HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

プラスαの魅力。

2022-10-26 07:29:39 | Weblog
 ニューヨークから地元福岡に戻った1996年。奇しくもこの年は、天神地区では「第3次流通戦争」が幕を開けた。

 同年秋には、百貨店の岩田屋がソラリアプラザ西側のNTT福岡支店再開発ビルに新館の「Zサイド(ジーサイド)」をオープン。本館は「Aサイド」と改名され、岩田屋は地域一番店2館体制をスタートさせた。翌97年春には、福岡大丸が東側に別館「エルガーラ」を、同年秋には「福岡三越」が南下開業した新・西鉄福岡駅ビルに出店。天神は百貨店だけで売場面積が従来の2.7倍に膨れ上がる一大激戦区となった。

 商業開発は天神だけに止まらない。Zサイドが開業する半年前には、博多区のカネボウ工場跡地にショッピングセンターの「キャナルシティ博多」が開業。ニューヨーク在住時に隣州のニュージャージーで見たモール型SCが日本にも上陸した。さらに天神から遅れること2年半。99年春には博多・下川端商店街が海外のラグジュアリーブランドなどを集積した「博多リバレイン」に生まれ変わった。

 日本中が平成不況で喘ぐ中、福岡は「日本で一番元気な街」として注目される。筆者にも以前から関わっていた業界誌から取材依頼が相次いだ。「天神ファッションウォーズ」などの特集が組まれ、数々のルポを執筆した。あれから20数年が過ぎ、途中では大名地区のファッションストリート化、岩田屋の伊勢丹グループへの傘下入り、天神ヴィオロや福岡パルコのオープン、新・博多駅ビルの開業、天神地下街の延伸があったが、天神の商業施設は九州全域からの集客や福岡市の人口増に支えられ、何とか持ちこたえてきた。



 そして2015年、福岡市はアジアの拠点としての機能を高めるべく、航空法の高さ制限の特例承認や市独自の容積率緩和を組み合わせた「天神ビッグバン」をスタートさせた。このプロジェクトは、24年(コロナ禍で26年まで延長)までの10年(12年)間で天神地区の老朽化したビル30棟を建て替え、新たな空間と雇用創出を目指すもの。数値目標は延床面積で現状の1.7倍(757,000m2)、雇用者数で同2.4倍(97,100人)、建設投資効果2,900億円、経済波及効果8,500億円と設定されている。

 2021年9月には、第1弾として三菱東京UFJ福岡支店跡地に「天神ビジネスセンター」が竣工し、ジャパネットタカタやNECなどが入居。23年春には大名小学校跡地にホテルリッツカールトンなどが入る「福岡大名ガーデンシティ」も開業する。さらに新・福ビル、ヒューリック福岡ビルも建設中だ。商業開発に限って見れば、一部の店舗増と天神コアと天神ビブレ、天神イムズの建て替えのみで、競争激化がエスカレートすることはないと見られる。



 そんな中、新たな計画が発表された。2010年、旧岩田屋本館跡地に開業した「福岡パルコ」本館が14年に新築した新館ともども、26年にも解体工事に着手するというのだ。本館は1936年に開業した岩田屋を居抜きで改装し耐震補強を施しただけでオープン。戦前の建物で店舗の天井高は低く、老朽化は否めない。むしろ建て替えは遅すぎるくらいだ。だが、新館は2014年に旧岩田屋の新館を建て直したもので、完成からまだ8年しか経っていない。

 4年後の2026年までに投資回収が終わるとの目算なのか。むしろ、パルコを運営するJフロントリテイリングが2館同時の建て替えを決断したのは、真向かいでは新・福岡ビル、西隣ではヒューリック福岡ビルの建設が進んでおり、天神の角地にある福岡パルコがハード面で埋没してしまうのを恐れたからではないか。加えて裏手の新天町商店街でも再開発の計画があり、一体で開発すれば容積率の特典を受けられることから、高層化が可能となる。

 さらに天神の魅力向上に資する一定条件を満たし、デザイン性に優れたビルへの建て替えを認定し、インセンティブを付与する「天神ビッグバンボーナス」が与えられることも、追い風になったと思う。

 1973年、東京・渋谷で誕生したパルコは、ハード、ソフトの両面で都市型SCをずっとリードし、2019年の渋谷パルコのリニューアルでは「ノンエイジ」「ジェンダーレス」「コスモポリタン」という次世代型商業施設をコンセプトに掲げた。それだけに、福岡でも都市型SCの再創造に向け、様々なチャレンジをするのは間違いない。


