HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

カリスマどもが夢の跡。

2018-08-22 05:48:53 | Weblog
 カリスマと言っても、アマチュアボクシング協会、山根明会長のことではない。業界で一時もてはやされた販売員や読者モデルがどうなるのか。そのカギはECやオムニチャンネルが握るのではないかと思うのだ。まずは以下のニュースから、その側面を探ってみたい。お盆休み前、ギャルファッションの聖地、渋谷109の運営会社「SHIBUYA109エンタテイメント」が公式ECサイト内に「アウトレット」を開設したと発表した。

 主にレディスの30ブランドの在庫品を割安価格で販売するもの。サイトを見ると、セシルマクビー、ダズリン、エモダ、リップサービス、スパイラルガールなど、109の顔というべきブランドが並び、ほとんど商品が3000円以下。2000円以上購入すると、送料無料のキャンペーンも8月23日(木)までの期間限定で実施中だ。

 同社が公式ECサイトにアウトレットを設けるのは、「重点経営施策に掲げるオムニチャンネル施策の一環」。「通常商品のECや昨年からスタートしているスマートフォンアプリなどで得た顧客データとも連携し、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)を強化する狙い」だそうだ。「反応が良ければ、越境ECでも開設を検討していく」という。

 渋谷109の知名度は十分過ぎるくらいある。定期的に展開するブランドの活性化を見据えながら、ギャル系女子の御用達であり続けようとしている。ここまで来れば、新陳代謝を繰り返しつつ、いかに顧客を囲い込んでいくか。そのための全館戦略、販売スタイルが重要な意味をもつ。並行して予備軍となるローティーンにも目を向けながら、多チャンネル化でお客との繋がりをより深めていこうということだろう。

 個々のブランドショップは、自社サイトを設けてECにも注力している。ショップと連動させるオムニチャンネル戦略にも視野に入れている。一方、 SHIBUYA109エンタテイメントのようなデベロッパーは、オムニチャンネルで出遅れ感は否めない。お客にそっぽを向かれないためにも、踏み込まざるを得なかったわけだ。



 このニュースを見て、10年前に書かれた論文が頭をよぎった。2008年3月31日付けの日経MJで、ファッションコンサルタントの小島健輔氏が寄稿された「ユニクロの幻想を捨てよ…本命はファーストSPA」である。この中で、同氏は以下のように解説されている。

 「小売業のSPAはメーカー別注方式や仕様書発注方式などの試行錯誤を経て一九九◯年代以降、AMS(企画開発機能を持ったアパレル受注生産業者)を活用する手法へと進化した。これがファーストSPAだ」(原文のまま)

 「AMSはデザイナーやパターンナー、生産管理者を抱えて企画提案するOEM業者で、エレクトロニクス業界のEMSに相当する。そのメジャー化によって小売業のSPA化は飛躍的に容易となった」(原文のまま)

 平たく言えば、小売事業者がSPAでブランドを展開するには、売場の責任者がブランドのMDの骨格とイメージをしっかり設定し、後はアイテム別にデザインから製造までOEM業者に外注すれば、SPA事業はそれほど難しくないということ。まさに渋谷109に出店するブランドショップは、この手法を取り入れたのである。また、こうも書いてある。

 「ファーストSPAは引き付けた短射程企画と小ロット多頻度投入の『プル型』で高消化率・高回転が期待できる。例えば、東京・渋谷「109」のショップからウィークリーキャリー型(月曜日に企画して金曜日に店頭投入する)型は年間24回転以上という“生鮮商法”だ」(原文抜粋)

 「プロの職業デザイナーより素人の消費者の感性が先行し、様々な得意分野を確立した多数のAMSが便利なサービスを提供する今日、カリスマ販売員読者モデルが顧客代表として商品企画し、AMS活用で最速・最短に市場にこたえるファーストSPAこそ適合モデルであり…」(原文抜粋)

 この行は少し難しいが、短射程企画、小ロット多頻度投入とは、企画にかける時間を短くして、多品種の商品を少量ずつ売場に投入すること。確実に売り切っていくためだ。渋谷109に並ぶブランドショップはその最たるもの。月曜日に企画した商品が金曜日には店頭に並ぶから、土日には売れてしまう。だから、また月曜日には企画をしなければならない。とにかく素早く=FASTで企画・製造・販売する手法である。

