Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

DMVの話題三題。

2006-10-12 21:58:48 | 鉄道(地方・専用線など)
道路と線路を行き来できるメリットに注目が集まる「デュアル・モード・ビークル」ことDMV。

少し前の話になるが、導入検討に名乗りを挙げた鉄道会社が二つ現れた。
まず一つ目。
「南阿蘇鉄道DMV検討 線路も道路も走行OK 県、観光振興にも期待」(西日本新聞、10/4)

熊本県高森・立野間を結ぶ南阿蘇鉄道。
通勤路線というよりはトロッコ列車を中心とした観光路線という趣が強い路線だが、ここへのDMV導入を熊本県が検討し始めたというもの。

熊本県のDMVへの着眼点は次のとおり。
・南阿蘇鉄道の各駅から離れた白川水源(南阿蘇村)などの観光地を結ぶことができる
・従来のバス路線と同鉄道が一体化し、住民の利便性が増す
・導入コストが比較的安い

一つ目の着眼点についてはDMVの特色そのもの、乗り換えなしで行き来できる点に目をつけたもの。問題はマイクロバス並の輸送力しかないDMVで輸送需要を賄うことができるかどうかだろう。
二つ目については意外に見落とされがちな点だが、DMVが道路を走ればそれで済むというものでもない。場合によっては競合する既存のバス路線との調整が必要になる可能性がある。

今回の事例について南阿蘇鉄道周辺のバス路線を見ると空港リムジンバスが出ている。また、高森を中心に路線バスが出ているものの、それらを補完し、集落間を行き来するコミュニティバス的な使い方もできそうだ。おまけに乗り換えなしで直通もできる。
三つ目に関しては「鉄道車両に比べて安価」という点に着目したものだが、普通のバスよりは高い。
将来の車輌更新を考えた上での発想なのか、それとも観光地直結を目指したものかで考え方は変わってくる。
前者であれば車輌増備で一列車辺りの輸送単位縮小、後者では列車増発の可能性も考えられるが、線路容量の問題もある。その辺りを熊本県と高千穂鉄道がどう考えているか興味深い。

余談だが、旧高千穂鉄道の資産を活用して一部区間復活を目指す「神話高千穂トロッコ鉄道」でもDMVを導入して延岡~高千穂間を結ぼうという構想を持っている。
現南阿蘇鉄道と旧高千穂鉄道を国鉄時代に延岡・熊本間を一つの路線として結ぼうとしていた。
それは「鉄道」という形では叶わなかったが、DMVで両線が繋がれば当初の構想から大分変わるものの接続は実現する。
ただ、神話高千穂トロッコ鉄道による路線復活が遅れに遅れている状況下では実現は夢物語に近いのだろうか。

そしてもう一つ、社運を賭けた「わたらせ夢切符」の9月末で発売中止し、経営不振に一段と拍車がかかったわたらせ渓谷鉄道でこんな構想が持ち上がっていたことを知る。

「わたらせ渓谷鉄道:線路と道路自由走行「DMV」、来年度中にも導入へ」(毎日新聞、9/28)

わたらせ渓谷鉄道はDMVを来年度中に導入する方針を固め、出資者である群馬・栃木及び沿線自治体の同意を10月中にも求めることにした。

DMVの開発元であるJR北海道での試験的な営業運転は「来年4月」から。
JR北海道の営業運転の結果を待たずに導入するとは考えにくいので、仮に導入するとしても早くても来年度末ぐらいだろうか。

こちらもDMV導入のメリットとして線路と道路の自由な行き来を挙げており、具体的には終点の日光市足尾町から日光市中心部に乗り換えなしで足を伸ばせること、環状路線の構築が可能なこと、美術館や行楽地を加えた集客力の多いコース設定が構想に上っている。

また、鉄道車両よりDMVの導入コストが安いことも魅力で、こちらの方が切実かもしれない。
試しに両者の価格差を比較してみる。
DMV 0.2億円 ※ATSを装備して0.3億円
レールバス 1.3億円
実質的にはレールバスの1/4から1/6でDMVは調達可能ということになる。
ただし、その反面で一列車単位の輸送人員は大幅に減少し、レールバス(わ89-101)の座席定員が42人、定員が94人に対してDMVの定員は18人と大幅に減少する。

多様な行き先を満たし、減少する列車一単位当たりの輸送人員を補うためには運転本数の増加を考える必要があるのでは・・・と素人考えで思うのだが、その一方で減便も検討という上毛新聞の報道を見ると何とも矛盾した事を考えていると思わざるを得ない。

