HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

トップの力、リーダーの器。

2021-04-07 06:47:37 | Weblog
 令和3年も4月に入った。コロナ感染は依然として予断を許さず、経済活動は回復とは行かない。と言っても、いろんな面で新しいことがスタートしたのも事実。企業のトップ人事もそうだ。アパレルとその関連業界はコロナ禍以前から業績不振に喘ぐところが多く、リーダー的企業のトップ交代には期待と不安が交錯する。

 ここ数年を振り返ると、業界の経営トップは頻繁に交代した。だが、筆者の記憶では、新社長が新基軸を打ち出して売上げを急回復させたり、大幅に伸長したりしたかについては、特に印象に残る事例はない。

 メーカーではレナウンが経営破綻したが、これはトップ人事以前の問題。ワールドは住友銀行出身の上山健二社長がリストラを続ける一方、デジタルシフトを打ち出したが、ヒット商品には恵まれなかった。昨年、6月にはデジタル戦略を加速するためにコンサルタント出身の鈴木信輝社長が抜擢されたが、目立った動きは余剰在庫を消化するオフプライスストアくらいだ。

 三陽商会は昨年1月に就任した中山雅之社長がわずか4ヶ月で退任。副社長から昇格した大江伸治社長も人減らしを続けるだけで、売上げ回復の緒は一向に見えていない。投資ファンド・インテグラルの元で再建に道を進むイトキンには期待するが、こちらも前田和久社長の手腕が表立って発揮されているとは言い難い。大手メーカーの状況は、そんなところである。

 小売業では、百貨店がコロナ禍の影響で軒並み売上げを落としたが、それ以前の戦略がインバウンド頼みなのだから決め手を欠くのも当然だ。高島屋が2019年2月末で木本茂社長が退任し、村田善郎常務企画本部長が社長に就任。ネット通販を23年には500億円にする目標を掲げるが、同社の暖簾を生かせるのは富裕層向けの商材と東神開発の情報収集力か。

 三越伊勢丹では4月1日付で、子会社・岩田屋三越の細谷敏幸社長がHDのトップに就任した。3年間の福岡在任中にはグループ内で一番早くIT化を進め、富裕層を対象とした「1日1組商談」を打ち出した改革派との評価は高い。しかし、コロナ禍の影響でHDの3月期決算は450億円の大幅な赤字になる見通し。流石のアイデアマンでも、カバーできるような数字ではない。


プロを招聘しても経営を立て直させていない

 セレクトショップのユナイテッド・アローズは4月1日付で、竹田光広社長から松崎善則社長に交代した。松崎社長は1998年4月に入社し、UA渋谷店で店長を務めた後、販売部や「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」の本部長などを経験。まさに小売りの現場を知り尽くした経営者と言える。

 竹田前社長が生まれはもちろん、出身大学や商社勤務からして、セレクトビジネスに求められる経営感覚を磨ける環境にいたとは言い難い。それだけに松崎社長がおざなりの構造改革や不採算事業見直しの先にファッションリーダーとしての器をUAの進化にどう生かしていくのか。アパレル不振が叫ばれる中で、UAの全社員、また全株主がそれを望んでいるのではないかと思う。



 そこで考えたいのが、アパレル企業のトップは外部招聘型のプロ経営者がいいのか、それとも生え抜きの現場叩き上げがいいのかである。ワールドの鈴木社長や三陽商会の大江社長は前者、三越伊勢丹の細谷社長やUAの松崎社長は後者だ。

 まずプロ経営者を招聘する背景には、業界が置かれたグローバル競争の激化がある。その中で、企業が成長していくにはダイナミックな戦略とスピーディな意思決定が欠かせない。失敗を怖れて、決断・実行に時間がかかると、激変するマーケットの変化に追いつけないからだ。老舗と言われるアパレル企業ほど古参社員が多く、組織も保守的。そんなしがらみに捉われることなく、経営を進められる人間が必要になる。

 ただ、理屈ではそうなのだが、プロ経営者が不振のアパレル企業を立て直せたかである。ワールドは増え過ぎたブランドを片っぱしから休止し、それに伴って社員もリストラしたが、店舗も人員も減れば売上げも減少する。残したブランドに経営資源を集中させると言ったところで、爆発的なヒットアイテムが出ない限り、業績回復などあり得ない。これはバーバリーロスから転換できない三陽商会にも言えることだ。

 両者ともデジタルシフトに注力すると言っているが、すでに定着しているZOZOやベイクルーズのシステムを凌駕するもの=利用者が店舗で購入するのと遜色ないECサービスを提供しない限り、ネット購入に二の足を踏んできた中高年層まで捉えることはできない。当然、ファッションECで大手アパレルの存在価値をあげることなど不可能だろう。