 1アイテムが年間24回転、月平均で2回転するわけだから、2週間で売場の品揃えはごろッと変わる。お客にとっては「先々週に買ったけど、今週はまた新しい商品が並んでいるから、また買わなきゃ」となる。カリスマ販売員や読者モデルは自分がどんなデザインの服を着たいかがわかっているので、そのイメージを伝えるだけで後はOEM業者がスピーディに形にしてくれる(もちろん、修正もしなければならないが)。

 売場に立つ販売員や読者モデルは、一般のお客に最も近い存在だ。彼女たちが着たい服は、お客にも欲しい商品となって購入につながる。高額なファッションが売れづらい時代の若者向けファッションは、アパレルメーカーのデザイナーが時間をかけて考えたサンプルを展示会でバイヤーの反応を見て修正し、でき上がった商品をシーズンを通して売り減らしていく手法(プッシュ型)より、AMSの方が合致しているということである。


実店舗にはECの利便性、ECには店舗のサービス

 確かにこの時はそうだった。それから10年が経過したが、渋谷109のショップブランドの多くは今もAMSを活用していると思う。ただ、販売、購入のスタイルは激的に進化した。販売スタッフが店舗でお客に商品を売るだけでなく、お客自らも公式サイトを見て自分の好きな商品があれば、スマートフォンでも気軽に購入する。Web会員になれば、メルマガなどで商品情報が届く。それらの情報はお客の買い物状況を左右する。

 ショップ側にとっては家賃と人件費の上昇で、店舗運営のコストが肥大化している。チェーン化したアパレル専門店では、10年前に比べると平均家賃は2〜3ポイントアップし、17%台と言われている。人件費率も3ポイントほど上昇して20%に近づいていると聞く。合計のショップ運営費率は37%から40%に近いのだ。それに見合うSCの販売効率があるかと言えば、逆にどんどん下がっている状況だ。

 つまり、ショップ運営の効率が下がれば、当然ながらECシフトは進んでいく。だが、楽天やZOZOTOWNのようなモール系のサイトへの出店では、営業経費率のマックスは38%を超えており、実店舗を展開するのと大差はない。だから、ショップ側がこれから自社サイトオンリーに切り替えていくことも考えられる。ZOZOTOWNはオーダースーツで話題を振りまいているが、背景にはテナントが営業経費の高さから脱会していく危惧があるからではないだろうか。

 ただ、自社サイトだからと言って、売れる保証はない。オムニチャンネル化の前にサイト自身のコンテンツ充実が不可欠になる。プロパーの商品が先行で買えるのはもちろん、アウトレット品のような価格訴求で値段にシビアなお客を捕捉する。もちろん、メルカリのようにユーズドではない魅力も訴求できる。SHIBUYA109エンタテイメントがサイト内にアウトレットを開設したのは、こうした意図もあると推測できる。

 ショップ側にとってはAMSを活用しても、売上げは全盛期ほどの勢いはないはず。でも、コスト競争力を持つには一定量の生産規模が必要だから、どうしても売れ残り在庫が出てしまう。今は投入、即完売とは行かないわけで、在庫を消化し現金化していくには、アウトレットへの流れは必然と言ってもいいだろう。

 もっとも、お客がサイトで購入した商品の配送はどうなっているのか。渋谷109の建坪を見ればわかるように、フロアスペースはそれほど広くなく、各店舗の売場面積は限られている。店売り以外にサイトやアウトレットの在庫を置けるほど、ストックに余裕があるとは思えない。もちろん、売場の販売スタッフがECにおけるフルフィルメント、いわゆる受注から配送までの業務を兼務するのも無理。そこまでやるカリスマはいないだろう。

 おそらくサイトの在庫は各ブランドのDC(ディストリビューションセンター)、保管倉庫から注文に応じて配送されているのではないか。だから、公式ECサイトを運営するSHIBUYA109エンタテイメントにも負担はかからない。しかし、デベロッパー側がオムニチャンネル戦略を取るというからには、これに安住はできない。実店舗にはECと同様の利便性があって、ECでは店舗と同様のサービスが受けられる。お客がサイトを見た時、欲しい商品が実店舗に在庫としてあるのか。お客はECで注文した商品をショップで試着できるのか。その辺まで進まなければ意味はないだろう。

 そのためにはショップとECは在庫情報が共有化されるべきだし、お客が住む地域にがないことも想定し、ヤマト運輸が実験的に始めている受取拠点の確保も必要になる。実店舗がショールーム、試着室と化せば、返品率の高まりも覚悟しなければならない。でも、オムニチャンネルをやるからにはそこまでが求められるのである。

