HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

コラボは諸刃の剣。

2022-09-28 06:36:55 | Weblog
 前回はザラのコラボ企画について書いた。文中でユニクロの+Jと比較したが、むしろ同社の方が「特別コレクション」と題し、いろんなコラボ企画を打ち出している。(https://www.uniqlo.com/jp/ja/spl/collaboration)

 モデルのイネスが体現するフレンチ・シックをテーマにした「INES DE LA FRESSANGE」。クリストフ・ルメールがディレクターを務めるオリジナルの「Uniqlo U」。シンプルながらカラフルな色使いが特徴の「UNIQLO and MARNI」。英国出身のデザイナーHANA TAJIMAとの「HANA TAJIMA FOR UNIQLO」。レディスインナーの「Uniqlo and Mame Kurogouchi」。顔ぶれはビッグネームから新進までと多彩だ。

 ただ、契約できるかは、あくまでユニクロの統一したコンセプトから大きく外れないのが条件のように見える。+Jのジル・サンダーのように一旦契約を終了したのち数年を経て復活したのは、オリジナルがミニマリズムを追求し、ベーシックなアイテム、シンプルなデザインを追求するユニクロと、生産背景などを含めてシンクロできるからだ。これはUniqlo Uのクリストフ・ルメールにも共通すると思われる。

 だが、それだけでは店頭には似たような商品が溢れ、お客に飽きられたり、新たなお客を集客できずに売上げが頭打ちになる。だからと言って、レギュラー商品のデザインを大きく変えれば、逆に固定客を失うリスクがあり、これも難しい。そこで、低リスクで毛色を変えることができる新たなデザイナーとのコラボ契約に頼ってしまうのだ。2017年にスタートした「UNIQLO and JWANDERSON」もそうだろう。

 デザイナーのアンダーソンは、2013年からLOEWEのディレクターも務めているが、多彩な素材使いやカラフルな配色などの遊び心がユニクロとの相性が悪かったようで、+Jに次ぐ二匹目のドジョウにはならなかった。6シーズン目となる今秋冬は、9月26日時点で新商品はラインナップされていない。結局、商品政策にメリハリをつける狙いで著名なデザイナーとの契約に踏み切っても、ユニクロ本体との親和性を欠けば、相乗効果を生まずに売場の片隅で埋没してしまう。コラボ企画は「諸刃の剣」でもあるのだ。

 そんな中、今シーズンの注目と言えば、「HELMUT LANG」とのコラボだろうか。(https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/helmutlang/22fw)ラング自身はオーストリアのウィーン出身で1995年、筆者が在住していたニューヨークに旗艦店をオープンし、98年には本社まで移している。90年代、NYファッションの特徴とも言えるミニマルなスタイルを確立した一人だ。2000年には、建築家のリチャード・グラックマンとコラボしたフレグランスショップをソーホー地区のグリーンSt.に出店。ブランドビジネスの王道路線に舵を切った。





 ラングを代表するアイテムと言えば、シーンズ。特にランダムにペンキを撒き散らしたデザインは当時、「アクションペインティング」と呼ばれ、コレクションで注目を集めた。しかし、他のアイテムはコートにしても、ジャケットにしても、パンツにしても、余分な装飾を排したデザインゆえに、シーズン毎でそれほどの変化が見られない。そのため、2010年代に入ると、ブランドとして次第に勢いを失っていった。

 逆にそうしたミニマリズムに注目したのが、ユニクロの親会社であるファーストリテイリングだ。ユニクロのジーンズは5000円以下でありながら、上質な素材を使用し一定のマーケットをつかんでいる。一方で、ジーンズ専門の「J BRAND 」は、10000円前後の高価格で売り出したものの、売上げ好調とは言い難かった。ユニクロ単独による高価格ジーンズのブランド戦略がうまくいかない中で、実績を持つHELMUT LANGはファストリにとって、セオリーなどと並んでM&Aの格好の対象となったわけだ。


当たり前だが、コラボだからと売れるわけではない



 HELMUT LANGとのコラボは、「UNIQLO and HELMUT LANG」のブランド名で、クラシックジーンズを現代風に蘇らせたもの。幅広い年代を狙うためか、ユニセックスのサイズ展開で股上は深めだ。ラング本人がどこまで監修したかは別にしてステッチ、ボタン・リベットは、身生地に馴染むカラー(オフホワイト、ブラック、ブルー)を採用。デニム地にはリサイクルやオーガニックのコットン、ボタン、リベット、縫製糸にはリサイクル素材を使用するなど、ユニクロ初の試みにも挑戦している。