 一方、生え抜きや現場出身のトップは、年功序列や終身雇用と合わせて日本型経営の典型で、時代遅れとされてしまった。でも、それはグローバル競争を乗り切れない裏返しとしてプロ経営者に注目が集まっただけだ。むしろ、生え抜きは社内事情や直属の部下の性格まで把握し、従業員の雇用を第一に考える点で求心力があり、組織をまとめるリーダーには向く。

 英語が堪能であろうが、数字に強かろうが、不易流行を実践しようが、それはプロ経営者の条件の一つに過ぎない。就任先の組織を率先垂範する能力になるかどうかは別の話だ。ワールドの上山社長や三陽商会の大江社長が経営を立て直せていない点を見れば、前任の企業で培った経験が必ずしも新任の企業で生かされるとは限らないのである。

 アパレル以外の企業を見ると、日産のように生え抜きの経営陣ではなかなか改革できなかった企業もある。そのため、コストカッターの異名を持つ外国人経営者カルロス・ゴーン社長を招聘したが、ドラスティックな手腕の裏側にあった私利私欲の塊が露呈し、挙句の果てが国外逃亡という日産の社員にとっては憤懣やる方ない結果をもたらした。

 アップルコンピューターの日本法人でV字回復を成し遂げ、日本マクドナルドでも低価格路線を見直して経営を立て直したとして、ベネッセコーポレーションに迎えられた原田泳幸社長。この方も妻に暴力を振るうという経済人の前に人間としての脆さを露呈した。経済紙誌、業界メディアのプロ経営者礼賛に警鐘を鳴らす事例とも言える。

 コストカットやリストラという変革だけが企業の立て直しに必須だとは思えない。むしろ、その企業がもつ良さや特徴を伸ばすことこそ、生え抜きや現場叩き上げの経営者が得意とするのではないか。だから、トップとしてリーダーシップを発揮できる力は十分にありえると思う。その意味で、三越伊勢丹やUAの新社長には期待したい。


カリスマ的オーナーのマネジメントの限界

 話はズレるが、3月3日、スーパーのダイエーで副社長を務め、福岡のユニード、九州ダイエーの社長を歴任した後、経営コンサルタントに転身された平山敞氏が亡くなった。平山氏はダイエー時代に中内正社長と袂を分かったことで知られるが、福岡ではSCのトリアス久山の開発に携わり、あの「コストコ」を日本に誘致したことでも知られる。

 筆者は平山氏がコンサルタントをされていた時、同氏とお話する機会があり、バブル崩壊で苦戦に喘ぎ始めた小売り業界への提言を伺った。同氏は企業論理優先の考え方に限界が来ているという前提で、「カリスマ的オーナーのマネジメントの限界」を断言された。それが誰のことを言っているのかは、賢い読者諸兄ならおわかりだろう。

 「小売業界は昭和30年代に台頭し、40年代の高度成長、50年代のオイルショックを経験し、バブル景気という追い風が吹いて、神がかり的なオーナーの「コレやれ、アレやれ」といった経営や施策が成功し、店を出せば売れた。しかし、それが通用しなくなって逆に部下に権限を委譲している会社の方が伸びている

 「これは3〜4年の差ではなく、10年、20年の差になる。要するにトップの自己革新なければならないということ。(カリスマ的オーナーは)ポストを後任に譲り、一歩引いたところで企業を見るのも、彼らに課せられたテーマの一つではないか

 カリスマ不在のアパレル業界、売上げ不振が依然として続く中で、この解釈は難しい。だが、プロ経営者だろうと、生え抜き社長だろうと部下に仕事を任せることで、ビジネスの新しい芽を育てるのは重要なことだ。それが業績回復の緒になるのは間違いない。今から20年以上前に、日本企業の経営やトップのあり方をうまく言い当てているのは流石である。

 その意味で、三越伊勢丹の細谷社長は福岡時代に販売担当者の縦割りを解消し、顧客が望めば衣服や鞄、靴、ジュエリーの接客にも携われるようにした。これも部下になるべく権限を与えて育てていこうという考えからだ。

 UAの松崎社長も、社員が楽しくワクワク働けるようでないと、顧客により良いサービスや価値の提供はできないと言う。ポジションを超えて自由に意見を言い合え、新しいアイデアが浮かびやすく、活気のある社内環境を大事にしたいと、自分なりの企業風土作りを語っている。これらは会社をよく知る現場叩き上げだからこそ考えつくことだ。

 プロ野球の故・野村克也監督は、自書「野村の流儀」の「リーダーとはどうあるべきか」で、「組織はリーダーの力量以上には伸びない」と、語っている。言い換えれば、伸びない組織は、リーダーに能力が欠けているということ。果たして、そんなリーダーをプロ経営者と呼んでいいかである。

 もちろん、現場委譲型の経営では、社員個々が自ら考えて仕事をしなければならない。というか、業績不振の企業こそそれが必要なのである。外様組のプロ経営者が成しえなかったことを是非とも生え抜き、現場叩き上げのトップに実現していただき、グローバルな価値観を覆すくらいの気概と責任感を見せてもらいたい。
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