Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

高千穂鉄道存続への悲観論は段々強くなる。

2005-09-18 12:21:17 | 鉄道(地方・専用線など)
先の台風14号で壊滅的な打撃を受けて運休中の高千穂鉄道。
存廃論議が出てきたところに持ってきて、今回の被害があまりに凄まじいことから、天秤が一気に廃止へ傾いたムードも感じられる。

その高千穂鉄道が16日に緊急取締役会を開いた事が宮崎日日新聞に掲載されていた。

記事の要旨は次のとおり。
・被害の全容が明らかになった。橋梁二カ所の流出のほか、線路通行不能箇所が延べ3.6kmに及んでいる。
・これらの復旧には最低でも二年間は必要。
・復旧費用は国が1/4、宮崎県が1/4、沿線市町村が1/4をそれぞれ負担し、残り1/4が高千穂鉄道の負担となる。
・高千穂鉄道側は「想像以上の被害。復旧後に十年二十年とやっていける会社でないと膨大な費用をかける意味がない。被害額が出た段階で存続、廃止を含めて方向性を議論したい」とのこと。

これだけ読むと、まず被害額を確定してから結論を、ということのようだが、毎日新聞宮崎県版の9/17付けの記事にはもう少し詳細に書かれていた。
先の記事とは視点がやや異なり、大株主の宮崎県の認識を捉えることができる。

毎日新聞の記事の要旨は次のとおり。
・16日に開かれた宮崎県議会の一般質問で「経営状況は台風被害で更に厳しくなった。被害額が判明した段階で沿線市町村などと協議したい」、「(被害額については)調査中だが、復旧には多額の経費を要する。経営は利用者減少などから大変厳しかったが、更に厳しくなった」と答弁。
・高千穂鉄道側では16日に開かれた記者会見で「被害額は想像以上。厳しい状況だ」、「社員34人の処遇を早急に決める必要がある」、「心情的には存続させたいが、長い将来を考えたら、厳しい事態だ」と社長が発言。
・今回の台風で下りる災害保険は最高で約4億円。赤字続きのため基金も3.5億円まで減っている。

今回の台風以降の議論で楽観的な要素は皆無だったが、「社員の処遇を早急に決める必要がある」という会社側の発言から「廃止」という方針は水面下で固まりつつあると受け止めた。

そして、「心情的には存続させたいが、長い将来を考えたら、厳しい事態だ」という言葉が今の高千穂鉄道が置かれた立場を端的に物語っていると思う。
元々不採算路線であるところに持ってきて、今回のような自然災害で大被害を被れば採算面の理由から廃止に至る可能性は、今回の高千穂鉄道に限らず、全国のローカル路線に共通している。

廃止されれば、恐らく代替バスが整備される事になるだろうが、現在の独立採算性を前提とするバスの本数は減る。そうなると自家用車で移動できない人は都市部へ移動せざるを得なくなる。
最後は延岡側はともかく、山間部に位置する高千穂側の人口流出は止まらない、要は過疎化が進行する可能性が高いのではないだろうか。

そういった要素を考えると、「廃止」という結論は出しづらくなるのだが、不幸な事にこの国では総合的な観点から公共交通は論じられていない。
官僚の出す、結論ありき、作文としての「数字」による議論ではなく、線路が消えることで交通弱者の移動環境の悪化、アテにならない代替公共交通を見限った人による自家用車への転移、それによる自動車通行量の増加に伴う道路環境の悪化、それに対応するための道路整備費の増加の可能性といった様々な分野に跨る議論もなく、単に採算性の善し悪しだけで存廃が判断されてきたという事例が多い。

それからもう一つの問題は、公共交通の問題は地域に住んでいる人の多くに関わるのに、一部の例外を除いて必ずしも活発ではないと思える点。
これは存続を求める活動には何かしらの思想的なバイアスがかかっていると思われがちであること、政治的な要素を多く含む話であるため厄介事には関わりたくない、自家用車なり原付があれば移動には困らないという心理が働いているのではないだろうか。
これらの要素が絡み合って地域に住んでいる人が存続に関する議論に参加するのを躊躇わせているのではないか、そんな気がする。

いずれにせよ、最終的な結論は出ていないが、よほどの「奇跡」が起こらない限り現状をひっくり返すのは困難だろう。
今回は甚大な被害のため、結論が半ば出ている感もある。
このため、「議論」するまでもないのだろう。悲しいことだが。

今回の台風14号が宮崎県に及ぼした被害は史上最悪の約800億円。去年の台風4つが及ぼした被害が合わせて約647億円というから、その凄まじさが理解できよう。
そんな状況下では利用客が減り続ける第三セクター鉄道への復旧投資への優先順位が下がるのもやむなし、という事なのだろう。

次に九州を訪れた時には必ず乗ろうと決めていた高千穂鉄道。
一昨年延岡を訪れた時に購入した延岡駅の硬券入場券が「形見」になってしまうのだろうか。

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