 ユニクロの公式オンラインショップをはじめ、セオリーやプラステのそれでも先行販売されており、9月26日(月)午前中から一部の大型店でも販売が始まった。ユニクロのサイトで流れているプロモ動画を見る限りでは、オーソドックスなレギュラーフィットのジーンズに見える。ただ、男女のモデルともレングスを調整していないため、裾がもたついている。

 現物を確かめようと、取り扱い店であるキャナルシティ博多店を訪れた。価格は9990円と、レギュラージーンズの2倍だ。素材にリサイクルやオーガニックのコットンを使用していると言っても、張りとこしがあるオーセンティックデニムの風合いをもつ。穿きこんでいくうちに肌に馴染んでいくことを想定した生地使いと思われる。個人的にはブラックやブルーより、ややグレイッシュで他のメーカーにはない色合いからオフホワイトが気に入った。



 ただ、シルエットがレギュラーフィットなので、メンズ、レディスとも細身の体型なら、ロールアップしてややルーズに穿けば様になる。中高年は股上が深いから穿きやすいとは思うが、その場合はレングスを調整し、サイズをヒップに合わせて下肢にフィットさせることが肝心だ。材料にリサイクル素材を使用したことが高価格となった理由にせよ、ジーンズとしてはHELMUT LANGの個性が見えず、中途半端な仕上がりになっている。

 1万円をはたいてオーセンティックデニムのジーンズを選ぶか。4990円で色やシルエットが豊富なレギュラージーンズを選ぶか。ブランド関係なしに、長く穿いて色落ちと風合いを楽しむなら、買ってもいいかと思うが、大半のお客はそこまで考えないと思う。筆者はニューヨークで購入した「Calvin Klein Jeans」を何年も穿いていた。高級ブランドで素材は良く、カッティングやディテールデザインも秀逸。価格に見合うだけのファッションパフォーマンスが得られた。

 ちょうど2000年くらいに日本でも、HELMUT LANGのジーンズが流行したが、Calvin Klein Jeansをタンスから引っ張り出して穿いていると、知り合いの若者から「それ、ラングジーンズですか」と勘違いされた。ニューヨークのテイストは、若者の感覚からすれば共通する部分があったのかもしれない。その若者もすでに40歳を過ぎている。今でもラングファンなら、UNIQLO and HELMUT LANGのコラボジーンズをどう評価するだろうか。

 逆に今の20代はファッションに敏感な層であっても、トレンドのワイドシルエットでもなく、HELMUT LANG自体が旬を過ぎていることから、コラボジーンズに対してもそれほど興味を示さないのではないか。現に売場には十分な在庫があり、今回のコラボは+Jのような転売の対象にはならなかったようだ。

 逆に中高年はLANGそのものを知らない人の方が多いだろうし、生地や付属品にリサイクル素材を使おうが、購入の動機には結びつかないと思う。なおさら9990円という高価格は、ユニクロの顧客にはネックだろう。まあ、これらはあくまで憶測の域を出ないのだが。

 グローバルSPAとブランドデザイナーとのコラボ企画は、諸刃の剣だと書いた。メリット、デメリットがあるからだ。SPAには、自社企画にはないクリエイティブな商品が値頃な価格で販売できる。ヒットすれば、自社ブランドの知名度も上がり、相乗効果が得られる。反面、売れなければ在庫を抱えることになり、レギュラー同様にセール消化となって粗利益は下がる。売れても限定生産の売り切れ御免でシーズン中には追加できず、販売ロスを生む。

 一方、デザイナー側にとっては、コラボ契約により収入が安定するし、その分の資金を自らのビジネスに投資できる。コラボ商品がヒットすれば知名度が上がり、自ブランドにもプラスに働く。何より自社でMD、生産、管理などを行う手間が省ける。だが、自社ブランドのようにきちんとVMDを組んだ展開ではなく、見せ方もハンギング主体だから、ブランドバリュが毀損される恐れがないわけでもない。売れなければ契約は終了となり、失敗のイメージも燻り続けるだろう。

 ユニクロはこうしたコラボ企画のメリット、デメリットを十分に承知の上で、デザイナーと契約を結んでいるはず。だから、柳井正社長は最適な需要を予測できる「情報小売業」への脱皮を公言したのだ。だが、それが可能であれば、多くのアパレルがこれほど苦労していない。そうした意味で、UNIQLO and HELMUT LANGがこれからどう転ぶのか、グループ傘下のブランドゆえに、第2、第3弾はあるのか。推移を見ていきたい。

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