HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店長は無印良人も可。

2023-07-05 07:36:42 | Weblog
 良品計画が今年4月に発表した2023年8月期第2四半期決算は、売上高が前年同期比15.9%増の2833億円だったが、営業利益は同46%減の101億円と大幅に落ち込んだ。急激な円安と原材料価格の高騰が最大の要因という。ただ、同1月の第1四半期決算も営業利益は同54.9%減だったことから、1月13日に実施した値上げ効果は道半ばのようである。

 そんな中、先日、日経新聞のある見出しが目に留まった。「良品計画、店長候補に社会人200人採用、経験は問わない」である。同社が2024年8月までに店長候補として社会人経験者約200人を採用するというものだ。今年8月期までには国内で前期比8割増の79店を出店する計画で、店長人材が圧倒的に不足しているとみられる。

 良品計画は昨年、地方での路面展開、スーパー隣接出店などを表明しており、今回の社会人採用は店舗をマネジメントする人材確保が急務であることを示す。ただ、流通業としては店長登用を取り巻く環境は非常に厳しい。大企業では、就活の学生が「転勤なし」を強く望む傾向が強まっている。また、就活生には「配属ガチャ」を懸念が付きまとうし、ジョブ型雇用の導入あって入社時点で専門職として採用すれば、店舗への異動は難しい。

 良品計画の新卒採用の場合、優秀な学生が「本社勤務なら働きたい」と申し出た時、人事側が「当社は全国転勤が条件」とのスタンスなら、おそらくその学生は内定を出しても入社を断ると思われる。一方、同社の通年採用は部門別で行なわれている。経験や実績から専門職として採用すれば、こちらも店舗への異動はできない。旧来のように組織の論理を優先して地方転勤、店舗配属の人事を強制すれば、せっかくの人材が辞めていくかもしれない。ならば、社内での地方店への店長登用は容易でないことになる。

 だから、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、新卒の給与を5万円も引き上げることを引き換えに、「新入社員は店舗勤務からスタートする」条件を就活の学生に認識させた。表向きは昨今の人手不足から大幅な賃金アップを打ち出した形だが、SPAとして売上げを稼ぐメーンが店舗であることに変わりはない。マネジメントする店長の頭数は何としても確保しなければならないわけだ。アメとムチをうまく使い分けた採用・人事と言える。

 そこで今回、良品計画が打ち出した「店長候補・社会人200人採用計画」である。同社はファストリのように新卒を店舗に配属して店長を育てるのではなく、即戦力のマネジャー候補を採用して出店増に対応するようだ。国内事業が苦戦する中では、新人が成長するのを待っていられない。また、ジョブ型の雇用形態や望まない転勤など仕事に対する意識変化もあり、直接店舗に人材を配属する採用に切り替えたことになる。



 穿った見方をすれば、良品計画の場合、就活生に店舗勤務、店長候補として地方転勤をチラつかせると、その時点で優秀な学生ほど入社を敬遠するケースが多いのではないか。仕事ができるできないは別にして、昨今の就活生が良品計画を志望する理由は「マーケティング」や「商品開発」「リテールDX」など新規事業に携わりたいからではないか。人事側もそうした就活生の意識変化を無視することはできない。

 では、良品計画の採用計画がうまくいくのか。というか、即戦力のマネージャー候補が採用できて、新規店舗が順調に成長軌道に乗せられるかと言えば、それも難しいと言わざるを得ない。なぜなら、今回の採用計画では「(店長の)経験は問わない」とされているからだ。一応、社会人経験があれば応募はできるようだが、店長職は、素質はもちろんのこと経験が必須で、いくらマニュアルを用意したところで、個人の力量で運営力には大きな差が生じる。結果としてそれが営業収益にもつながっていく。

 今回の店長候補200人採用は店舗配属、特に地方展開での人事になる。だから、主に地方に住んで転職を考える人、地元にUターンしたり、新天地にIターンして第二の人生を送りたい人が応募すると考えられる。元社員を再雇用する「アルムナイ採用」を行うこともできるが、一度良品計画を退職した人間が再び忠誠を誓うかはわからない。昨今のトレンド、「田舎暮らしをしたい人」は牧歌的でスローなライフスタイルを望んでいるから、無印良品のような売上至上主義の仕事は望まない。つまり、応募者の中から計画通りに採用できるかは未知数なのだ。


