HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ザラにない服。

2022-09-21 06:36:37 | Weblog
 残暑はまだまだ厳しいが、店頭には秋物がラインアップした。今年こそはトレンドの服をゲットしようと思いながら、そのまま過ぎてしまったここ数年。コロナ禍もあってじっくりショッピングができず、ネットで物色するばかりでは試着まで及ばない。たまに気に入ったアイテムが見つかっても、すでにSOLD OUTがほとんど。購買意欲までフェイドアウトしてしまう状況だ。

 昨年、一昨年の秋冬はユニクロがコラボ復活した「+J」が注目された。しかし、早朝から転売目的のお客が大挙して行列する光景を目にすると、現物をチェックしようという気持ちすら失せてしまう。知り合いが何とか購入したジップニットをブームが下火になった頃に見せてもらったが、昨年の最終コレクションは商品をチェックすることもなかった。



 そして、今年。ウィズコロナで何とか過ごしていた先日、一通のメールに目が止まった。いつもならチラ見でスルーするが、今年は違う。あのザラが+Jをはるかに超えるコラボを発表したのだ。相手のデザイナーは、ブランド「スタジオ ニコルソン」で2010-11の春夏コレクションでデビューしたニック・ウェイクマン。コラボブランドはズバリ「STUDIO NICHOLSON+ZARA」である。(https://www.zara.com/jp/ja/man-studio-nicholson-editorial-mkt5618.html?v1=2120291)

 本家スタジオ ニコルソンは英国のブランドだが、トラッドなブリティッシュとは対局にあるクール&ミニマルなユーロテイスト。フィット感のあるフォルムからルーミーなそれまで、どれも分量の取り方が実に上手い。生地には組織変化がないフラットなものを使いながら、スカートやコートでは落ち感が出ないのはこしのある上質な素材使いだからか。これはレディスを見ての印象だが、今回ザラとコラボしたのはメンズである。



 STUDIO NICHOLSON+ZARAは全アイテムがトレンドのオーバーサイズ。メンズだからとテーラージャケットやボンバーのような定番はなく、完全にモードのスタイリングになる。Tシャツ、ベスト、布帛シャツ、シャツジャケット、パンツ、コート、ニットとも、大胆なカッティングのもとでエッジのきいたデザインが目をひく。発表されたルックは全部で20パターン。カラーは秋冬らしくブラウン、ネイビー、ブラックに加え、ストーン、ベージュ、オフホワイト。差し色を意識してか、鮮やかなアップルグリーンもある。




 筆者がずっと指摘していた「年明けにはブライトカラーが着たくなる」。そうした声が通じたわけではないだろうが、ボトムではオフホワイトのデニムパンツやライトベージュのツイルパンツも企画されている。価格はデニムパンツが9,990円、シャツが11,990円、フランネルパンツが13,990円、ニットが25.990円、パーカが25,990円、ピーコートが39,990円、ロングコートが49,990円、ダウンジャケットが55,990円。ザラのレギュラーアイテムと比べると3倍以上の価格がつくアイテムもある。

 +Jのコートでも27,400円だったことを考えると、ダウンジャケットやコートはザラとしては最高値と言ってもいいだろう。それでもデザイナーブランドとして見れば、いたって値頃感がある。コラボ企画では従来の顧客とは違う層を開拓する狙いで、そうしたプライスラインに設定したのか。仮にそうだとしても、ザラ側がこの価格帯で売れると踏んだのであれば、原材料コストの値上がりを差し引いても、強気の戦略であるのは間違いない。

 デビュー10年ちょっとのスタジオ ニコルソンは、本家英国でも人気が集まっているというが、筆者が注目するくらいだから日本人でも好きな人は多いはず。服のシルエットは、細身から完全にルーミーに揺り戻している。身体の線が細い若者なら、オーバーサイズでも難なく着こなせる。ただ、中高年になるとそうはいかないが、スタジオ ニコルソンは量感のバランスが秀逸なので、オヤジ世代でもど・ストライクと感じる人はいるのではないか。


クリエーション重視の素材使いはコスト度外視か




 スタジオ ニコルソンはネット画像しか見ることができない。だが、コラボ商品は購入を視野に入れると、現物を確認してみたいので「ザラ福岡店」を覗いてみた。秋冬のアイテムだけにアウターを中心に公式サイトから事前に何点かをピックアップした。ところが、そのうちダウンジャケット、ピーコート レザーパッチ、パッチ レザーコート、バルーンデニムパンツは、残念なことに福岡店では取扱なし。



