HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

うまく利用されるローカル紙。

2015-04-22 07:20:13 | Weblog
ローカル紙にもおよぶ記者クラブ的弊害

 熊本県を地盤としたローカル新聞に「熊本日々新聞」がある。日曜版経済面の「ふくおかBIZ」では、地元経済に影響を与える隣県福岡のことが報道される。

 4月19日付けの記事では、FACo(福岡アジアコレクション)とそれに出展するアパレル、デザイナーのコメントが取り上げられ、「アジアの中心目指す」「地場産業の育成にも効果」と、主催者側の発表をそのままタレ流している。全く裏を取らずにだ。

 FACoの主催者である福岡アジアファッション拠点推進会議は、良いところだけしか公表せず、問題点には蓋をするから、言うには及ばない。しかし、メディアがそれを鵜呑みするのでは、報道の客観性は失われ、読者に誤解を与えてしまう。

 現にこの記事は、相変わらず推進会議の大本営発表をそのまま書いた提灯記事で、主催者側の思惑が随所に見え隠れする。ファッション業界から見ると、矛盾だらけの内容だ。

 ローカル紙の日曜版だから、読者もある程度の時間をかけて読むだろう。その階層、職種、立場によって、受け取り方は大きく異なる。地場経済人や一般商業者とファッション業界関係者ではだいぶ印象が違うだろう。

 経済人や一般商業者なら「なるほど」「熊本でもやらねば」となるのが自然だ。事業予算が限られている推進会議としてはそこが狙いで、熊本まで巻き込みたいという意図があるのかもしれない。ことさらに「アジア」を強調することが何よりだ。

 しかし、FACoのような客寄せファッションイベントは、東京ガールズコレクションに端を発し、名古屋、関西と全国で枚挙に暇がない。しかも、北京や上海、韓国などにも進出しているのだから、今ではありふれすぎている。

 FACoの実質的なプロデューサーであるRKB毎日放送。今年のイベントを見る限り、スポンサーの顔ぶれが変わっており、安定的に事業を継続するには何よりスポンサーの確保が不可欠。それを熊本に求めても不思議ではない。

 「客寄せ興行」で客席が満席になることを考えれば、熊本からの集客もあるはずだ。だから、マーケティング効果もあると、スポンサー営業を持ちかけるのは当然だろう。それを同じ系列局のRKK熊本放送がどう思うかであるが。

 また、FACoに出演するタレント選定やステージング、演出は、「神戸コレクション」を手がける「アイグリッツ」が仕切っている。このイベントもRKB毎日の系列兄弟会社である大阪毎日放送がアイグリッツと共同企画でスタートした客寄せ興行である。

 CM収入が翳りが見え始めたテレビ局が活路を見出す「事業」であって、それにイベント会社と芸能プロダクションが合わさり、「ファッション産業の振興」「人材育成」「情報発信」を大義にして、行政や商工会議所からイベント資金を拠出させるものだ。

 FACoはそのビジネスモデルとフォーマットに乗っかっただけ。つまり神戸コレクションをコピーしただけで、ファッションイベントとしては、何のオリジナリティもない。

 タイトルの「福岡アジアコレクション」は、福岡がアジアに向けに開かれた都市を標榜していることから、これを冠にした方が行政や商工会議所から事業資金を引き出すやすいからである。これもイベントの主催者としては、当然考えつく浅知恵だ。

 イベント会社のアイグリッツは数年前、鹿児島でも商店や商工会議所を巻き込んで、神戸コレクションやFACoのパクリで、ファッションイベントを開催した。

 こちらは年明けという端境期に催されたため、モデルが着る衣装が現物の商品ということを考えると、冬物はセール商品であるから機会ロスを生み、春物はまだまだ十分に揃わないとう課題を露呈したままの開催だった。

 イベントの性格も鹿児島ファッションの情報発信というより、お客のタレント見たさに終始した興行で終わったといった方が良いだろう。 地場商業界も投資の割にコストがかかり過ぎ、効果がなかったと判断したのか、1回きりで終わっている。

 だとすれば、アイグリッツが今度は熊本でもイベントの開催を画策しても、何ら不思議ではない。RKB毎日放送と同様に、今回の記事はそのための地ならし、布石にしようしていると考えてもおかしくないのである。




ミセスメーカーのDNAでヤング市場の攻略は?

 一方、記事中に出てくるアパレルメーカーのT社。筆者は博多の出身なので下川端町にある同社の屋外看板を小学生の頃から見ているのでよく知っている。

 アパレルとしては記事にある通り、ミセスというかおばちゃんターゲットの量販メーカーで、前回このコラムで書いたように流通センターでの埋没感は否めない。

 だから、FACo向けにヤングファッションにも乗り出したようだが、T社社長は言うように「有名モデルが着用した製品と得意先にPRできるのは大きい」は正しいのか。確かにタレントが着ている写真を見れば、商談での効果はゼロではないだろう。

 ただ、マンションアパレルで全国各地の敏腕バイヤーと対峙した人間から言わせてもらえば、アパレルには脈々と受け継がれるDNAがある。ミセス向けの量販アパレルが簡単にヤングファッションを企画したところ、すぐに反応があるほどマーケットは甘くない。

 四国や東京、中国大連での販路開拓も、ヤングアイテムとしてのデザインや完成度、ブランドロイヤルティというより、「安さ」や「値ごろな価格帯」が受けたという方がバイヤーの正当な評価なのかもしれない。

