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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

手段が目的化した事業。

2021-02-10 07:09:24 | Weblog
 このコラムで、過去に何度か取り上げた「福岡アジアファッション拠点推進会議」。麻生渡前福岡県知事の肝いりで、福岡商工会議所が中心となり、2008年3月に発足した。複数の関係者によると、同事務局は会員に対し3月に開催する総会で、「推進会議の解散」を決議する旨を通知したという。大々的な名称とは裏腹に、当初に打ち出した目的の達成度は検証されないまま、発足から13年で幕を閉じることになる。

 ある会員にネットで送付された「総会の開催について」には、「新型コロナウイルス感染拡大防止のために参加人数を制限する場合がある」との但し書きがあり、出席通知状とともに「総会委任状」が添付されていたそうだ。開催日時は3月26日金曜日、午前11時〜11時30分。コロナ禍の非常事態でなくても、平日の昼間にどれほどの会員が参加するのか。また、すべての会員が正式に委任状を提出するか。総会を待つまでもなく、大体想像はつく。

 おそらく、議長は粛々と「推進会議の解散について」の議事を進め、参加者は会員の委任状をもとに「異議なし」と答え、すんなり議決されるだろう。あとは「解散後の清算手続きについて」の説明があるだけ。会員の委任がある無しに関わらず、参加者が議題に異論を挟むこともない。総会の開催時間がわずか30分しかないのを見ても、解散は既定路線であり、総会はシャンシャンで終わると思われる。

 ただ、こういう結果は、推進会議が13年の間に実施した事業内容を見れば、なるべくしてなったものと言える。ここでそれを振り返ってみよう。発足時に発表された事業の目的、具体的な事業内容は以下(写真)になる。推進会議が初年度に負担する事業費の上限額は、2700万円。実際に事業を遂行する事業委託先は、「企画コンぺ」で選ばれることになった。



 2008年5月16日の説明会に集まった業者は広告代理店、イベント会社など総数42社にも及んだ。一次審査は企画書で行われ、二次のプレゼンテーションに進めたのは、わずか4社だった。同年6月13日に行われたプレゼンには、推進会議の役員が審査員として臨んだ。後日、審査会が開催されて、事業の全てを遂行する委託先=「トータルプロデューサー」には地元テレビ局の「RKB毎日放送」が選定された。


神戸コレクションを下敷きにしただけ

 ファッション業界からすれば、「何でローカル放送局が」「アパレル業界をわかっているのか」「コレクションなんてやったことがあるの」が率直なところだ。しかし、これには布石があった。推進会議の設立総会は、委託先が決定する3ヶ月前の3月27日、ホテルグランドハイアット福岡で開催された。来賓として麻生前福岡県知事、吉田宏前福岡市長をはじめ、福岡商工会議所元会頭の河部浩幸推進会議会長が顔を揃え、挨拶を行った。

 司会進行はRKB毎日放送(以下、RKB)の女子アナが担い、アトラクションでは同社の番宣とも言えるショーが披露された。併せて基調講演も行われ、リアルクローズを着たタレントがランウエイを歩く「神戸コレクション」の生みの親、(株)アイグリッツの高田恵太郎代表が登壇。神戸コレクションを企画・制作する「MBS毎日放送」(RKBも同系列)の担当プロデューサーも、わざわざ来福していた。

 設立総会の時点で、ここまでの段取りがついている以上、RKBが推進会議の一連の事業を仕切るのは既定路線だったとも言える。コンペは所詮、出来レースで、一般競争入札にしたというアリバイ作りに過ぎなかったのだ。2008年4月以降、事業がスタートすると、ローカルテレビ局主導の企画がより鮮明になっていった。

 08年7月、推進会議が「福岡のファッションを考える」というテーマで主宰したシンポジウムも、内容はRKBが東京からタレントの「押切もえ」やスタイリストの亀恭子らを呼んだトークショーだった。さらに押切もえが出演した自社制作の番組を放送されたが、福岡のファッション産業など知らないタレントのコメントなど台本の通りで、これが地元ファッション産業の振興につながるかには?が残った。

 一方、メーン事業のコレクションは、2009年3月に「福岡アジアコレクション」として開催が決定。押切もえの起用は、FACo出演のバーターではと受け取られてもしょうがない。実際、押切もえはFACoに数年連続で出演している。

 もちろん、RKBにファッションイベントの一切を単独でプロデュースするノウハウがあるはずもない。前出のアイグリッツやMBS毎日放送が神戸コレクションのフォーマットにそって、タレントのブッキングからNBを中心とした衣装の手配、会場・ステージの構成、音響・照明、演出までで支援協力した。RKBにできたのは行政に対する予算支援の折衝、地元のスポンサー営業、イベントスタッフの弁当手配くらいだ。

 2011年には東日本大震災で日本中が自粛ムードになる中、反対論を味方につけて第3回目のFACoを強行開催。「会場では寄付を募る」との理由もつけたが、要は中止すると準備経費が全て無駄になり、タレントのキャンセル料なども響いて大赤字になるからだ。では、どれほどの寄付が集まったのかと言えば、RKBがFACo公式HPで発表した額は80数万円。一人100円として入場者数8000人でほぼ同額になるが、あまりに出来過ぎの数字である。