 店頭在庫があったのはフランネルパンツ、ツイル スーツ パンツ、ブークレセーター、カラーブロックセーターの単品のみ。ツイル スーツ パンツは素材がポリエステル98%でヨレ感があるため却下。2種のセーターのうち、ブークレは購入してもいいが、暖冬を想定すると厚手のコットンの方がいいので要検討とした。



 残るはフランネルパンツだ。こちらはツープリーツ仕様で70年代のバギーパンツに匹敵するワイドシルエット。試着してみると、DCブランド時代のボトムを彷彿させる。股上が深く、ハイウエストなところも同じ。「かつてはこんなシルエットでも難なく穿きこなしていたよな」と、姿見に移るボトムを見ながら、頭の中で過去の自分と照らし合わせていた。価格もウール100%のフランネルの割に13,990円と手ごろだ。即買いはしなかったが、購入の大本命と決めた。

 コート2種は現物を見ることはできなかったが、左身頃上部を「レザー」に切り替えるなどの凝ったデザイン。こうした処理も+Jでは見られなかった。デザイナーズコラボと言えど、素資材の手配が煩雑になり、縫製の過程が手間が増えれば、コスト管理の枠からはみ出ることもある。ユニクロ側はそれを良しとしなかったのか、+Jはパターンは違えど、素資材をはじめ縫製仕様はレギュラー品とさほど変わらなかった。アンダーカバーとのコラボでは、合皮を使ったものでステッチの始末が粗雑など、ユニクロの限界を露呈した。

 その点、スタジオ ニコルソン+ザラは、ニック・ウェイクマン氏がスタジオ ニコルソンで表現するクリエーションがほぼ再現されたように感じる。たとえコラボ契約と言えど、デザイナーが作りたいものを作る。それにより契約工場の練度を越えれば対応できるところを探し、素材調達や縫製・生産管理のコストが上がれば、売価に転嫁する。売れないかものリスクを承知の上で商品化にこぎつける。その点はユニクロとは一線を画するところだ。

 ザラのレギュラー品は、ユーロブランドと言ってもベーシックなものが主体で、クリエーションを追求するアイテムは筆者の感覚でレディスで2割、メンズでは1割程度。それらも気を衒ったようなものではなく、半歩先ほどのお洒落感が非常に低価格で手に入ることから、お客を惹き付けているのだと思う。

 ただ、素材はお世辞にも良いとは言えない。あの価格帯なら素資材コストを切り詰めざるを得ないというのが一目瞭然だ。しかし、スタジオ ニコルソン+ザラは、そうしたザラに対するイメージを覆す。ファストファッションがお客をすっかり安さ慣れさせ、マスマーケットを攻略する中、素資材にコストさえかければデザイナーズブランドと同レベルのクリエーションが半額〜3分の1程度の価格で買えるのを証明してみせた。

 ザラは2018年末、世界中の店舗(約2240店)で「EC受注に店の在庫を引き当てて店からの出荷を始める」と発表。ECで在庫が切れていても、お客の最寄店舗に在庫があればそれを引き当て、お客宅に出荷したり、店で受け取れる「クリック&コレクト」のサービスをスタートした。これにより地方都市では閉鎖された店舗もあるが、お客にとっては利便性が向上したし、同社にとっても在庫を効率運用できるようになった。

 今回のスタジオ ニコルソン+ザラは、コラボ企画だけに生産量は端から絞りこんでいると思われ、フルアイテム展開する店舗は限られる。筆者が訪れた福岡店でも、コートやデニムパンツは展開されていなかった。つまり、店頭在庫がない商品の現物確認をするには、ECで注文して店で受け取って試着をし、気に入らなければ返品するしか方法はないのだ。それがEC時代においては、お客にも店舗にもギリギリの妥協点ということだろう。

 ザラを展開するインディテックスは9月14日、2022年上期(2〜7月)の決算を発表した。それによると、売上高は前年同期比約25%増の148億4000万ユーロ(約2兆72億円)で、純利益は41%増の17億9000万ユーロ(約2825億円)。上期の総利益率は57.9%と、7年ぶりの高利益率を誇った。コロナ禍により世界的に実店舗で購入するお客は伸び悩んだと考えられるが、それをECが見事にカバーしたことになる。

 ただ、そうした高収益を背景にザラが今後もデザイナーズコラボを積極的に仕掛けていくのであれば、マス市場では安さ一辺倒しか選択肢がなく、閉塞感が充満していたアパレル業界を活性化する本命に躍り出るのかもしれない。ファストファッションのトップ企業が比較的高価格なベターラインで新たな市場を開拓するシニカルな状況は、非常に注目される。


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