 熊本に転じると、シャワー通りや並木坂にショップを構える鋭い感性のショップオーナーが、同社の商品を仕入れることはまずあり得ない。それは福岡でも同じである。

 だから、マーケットが広い東京や中国、関西とバッティングしない四国でないと勝負にならないのだ。

 しかし、いくら量販ファッションを扱うといっても、ショップ側からすれば「進出してきてくれるなら」取引しましょうとなる。つまり、きちんと商談ができる「営業拠点」が不可欠なのだ。それは営業所、スタッフなど相当のコストがかかることを意味する。

 FACoくらいの三文イベントに出展したからと、いとも簡単に取引アカウントができたということ自体が実に嘘くさい。これも主催者側がイベント効果を水増ししようして、何でもこじつけているように感じる。

 ファッション業界を知らず、そこら辺を突っ込めない熊日の記者は、随分舐められたものである。もちろん、ショップオーナー側にすれば、ファッション業界の内情を理解しているから、全く裏を取っていない提灯記事は、失笑に値するはずだ。

 そして、ドレスブランドのQ。FACoでは常連組で、福岡の西日本新聞他、テレビメディアでも、何度も取り上げられている。まあ、デザイナーと営業の零細企業で莫大な広告費なんて使えないからか、「パブ枠」になるとやたら出まくっている。

 もっとも、メーンのアイテムは、オーダーに近いドレスだから、そんなに数が売れるものではない。こちらもショップのバイヤーからすれば、付けるのに二の足を踏むはずだ。だから、ショーでブランドをアピールするしか手だてはないのである。

 FACoの利害関係者と裏で手を組んでいるわけでもないだろうが、うまく広報役に利用されているように映る。

 しかし、何年も出まくっているので、そろそろ「FACoから他に新人はデザイナーはデビューしないのか」という声が出てきそうだ。しかし、出展ブランドの半分がNB(ナショナルブランド)でイベントの尺を埋めているのだから、それも期待薄である。

 言い換えれば、福岡には他に「小売り」にたえ得るデザイナーやブランドが育っていないということもできる。人材育成を声高に叫びながら、事業を続けて7年にもなるのに、ではこの体たらくはどうしようもない。

 でも、RKB毎日放送のプロデューサーからすれば、客寄せさえできればそれで良いのである。


情報発信に手ぐすねを引いて待つメディア

 最後に、福岡アジアファッション拠点推進会議の事務局長である福岡商工会議所の会頭のコメントも掲載されていた。

 「徐々に実績が出始めている」「国内外での認知度が課題。福岡から世界につなげられるよう、地道に頑張っていきたい」

 事業を8年も続けて「徐々に実績が出始めている」とは、公金を使っている事業なのに何とも悠長な言い方だ。民間ならハッキリした効果が出ていない事業など、とうに終了しているはずである。

 すでに推進会議の事務局長として現会頭は2代目。理事に名を連ねる県知事、市長も変わっている。いろんな公金事業の一つに過ぎないから、みなそれほど責任と使命感はないだろう。

 事業ポストに居続けているのは、ファッション専門学校の部長である「企画運営委員長」の御仁のみである。

 おそらく会頭のコメントも、この御仁が書いたシナリオをそのまま記者に語っただけだろう。そこにはもっと「情報発信に力を入れよう」とトップに語らせたい、企画運営委員長を含め利害関係者の思惑が読み取れる。

 ファッション専門学校にとっては、ファッションイベントを公金でやってもらえば、自校で学生集めを行う広告コストがかなり削減できる。なおさら、タレントが集まる客寄せ興行の方が入学者予備軍である17、18歳のミーハー高校生の関心を呼ぶだろう。

 代理店にとっても、メディアにとっても、事業アピールに「マス媒体」を使ってもらえば、これ以上、身入りの良い事業はない。それ以上、FACoに出演するタレント事務所にとっては、肖像権が二次利用されれば、さらにギャラが舞い込む。

 情報発信と言えば聞こえがいいが、そこには相当の利権が渦巻くのである。それはこの記事に掲載されている写真に有名タレントが写っていないことを見てもわかる。さすがにこの辺は熊日の記者とてわかっているはずだ。

 それだけではない。記事にある「ファッションウィーク福岡」も、代理店のH社がプロデュースにあたった。これもピンハネビジネスに他ならない。

 ミュージシャンやタレントを集め、福岡市の事業特区構想を抱き合わせて、予算を集めて客寄せイベントをやっただけ。でも、そちらの方が出演者のギャラからマージンをはねられるから、代理店にとってはおいしいのである。
 
 ファッションウィーク福岡と言っときながら、とにかくイベントをやるのが先決で、地場ファッション産業への販促効果は二の次。つまり、利害関係者にとってはイベントは手段ではなく、それ自体が収益を上げるための目的なのである。

 ファッションリテラシーが全くない熊本日々新聞の記者がこうした事情、利害関係者の思惑までの裏取りして記事を書くことは無理だろう。

 だからといって、熊本の商業界、行政、商工会議所がうまく利用されて、簡単に資金を拠出してしまうようになると、利害関係者の思うつぼである。

 本来ならこうした点に切り込むのがメディアの役割なのだが、メディアが利害関係者なのだからどうしようもならない。せめてもの救いは、熊本のショップオーナー、ファッション事業者らがクールであってほしいところである。

 記事をどこまでの人たちが読んだかは知らないが、少なくとも書いている内容に?を付けるだけのファッション業界の方々は熊本でも少なくないと思う。

 この方々が利害関係者の思惑だけで進められるファッション事業に異議を唱えていけば、福岡や鹿児島と同じ轍は踏まないと思われる。ぜひ、熊本の商業界には熊日の提灯記事に惑わされることなく、冷静な判断とリテラシーを望みたい。
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