HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

買い得を考え直す。

2017-01-18 07:12:40 | Weblog
 2017年が始まって2週間が過ぎた。1月2日、初詣に出かけたついでに、中心部天神の初売りを見て回ったが、メディアの報道ほど服袋を買った人とはすれ違わない。店外に出ると購買客の密度が落ちて目立たなくなるのだろう。

 それとも中身がメーカーの売れ残り在庫やコストダウン製造した専用品であるのを消費者が見透かし始めたということか。福袋商戦を煽るのは年末年始に飯のタネがなく、営業企画としてタイアップ番組を作りたいテレビ局くらいでは。服袋も商品詰め込み型から、コト消費の体験型にならざるを得ないということである。

 それにしても、初売りからセールへの流れは、皮膚感覚で年々賑わいを失っていると感じる。人手は2年前の15年がピークだったのではないか。その時でさえセール用に確保していた在庫を投入したようなショップもあった。お客側は「お値打ち品がないなあ」との印象から、集客の割に購買には結びつかなかったところが多かったと思う。

 日常から十分に値ごろな商品が出回っている。それを買えば、セールでまた同じような商品を買う必要はない。一部のブランド品では、「狙い目はバーゲンまで待とう」「お買得品を1円でも安く買おう」という消費者心理も働く。伊勢丹のように長蛇の列ができるのはわからないでもない。言い換えれば、昨年のセールが惨敗したところ、17年のセールも不発だったところは、明らかにプロパー商品に魅力がないのである。

 消費者の立場から言えば、今の市場には大枚をはたいても買いたくなるような商品がなかなかない。SPAを中心に値ごろな商品はいくらでもあるが、それが買いたくなるかというと別問題。値ごろ感、安さはあくまで選択肢の一つであって、絶対的な価値ではない。なおさら仕入れのみで勝負するセレクトショップとなると、商品1点1点はバイヤー垂涎の品かもしれないが、必ずしもお客の感性にフィットするとは限らない。

 今は高級セレクトショップを訪れるお客でも、SPAやネット通販もチェックしている。バリエーションに富んだMDに飼いならされてきているせいか、選択肢が少ない品揃えではどうしても購入に二の足を踏んでしまうだろう。購入条件が素材感やデザインであるなら、それらを提供するブランドを買えばいい。しかし、仕入れ中心のセレクトショップとなれば、そうは行かないのである。売り方の問題ばかりがクローズアップされているが、今年は商品そのものの課題にもスポットを当てるべきだと思う。

 それはアパレルも小売りも十分にわかっているはずだ。ところが、「消費がモノからコトに変わった」からとか、さも問題がないように商品から目を逸らし、責任転嫁や言い訳をするようでは製版の使命を放棄したことに他ならない。やはり抜本的に商品づくりから品揃えまで考え直さないとどうしようもないだろう。初売りはその年の商売に勢いを付けるイベントでしかない。作りすぎた不良在庫をだらだらと消化していくのが良いわけではない。その後はあくまでプロパーで売る日々が続くのである。

 一方で、ファッションは気分消費的な面もある。陽射しが明るく春に向かって行くのに重たい冬素材、ダークな色合いが着たいはずもない。だから、冬本場と春に向かう中で商品をどうしていくのか、考えなければならないのである。

 福岡は先週末から今週火曜日まで、「日本中をこの冬一番の寒波が襲う」と報道される中でも、陽射しは暮れとは比べ物のはならないほど明るかった。マンション内の事務所では、暖房が必要ない時間帯もあるくらいだ。肌寒い日々はまだまだ続くが、陽射しが日に日に春めいていく中では、なおさらプロパーで売れるMDがカギを握るのは言うまでもない。

 どこかのグローバルSPAは、毎年のように1〜3月の四半期決算では、「天候不順で春物の動きが鈍く、売上げが低迷した」と言っている。まだまだ肌寒いのだから、Tシャツや薄手のコットンが売れるはずはない。かといって、重たい冬物でも買う気にはならない。何年も経験しているのなら、もう少し企画をじっくり練ってもいいのではないか。

 具体例を挙げれば、スプリングコートは厚手のコットンギャバで、生地をコーティングするとか、取り外し可能なフリースのライナーを付けるとか。薄手になめしたレザージャケットを押し出すとか。目が詰まった肉厚のコットンニット、綿素材のスエードやフランネル、同素材のピケなんかを使ったジャケットやパンツがあれば、防寒を発揮しつつ4月まで引っ張れると思う。

 色目はブライトカラー、パステルやグレイッシュトーンが主体になるが、ポイントは逆差し色としてダーク系を入れてもいいんじゃないかということだ。黒、紺はもちろん、モスグリーンやカーキなどである。例年のように暖冬が続いて9月、10月はなかなか気温が下がらない。ウールのアウターやニットが立ち上がりから実半期に入っても売れないのは、寒くないから要らないのである。

 だからと言って、着るものが不必要かと言えばそんなことはない。コットン素材を主体とした「春物」の黒、紺、モスグリーンはこのシーズンにも十分に着てもらえると思う。つまり、年明けの商品の中には、秋の立ち上がりにも着回せるようなものを加えることで、購入の選択肢を拡げることもできるということである。価格はそこそこ高くなるが、売れると売上げは確実につく。