 オムニチャンネルへの注力、CRMの強化の先には、バラ色の未来が広がっているわけではないと思う。運用する側がいかに自社にとってメリットを見出してくかにかかっている。前置きがだいぶ長くなったが、そこでカリスマ販売員や読者モデルは、どうなっていくのだろうか。

 おそらく、ICタグ、AI、スマホ決済がショップに導入されていけば、販売スタッフはレジや在庫管理などの業務からは解放される。だから、単にブランドをカッコ良く着こなすだけではなく、来店客やスカイプなどでWeb顧客とコミュニケーションを取りながら、お直しを懇切丁寧に受けたり、フィッティングへの助言を行うことが肝になる。




 現状のサイトでは各ショップごとの「スタッフコーディネート」「スタッフピックアップ」が公開されている。さらにこれらを進化させたSNS動画などを発信して、ビジュアル作りの演出力や訴求精度をより高め、磨いてことも必要だ。また、 お客がショップで商品のタグにスマホをかざすと、カリスマ販売員のベストスタイリングの画像(動画含め)が表れたりする。それがこれからのカリスマ販売員の仕事ではないだろうか。

 また、読者モデルも存在自体が無意味になっていくと思う。そもそも読モとは、雑誌メディアが購買部数を増やすために作り上げたものに過ぎない。今やSNSを使えば、お客自らがモデルとなって自由にコーディネート情報を発信できるし、そちらの方が多くのお客の共感を得やすい。ブランドを自らのアイデアとセンスでカッコ良く着こなしていると、多くから認められるお客こそモデルというか、インフルエンサー足るのである。

 話は少し逸れるが、北九州市は街興しのために「東京ガールズコレクション北九州」をこの秋も開催する。その半年前には、タレントの土屋アンナをわざわざ東京から呼んで、北橋健治北九州市長、小川洋福岡県知事立ち合いのもと、イベント概要などについてのプレス発表を行った。

 一方、地元メディアがファッションの街を標榜する熊本市は、熊本地震からの復旧・復興と街の活性化につなげるべく、来年の4月20日に初めての「東京ガールズコレクション熊本」を開催する。こちらもこのほどハーフモデルの中条あやみが来熊し、大西一史熊本市長、TGC推進委員長の久我彰登鶴屋百貨店社長らと一緒に記者会見を開いている。

 両市とも地域活性を唱え、イベントには自治体が公金を拠出する。しかし、お客が店に行かなくなっているのに商業振興もクソもない。むしろ、活性化どころか、両市ともかなり厳しい状況に向かっている。北九州市は先頃、2つの百貨店の閉店が決定した。地元に魅力的なショップが少なく、EC含め買い物客の流出に歯止めがかからないのだ。

 熊本市は人通りが地震前の状態に回復した中心商店街から「ZARA」が撤退する。地方のお客は来店せずECにシフトするとの読みから、中心部の店舗を犠牲にしてもECの拡大、郊外大型店とのオムニチャンネル戦略を図る狙いと見られる。インディテックス社にすれば熊本なんてファッションの街ではなく、一ローカルマーケットに過ぎないのだ。

 EC、オムニチャンネルは地域商業のあり方、ファッションビジネスさえ激的に変えようとしているのに、自治体はノー天気にも三文タレントに平気で税金を使うわけだ。だが、ECやオムニチャンネルが地域経済をどう変えるかへの研究投資や勉強会より、客寄せイベントが大事なわけがない。

 第一、客寄せイベントなんかで地域が活性化すると平気で考えているのなら、自治体は地元への集客、店舗の撤退、売上げの減少をどう説明するのだろうか。ローカルメディアもイベントのおこぼれに預かりたいのか、地域の活性化に本当に必要なことは何かを検証すらしようとしない。

 よく言ったもので、「ファッションとはローカルなもの」。オムニチャンネルの時代には商品受取拠点(実店舗が兼ねるケースも)や試着ができるショールームが充実してこそ、その売上げは地域ごとに計上されるため、地域にカネが落ちて活性化していく。お客が店に来て、商品を手に取って見てくれないと、衝動買いも起こらない。そして、夢の跡から新たに出現するカリスマ販売員、インフルエンサーがその一翼を担うことを期待して止まない。10月には東京に出張するので、最先端の渋谷から学んできたいと思う。

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