HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お客の感性に響かないプロモーション。

2015-04-01 06:26:05 | Weblog
 ファッション業界で、プレスプロモーションを仕事をしていると、東京と地方のギャップを感じる。

 東京には、生地産地や縫製工場こそないが、アパレルメーカーや小売りチェーンは本社が揃う。また、海外ブランドがその旗艦店を真っ先に出店する。

 雑誌を中心にファッションの情報を発信するメディアが揃い、業界全体がこうしたプレス機能を活用して、プロモーションに力を入れていく。

 アパレルメーカーによってはプレスルームをもち、小売りでもショップ直でリースを可能している。個人で活動するクリエーターや零細メーカーには、プレス専門の会社も存在する。

 こうした様々な機能があるため、貸し出しによる雑誌タイアップやメディアへの衣装提供、イベント展開、純広告の掲載などをスムーズにしている。

 一方、地方はアパレルメーカーがあると言っても、プレスルームを持つまでもない。大半は大手や地元の小売り店舗で、商品は基本的に「売りもの」だから一部の個店を除き、簡単にリースし、メディア露出というわけにはいかない。

 大々的にプロモーションを行うのは、百貨店や駅ビル、ショッピングセンター(ファッションビル含む)に限定される。媒体はチラシやフリーペーパー、専用サイトの類いで、その恩恵にあずかるのは、出店ブランドやテナントに限られる。

 テナントには、地元の専門店もあるが、ほとんどが全国展開の有名ブランドやセレクトショップで、埋没感は否めない。

 こうした商業施設が制作するチラシやフリーペーパーを見ると、制作コストの関係からよほどのことがない限り、モデルは起用しない。商品の見せ方は置撮り写真を使ったフラットなレイアウトが主流だ。

 制作のスタイルは、商業施設やデベロッパーで多少の違いはあるだろう。でも、出入りの代理店や印刷会社の担当を交えて内容を決め、あとは制作会社に丸投げされるのが一般的だ。

 ただ、表現面のクリエイティビティは別にして、お客として見ていていちばん感じるのは、商業施設によって掲載商品にバラツキがあることである。

 もう少し詳しく言うと、「今すぐ、買いたくなる商品」もあれば、「何でこんな商品を掲載するのか」と思うこともある。これは別に感性による好き嫌いの次元で言っているのではない。

 チラシやフリーペーパーの目的を考えた時、掲載する商品はまずお客を呼べることが大前提だ。言い換えれば、瞬時にお客が「これ、見てみたい」って感じる商品である。

 かつて、ユニクロの柳井正社長は、販促のスタッフからチラシの色校正を見せられ、「暗い色の商品が多過ぎる。なぜ、明るい色目を掲載しないのか」と、激怒していたのをテレビの放送で見たことがある。

 経営者として経験則からチラシには、明るめの商品を掲載した方が確実に「集客につながり、売れる」との判断からだろう。チラシだけで年間数億円をコストをかけているのだから、店舗に集客できなければ話にならない。当然の指示だと思う。

 かたや、チラシを制作するスタッフからすれば、カラーバランスを考え、暗い色の商品もレイアウトすることで、誌面にメリハリをつける。デザイン的にはこれも一理ある。

 どちらが優先されるかは、最終的に制作費を出すユニクロ側、決済者の柳井社長になるのはしかたないことだ。

 では、ファッションビルはどうだろう。チラシやフリーペーパーを制作する場合、デベロッパーの担当者がまず、販促企画やスケジュールにそって、代理店や印刷会社の担当と打ち合わせを行う。

 これをもとに、制作サイドから上がってきたデザインラフを元に、各テナントから商品を提出してもらうことになる。ここで問題なのが、その商品を誰が選んでいるかだ。

 デベロッパーの担当者は、多くがファッションの専門家ではないから、自分の好みは優先できない。まして代理店や印刷会社のレベルでは、メンズはまだしもレディスの商品なんかをわかるはずもない。

 結局、各テナントが店長の判断や本部(プレス)の指示をあおいで、商品を選択することになる。その条件は「在庫がある」ということが大前提になる。

 全国チェーンになると、本部に「プレス用の商品」も確保されているが、それはファッション雑誌専用で地方店に回ってくることはほとんどない。では、それが一体何を意味するのか。

 一方、撮影時のコーディネート等は、代理店などに出入りするフリーのスタイリストが行う。提出された商品を見て、彼らが「デザインのあるもの」「色目が明るいもの」「もっと素材感のあるもの」が欲しいと感じても、思い通りにはならない。

 つまり、アパレルのプレスルームなどが存在しない、地方におけるファッションビルのプロモーションでは、そこに出店する全国チェーンのテナントの場合、「売れ筋商品が中心」となり、制作側は妥協せざるを得ない場合がある。

 全部のファッションビルがそうだというわけではないが、セレクトショップを集積した某ファッションビルでは、広告媒体を見ていていつも感じている。

 果たして、それで良いのだろうか。東京だろうと、地方だろうと、ファッション雑誌は同時に発売される。ネットの情報はグローバルだ。確かに感性の差こそあるかもしれないが、だからと言って鋭い人間が地方に皆無というわけではない。

 地方だろうが、スタイリストなら、商品を品定めできる能力をもつはずだ。それ以上にお客の方がはるかに目が肥えている。言い換えれば、お客の方がより感度の高い商品を求めていると言うこともできる。

 確かに東京は人口も多く、購買力も旺盛だ。高感度な商品が確実に「消化」する可能性は高い。だから、そうした在庫確保を第一に考える方針はわからないでもない。どうしてもほしい商品は、ネットで購買すればいいという言い訳もできる。

 でも、ファッションビルにおける全国チェーンのショップが「売れ筋商品で妥協しているのか」ということを、チラシやフリーペーパーを見ているお客が少しずつ気づいていることも事実だろう。

 ある全国展開のミセス系SPAはこの点をすでに感じていた。感度の高い商品は全国どのお客が欲しがるとも限らないので、ネット媒体に一本化してお客が住むエリアの店舗に在庫が無い場合は、近隣の店舗から店間移動させるという。

 販促の狙いは全国一律で、とにかく売れること、消化することを大前提に考えている。ネット媒体ならそれが可能になるということだ。

 どうしてもローカルで、チラシやフリーペーパーにこだわるのなら、スタイリストなどファッションに詳しいスタッフの意見を尊重し、代理店や印刷会社はデベロッパーの働きかけなければならない。

 デベロッパーが常日頃からテナントともコミュニケーションを通じて、お客目線、マーケットの反応を伝えていくことが重要だろう。

 もうメルマガだの、ニュースレターだのと一方的なお仕着せの情報発信で、お客が簡単に商品を購入する時代ではない。本当に欲しい商品は、お客側から積極的に探している。

 オムニチャンネルが普及すれば、お客対アパレルや小売りの関係では、欲しい商品や買いたい商品がダイレクトに手に入ることになる。

 そうなると、ファッションビルのデベロッパーにとっては、販促が無意味になるどころか、ショールーミング化で存在意義さえ薄れてしまう。

 東京だろうと、地方だろうと、マス化しボリューム化した方が売上げは取れる。しかし、そんな商品をプロモーションしたところで、お客の心には響かない。

 ちょっと行き過ぎくらいの感度の高い商品を告知した方が集客につながるし、結果として売場でボリュームの商品が売れたとなれば、それでいいはずだ。

 お客目線とズレたプロモーション。構造的な問題を少しでも改善していく努力が必要である。
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