず読んだのですが、どかん!とやられました。

灰色の男たちは限りなく怖ろしく、時間の花は限りなく美しい。

それ以来大好きな本なのですが、今回の再読は久しぶり・・・大学の時以来?
社会人になって、母親になって。
毎日時間に追い立てられている自分にこの本はしみました。
子供の本だけれど、大人が読むと身につまされる。
やさしい言葉で深い真実が語られている。
本当にすばらしい本です。

「時間とはすなわち生活なのです。そして生活とは、人間の心の中にあるものなのです。人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそって、なくなってしまうのです。」

私は「今」に体はあるけれど、心は「今」にない。
今目の前にあるごはんを食べながら、こどもの話にもうわのそら。
今日人に言われた嫌な言葉(過去)を思い出している。
今目の前にあるごはんを食べながら、なまへんじ。
心はこの後のお風呂や、寝かしつけ(未来)を考えている。
過去に囚われ、未来を思い煩い、今目の前にあるこどもと食べるごはん(現在)を味わっていない。
そんなふうに「今」の時間を味わっていない生活をしている自分。
「効率的な段取り」ばかりを考えて、味わわないで過ごした時間は灰色の男にとられてもう私の元には戻ってきません。

時間の花は、自分でしっかりとつかまえていなきゃなぁ・・・。