物販・サービス以外のテナントも集積



 ただ、福岡パルコが建て替えれるからといって、新たな魅力を発信できるかは全くの未知数だ。渋谷パルコなら日本の代表するファッション文化の発信基地として、坪効率や歩率家賃を度外視した「コト消費」のテナントなどもリーシングできる。

 一方、福岡天神が九州の首都とは言っても、地方都市に変わりはない。東京を出し抜いて「日本初」を冠にしたファッションテナントを誘致できるとは考えにくく、またそんなテナントがオープンしても、確実にお客を集め売り上げる保証はない。おそらく新・福岡パルコは工事中の新・福ビルやヒューリック福岡ビルと同等の高層ビルになると思われるが、全てのフロアを物販・サービスの既存、新規のテナントで埋めるのは難しいだろう。

 とすれば、どんな構成にすべきか。渋谷パルコを参考にすれば、本館の10階以上をオフィスフロアにして企業に貸し出す手法がある。パルコが若者に照準を当てたテナントリーシングを得意とすることを考えると、スタートアップで起業間もないところやベンチャーなどの新興企業が誘致の対象になると思われる。

 心斎橋パルコのウェルパのような「医療ウェルネスモール」もある。天神は交通アクセスが充実し、企業進出で昼間の人口が増えるので、診療所や調剤薬局が求められる。特にパルコがメーンターゲットとするのは20~40代女性だから、健康診断はもとより日々の健康管理、心身とも良好な状態になれる空間提供(カフェも)は、そうした人々のニーズにかなう。現在の新館をウェルネスモールにすれば、物販サービス・オフィスの本館と棲み分けも可能だ。



 現在、熊本パルコの跡地では、2023年春の開業に向けて新ビルの工事が進んでいる。こちらでは地上3階~11階には「星野リゾート」のホテルがオープンする。他のフロアには「クリニックモール」が開設される計画で、テナントが募集されている。もちろん、天神は外国人旅行客が多いし、ビッグイベントが開催されるとホテル不足が指摘される。インバウンド効果を重視すれば、パルコの物販・サービス(コト消費を含む)とホテルを合体させたビルにするかもしれない。

 Jフロントリテイリングの2022年3~8月期連結決算は、百貨店の高級品が堅調な売れ行きで、大丸松坂屋百貨店の個人外商売上げが19年同期に比べ15%増加。最終損益が黒字となった。一方、SC事業の同期テナント取扱高を見ると、福岡パルコは5月に対前年比で33.4%増と大幅に回復したが、セール期の7月は同0.7%増と勢いが続かなかった。ウィズコロナの中でSC事業を安定させるには、集客できるテナント構成がカギを握るのは言うまでもない。

 Jフロントリテイリングは不動産事業を収益の柱にしつつある。ただ、物販や飲食のテナントはすでに出尽くした感があり、百貨店や他の都市型SCとの奪い合いは熾烈を極めている。ビルがあってもテナントが集まらなければ、デベロッパーは成り立たない。渋谷西武や大丸東京店、高島屋のように「売らない店」を導入しても、それらが不動産事業のメーンにならないのは経営陣もご承知のはず。やはり稼ぎ頭のテナントを誘致するのが肝心なのだ。


 
 その意味で、医療機関なら金融機関から融資を受けやすく、保証金などが確実に担保される。また、ビルインへの新規・移転開業で初期投資をかける以上、短期間で退去することは考えにくく、家賃収入が安定する。小児科や歯科、眼科が同じフロアにあれば、患者側も「ワンストップメディカーブル」が可能なので、来店動機が増すだろう。


 福岡パルコ新館に建て替わる前の天神ハッチェリービルには、土地の所有者である都築学園関連の専門学校が入居していた。天神ビッグバンでビジネス人口が増えれば、キャリアアップのための資格取得に対するニーズも増す。また、3歳から12歳までを対象にアートやプログラミングなどの授業を全て英語で行う外資系の塾も福岡での開校を加速させている。教育施設を誘致するのも、選択肢の一つになるだろう。

 どちらにしても、パルコが誕生したのは1970年初頭だ。それから50年が経過した中、ビル開発とテナントシーシングは新たな段階に入っている。デベロッパーがテナントと一体になって、天神ビッグバン下のマーケティングに注力できるか。求められるテナント、モノやサービスが売れる環境を創造し、魅力的な都市型SCを創り上げていかなければならない。
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