HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ジル復帰で試されるオンワードの懐。

2012-02-29 16:42:31 | Weblog
 2月24日、WWD.COMはJil Sander to Return as Raf Simons Exitsの見出しで、ジル・サンダー氏がジル・サンダー社のクリエイティブディレクターに復帰し、ラフ・シモンズ氏が退任すると報じた。
 同社は2006年にプラダ社から英国の投資会社に1億2000万ドルで売却され、08年には約倍の価格で日本のオンワードホールディングスが買収した。創業デザイナーの返り咲きでオンワードHGはクリエイティビティの強化やブランド力向上を狙うのは言うまでもないが、買収後は復帰の環境をじっくり整えていたと見られる。やはり、デザイナー名=ブランド名は、何よりも顧客に強いメッセージを伝えられるからだ。

 思えば、ジル・サンダーは99年に自社がプラダに買収されて以降、同社との間で軋轢や確執を繰り返してきた。ジル本人は00-01秋冬ミラノコレクションを最後にデザイナーを辞任。その後、03年5月に復帰し04春夏コレクションよりデザインを手がけるも、同年11月、再び辞任している。
 ただ、デザイナーと親会社との対立は、何もジル・サンダーに始まったことではない。デザイナーは誰でも、自分の思い通りの作品をつくりたいと願っている。だから、コストや収益一辺倒の経営方針にはどうしても疑問をもち、その夢や希望をつぶしにかかられると、その企業を飛び出してしまう。
 しかし、親会社側には「食えなければ、戻ってくることもある」との読みがあり、これがズバリ的中すれば、デザイナーが舞い戻ってくるケースはあるのだ。

 ファッション系コングロマリットは、いくつものブランドを傘下に抱える。デザイナーもブランド事業も1つに賭けていると、リスクが大きいからだ。しかし、ことプラダに限っては、ブランド買収に打って出るものの、黒字転換や経営の立て直しをできずに手放すことを繰り返している。ヘルムート・ラングしかり、フェンディしかりである。
 上場企業ゆえに株主から監視され、ブランド買収による負債を処理せざるを得なかったわけだが、それはそもそも同社の経営体質に問題がある。今後、オンワードHGはプラダを反面教師にして、彼女をうまくマネジメントしなければならないのだから、現時点では朗報ともリスクとも言えない。

 ジル・サンダー社はプレステージラインのウエアの他、07年からはバッグや靴、09年にはダミアーニとライセンス契約し、ジュエリーや時計の販売にも参入。11年春夏からはセカンドラインの「ジル・サンダー ネイビー」もスタートした。まさに総合ブランドとしての足場を固めている。
 しかし、ウエアはグッチやアルマーニを凌ぐ高額ラインで、メンズスーツでも優に30万円近い。米国は景気低迷が続き、欧州は経済危機のただ中、日本とてデフレを克服できずにいる。アクセサリーやセカンドラインを持つとはいえ、ラグジュアリーブランド、ジル・サンダーを取り巻く景況は決して良くない。
 創業デザイナー、ジル・サンダーの復帰で、クリエイティビティやメッセージ性は高まるだろうが、それが売上げに結びつくかは未知数である。その意味で彼女を生かすも殺すも、オンワードHGの懐の大きさにかかっていると言えそうだ。

http://www.wwd.com/fashion-news/fashion-features/bridget-foleys-diary-jil-sander-the-trials-of-succession-5747542

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