車輌更新時期が近づき、車輌調達コストの安さに目をつけて経費削減。
道路との行き来自在という特性を活かした鉄道系交通機関の再編。
「コスト」という縛りの中、その両立は実現するのだろうか。
行政が周辺のバス会社との調整に乗りだし、赤字バス路線の整理も含めた既存バス路線とDMVの延長路線との融合まで考えなければ実現は無理だろう。
もし、これが実現すれば地域の公共交通機関の様相はかなり変わった物になる。

しかし、現実は甘くない。
コスト削減しか念頭にない現状ではそこまで考えが詰められているとは思えない。
「藁にすがれるなら何でも」という状況が見え隠れしているようでは依然として難しい局面は続いているとしか言い様がない。

最後に、来年4月の試験営業運転に向けて準備中のJR北海道と国土交通省の間で「DMV技術評価委員会」の初会合が開かれたというニュース
この技術評価委員会の目的はDMVの運行上の安全性を最終的に確認するために設置されたもので、既に車重の軽いDMVが踏切を通過する際、踏切が鳴らないという恐れがあることが指摘されている。
この対策として踏切をDMV対応に改修することで対応を進めているとのこと。

また、技術評価委員会ではJR北海道の運行計画に基づいて次の課題を3回に亘って検討する。
・踏切の警報機の作動状況
・ATSとの連動
・走行安定性 等

これらの検討結果と来年4月からの試験営業運転の結果を踏まえて技術基準等も確立されていくのだろうか。
いずれにしても、新しい技術だけに熱い期待に見合うような検討を進めて欲しいものだと思う。

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6 コメント

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富士市の動き。 (ZENTAMA)
2006-10-13 01:36:44
富士市では新幹線駅から市街地を通って岳南鉄道に乗り入れるというDMV計画が進行中です。 決して閑散区間でないので輸送力が足りるのかが課題でしょう。

岳南鉄道は富士急行系なのでバスとの連携は問題ないでしょうが、技術的な課題の克服は大変そうです。
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さてどうなるのかな? (Ken)
2006-10-13 13:57:12
DMVを導入した場合、

今だメインテナンスに要するコストと耐用年数が未知ではないでしょうか。

乗車定員、車両価格等、総合的に判断すると既存のバスの方が有利な結果になるのでは?
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DMVの輸送力 (走ルンです)
2006-10-15 00:09:52
DMVに関してですが、基本的にはバスの亜種として考えた方が良いでしょうね。



レール上を走行できるバスであって、JR北海道では、輸送力確保のためにレール上での連結運転を模索しておりますが、そのココロは、単線の鉄道を片道だけ利用して、朝は都市行き、夕方は都市発で連結運転と続行運転を組み合わせて輸送力を確保する考え方のようです。



つまりは地方都市でもピークタイムには都市中心部で発生する渋滞の回避策として、利用度の低いローカル線を利用するという発想ですから、北海道では比較的ありふれたロケーションの想定ですが、北海道以外の地域での有効なソリューションとなる可能性はかなり低いと考えられます。

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DMV... (ちろ)
2006-10-15 20:58:11
DMV。実用化まであと少しといったところでしょうか?しかしながら車重の軽さから、踏切の無警報無遮断という問題が現実のものとすると、踏切の改修が必要となるため、せっかく安い車両を入れても何らコスト的には変わらなくなってしまう可能性すらありますね。

ちなみにその昔、新型気動車を導入しようとした某JR地交線では、この問題が発覚したために、新車を導入しながらも、踏切の改修が終わるまでの間、区間運転にしか充当できなかったという苦い過去もありますので...
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Unknown (富士市民)
2006-10-21 23:40:18
11月下旬に、岳鉄でDMVのテスト走行をするとのことです。(静岡新聞)



岳鉄の終電後、原田駅~市場前(旧国1のあたり)までを使って、DMVが走る上で、安全性のチェックをするとのことです。



実際に、DMVに乗れるのは、来年はじめのテスト走行まで待つかたちになるかな。
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岳南鉄道では・・・ (岳南)
2006-10-28 21:24:14
こんにちは、私岳南鉄道に勤めるものです。

現在岳南鉄道ではDMVの話が富士市との連携でかなり進んでおり、モードインターチェンジもすでに岳南原田駅に設置済みです。試験も詳しいことはお話できませんが今年中に行うようです。(終電が終わった深夜)すでにGPS指令方式の試験の方は終了しています。突然失礼いたしました。
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