 グローバルSPAなら同じ素材で色のバリエーションは10種程度まで増やせる。だから、十分対応できる思うし、現に行っているヨーロッパのメーカーもある。仕入れのみのセレクトショップでも1年を通したMDの中で、メーカーに別注企画などを持ちかけてもいいのではないか。毎年、暖冬、寒春で失敗したと嘆いてばかりでは何も始まらない。もっと暖冬を前提とした着こなし、寒春に即応できる商品に目を向けるべきなのである。

 消費者は賢くなっている。必要でないものは買わないと言われる。ならば、消費者の合理的なワードローブ計画に添うような商品企画、売り方をすれば良いということだ。あくまで判断は消費者がするのだから、買いたい商品があれば売れるはずである。

 店頭で在庫を持ちこせないなら、通販サイトなどに「お値打ちコーナー」を設けていいと思う。店頭で売れない在庫ばかりをサイトに置いたところで、ネットの向こうの消費者が反応するはずもない。そうではなく、「春素材だけど、ダーク系だから秋口にも着回し」「ブライトカラーの薄手ニットは九州の方におすすめ」なんて括りを作ってもいいのかもしれない。安売りを打ち出すのではなく、真のお買得、お値打ち感を訴えるのである。

 筆者がニューヨークで仕事をした90年代半ば、百貨店のブルーミングデールズには12月なのに麻のジャケットやパンツ、コットンのシャツが値ごろな価格で売られていた。最初は「ええ、もう春夏物なの」と思ったが、よくよく考えるとニューヨーカーの中には、クリスマスホリデーを避寒地のバハマやプエルトリコで過ごす人もいる。旅行着(トランク)として夏用のクロージングが必要になるのだ。

 日本でも水着が一年中売れると言われるが、欧米ではホテルにおけるドレスコードからジャケットが不可欠になる。新規に商品を仕入れるというより、夏場の在庫を確保して投入していたのではないか。米国の百貨店は商品を買い取るからこそ、できることだが。

 こうした売り方の発想転換は決算や課税の問題があるのでアイデアの域を超えず、どこでも一律にできることではない。それは十分承知の上だが、商品が売れないと断じるだけでなく、もう少し商品の作り方や売り方で融通を利かせてもいいと思う。ECがここまで発達しているのだから、消費者は店頭で必要な商品が見つからなければ、通販サイトにお目当ての商品を探しに行く。

 しかし、ECが目先を変えただけの単なる流通ルートにとどまり、店頭の商品と同じものしか売ってなければ、現物を見て試着して買うか、しないで買うか、コスト分だけ多少安いかの違いなだけで、購入の選択肢は広がらない。そうではなくて店頭ではできない、いろんな商品展開、売り方ができるところがECの良さ。だからこそ、商品の着回しをサイトと連動して商品開発から提案まで行っていく。消費者にお買得感=賢い買い物を訴えて行くことも重要だと思う。

 ここ数年はECやオムニチャンネルなど、販売手法さえ新たなものにすれば、活路が見出せるようなビジネス論も多い。しかし、いくら売り方を近代化したところで、売れないものは売れないのである。これはいたって単純明快なことだ。

 ネットビジネスが隆盛を極めれば極めるほど、まやかし、詐欺まがい、食わせ者の業者も登場してきており、星印ではわからないところで悪徳商法があとを立たないのも事実だ。いくら「イタリア製生地」「コードバーン使用、日本製」と謳われたところで、ネットの先にあるものを消費者が確認できるはずもないからである。

 昨年暮れにはDeNAのキュレーションサイトの問題が噴出した。その多くが読者を増やして広告の収入源を上げようとするあまりに、運営者は執筆を自分で行うことなく、一記事数百円から二千円程度の安価で外注したり、裏ワザを使って検索上位表示させたりしていた。

 結果、ネット上では信憑性や根拠のない事実がまかり通り、読者が間違った情報を鵜呑みにする危険性が非常に高いことがはっきりした。そうなると、通販サイトの世界で消費者を欺くような商品の流通が絶対にありえないと、誰が言い切れるのだろうか。今年はECの世界でも蓋をされて来たこうした問題点がどんどん噴出するかもしれない。

 せっかくの利便性と購買チャンスがまやかしや詐欺まがいといったイリーガルな行為で悪用されることがあってはならない。消費者がますます期待はずれ、まがいものを購入させるケースが増えて行けば、ECには未来はない。これには売る側だけでなく、商品を作る側にも責任があるわけで、ネット時代のもの作り、売り方がますます問われる1年になると思う。

 いいくらい言われているが、要は価値あるものを作りだし、賢いお客の理にかなった商品提案だと思う。「今は着れないかもしれないけど、秋口の方がいいかもね」。店頭での接点がネットでも管理、継続されるような仕組みづくり。単に実店舗とネットを融合させるスローガンではなく、その中にどんな商品を作って投入し、レスポンスとヒット率を高めて行くか。メーカー、小売り双方の挑戦にかかっていると思う。
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