 「福岡を拠点とするデザイナー、アパレルメーカー等を中心とした」のコレクション開催の但書も、初回こそ地場の量産アパレルが参加し、イベントの半年以上前から福岡で活動するデザイナーやアパレルに出展を呼びかけてはいるものの、出展料が15万円と高額なため(タレントコラボではPR費50万円と生産数に応じて20%のロイヤリティを要求)に参加できるブランドは限られた。RKBには公金を使わせておきながら、地場のアパレル関係者には有償で参加を呼びかけ、しかも地場アパレルからは搾取しようというのは全くおかしなことである。
 
 しかも、イベント終了後にメーカーを交えた総括会議が開かれることはなく、「福岡ブランド」を売る際に、ネット販売が優先されなおかつネットやオフィシャルショップの売上げ情報がメーカー側に示されない=楽天に販売を丸投げした弊害か。FACo開催の大義に地元ファッション産業の振興を掲げながら、メーカーの意見を無視するという大きな矛盾を露呈した。

 もっとも、参加ブランドの数はわずか数社で、イベントの尺を埋めるほどの頭数は揃わないため、どうしても中国生産のSPA系NBをメーンにせざるを得ない。RKBのプロデューサーは周囲に「(FACoは)NBでやりたい」と語っていたことで、地元のファッション業界から失笑を買った。というか、地元なんかに目を向けていないのは明らかだった。


高島市政誕生で福岡市が全面支援

 FACo以外の事業では、業界関係者による講演会(福岡ファッションフォーラム)や地元デザイナーの活動支援など小規模なものが行われたが、推進会議の単独事業ではない。ほとんどが福岡県や福岡市、他の団体の活動に便乗したもの、あるいは広報的意味合いのもの、ファッション産業を振興する目的としては具体性を欠いた。さらに企画運営委員会の利害関係者が私物化しようなものもあった。

 関係者によると、FACoに対し福岡県や福岡商工会議所が予算の面で全面的に支援するのは、3年間(初回から3回まで)との条件=「継続開催したいのなら自社(RKB)で事業化しろ」だったという。だが、自治体の全面支援がなくなれば、事業予算の確保は難しくなる。RKBは自社事業のFACoで収益を上げたいがために、他の事業に予算を回すことなど端から考えてはいなかったと言える。トータルプロデューサーとは名ばかりだった。

 もっとも、2010年にKBC九州朝日放送でアナウンサーを務めた高島宗一郎氏が福岡市長に就任すると、福岡市が「経済観光文化局」の予算を割いて全面支援するようになった。FACoは東京ガールズコレクション(TGC)を模倣し海外(台北やバンコク)でも開催された。それにしても、先に海外公演を行っているTGCの公演先と被らない開催地にしただけで、海外版の客寄せ興行であることは変わらず、福岡のファッション産業に貢献するには程遠かった。



 FACoはローカル放送局の収益事業としてペイさせるために、あらゆる業種のスポンサーをするようになっていった。とどのつまりが2013年の「ボートレース振興会」である。タレント見たさに「未成年」が多数来場するのにである。ここまでくれば、公共性もあったものではない。

 また、福岡市の主導でFACoの前、2週間から1ヶ月程度で「ファッションウィーク福岡」「ファッションマンス福岡アジア」がスタート。推進会議はこの企画も代理店に丸投げしたため、内容や参加対象が毎年のようにコロコロ変わった。福岡市の中心部で開催と謳いながら、大手流通業がスポンサーに付くと郊外SCの参加をアピールし、中小事業者には参加告知(パンフレットへの店名掲載)を有償するなど著しく公平性を欠いた。参加事業者が減ると、飲食事業者にまで範囲を広げ、数字を盛る始末だった。

 そもそもこの季間イベントは、「春にも多くの人に福岡の中心部に買い物に来てもらう」との高島福岡市長の発案からだった。そのためには来福者を増やすこと=タレントで釣ればいい参加事業者や来福者数が目標を達成すれば、福岡市の担当者も文句はないはず。事業を委託された代理店が考えることはそんなものだから、コンセプトが固まらないも当然だ。これでは巨額な税金を投入しても「何かやっている」感じでしかなく、福岡のファッション業界は何ら恩恵を受けることはない。

 結局、昨年度はFACo自体が福岡市の大枠予算での割り振りが少なかったのか、それまでの福岡国際センターからファッションマンスが開催される天神での市中開催と、大幅な縮小を余儀なくされた(新型コロナウイルスの感染拡大で全てのイベントが中止)。推進会議の事業もスタートから年を追うごとに内容、規模とも縮小、衰退していったのだから、行き着く先が「解散」となるのも納得がいく。

 福岡商工会議所が推進会議の事業に注力したのは、福岡のファッションを振興させる大義があるが、そこから若手事業者が台頭して会議所の会員になってもらう思惑もあったと思う。しかし、事業委託を受けたローカル放送局や代理店は、事業費を得れば自社の収益しか眼中にないため、手段は目的にされてしまう。福岡のファッション産業は利害関係者と出入り業者のために利用されたと言っても過言ではない。

 推進会議の発足から事業の経過、そして解散に至る理由を考えてみた。コラムの文字数に達したので、今回はここまでに留めておく。次の機会には、RKBや代理店とは別の利害関係者についても触れてみたい。
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