地方に優秀な店長候補はいるのか



 そもそも、店長とはどんな仕事なのか。一口で言えば、店舗を管理して売上げを伸長させることだが、その業務は実に幅広い。無印良品の場合、販売はセルフスタイルで、スタッフの大半はパートアルバイト(P/A)になる。だから、まずはPAの採用から始まり、シフト決めと勤怠管理、売場業務の指導へと広がる。未経験者を採用すれば、マニュアルにそって簡単な接客やセールストークからクレーム対応、品出しや商品整理まで教えていかなければならない。当然、P/Aの中から腹心となるスタッフの育成も不可欠だ。

 最も重要な仕事は、決められた売上げ予算の達成だ。そのためには商品カテゴリーごとの管理、売上げ状況の把握、報告が必要になる。それに付随して店独自で拡販する商品の打ち出しから、売れ筋や欠品のフォロー、動きが悪い商品の処理、売価変更など本部バイヤーとの調整まで、やらなければならないことは多い。マニュアル通りに行ってもうまくいくものではないので、創意工夫も必要になる。そこが素質や能力が必要な点でもあるのだ。

 営業経験者なら似通った仕事をしているかもしれないが、店舗という空間の中で数十名のパートアルバイトの顔と名前を覚えて指導育成しながら、店舗を運営する仕事は未経験者にとって簡単に務まるものではない。応募者の多くは地元勤務を望むだろうが、土着のことをわかったつもりでも、パートアルバイトと年齢差があるほど意識のズレが生じる。仕事ではいろんな障害にも出くわすから、半年や1年で店舗が順調に機能するかは全く不透明なのである。

 店舗販売を行う企業の幹部には、「俺は店を渡り歩いて実績を積んだラインの人間だ」と豪語する方がいる。だが、そうした旧態依然とした考えを昨今の就活生にひけらかしても、賛同など得られるはずもない。「まずは店で経験を積む」というフレーズは、組織の論理を優先することの裏返しでもあるからだ。その流れで人事が「何でも経験だから」とオブラードに包んで訴えたところで、自ら地方に赴きたい就活生がいなければ、出店計画も狂ってしまう。だから、最初から地方勤務を前提にした店長採用に踏み切ったわけだ。



 良品計画は5月末、北海道の新ひだか町に「無印良品 コープさっぽろ しずない」、6月には和歌山県の新宮市に「無印良品 スーパーセンターオークワ南紀」を出店した。しずない店はコープさっぽろという食品スーパーに隣接した店舗。オークワ南紀店は地元のスーパーセンター・オークワへのテナント出店。どちらもこれまでにはなかった立地での展開となる。

 従来、無印良品の出店先は大都市の自社ビル、都市・郊外型のショッピングセンターだった。地方都市、郊外への出店を加速させるのは、お客の日常の買い物でも無印良品に向き合ってもらい、来店頻度を高めて買い上げ率を上げるためだ。その前提として、堂前社長は2021年9月に「地域事業部」を発足させ、地方を12区分に分けて出店と店舗をコントロールしようとしている。同社幹部に昇進、ポストと引き換えに地方勤務を促す格好だ。



 各地域事業の業務は店舗開発、小売り、土着化、新サービスなど地域での取り組み全てに責任を負うという。また、地域と一体となって無印良品を商店街活性化の拠点に位置づける取り組みも始めている。だが、それらも各店舗がマネジメントできての話になる。さらに一つ気になることがある。群馬県の前橋市の前橋中央通り商店街に出店した無印良品は35坪の小型店というが、出店に際して地元住民ヒアリングからキッチン用品や菓子類を主体にラインナップしている。

 ここではレジ横のスペースを地元の生産者や事業者らに1日4000円(地域や店舗でも変動)の賃料で貸し出す「一坪開業」をスタートさせた。地方のセブンイレブンやコスモスドラッグが行なっているのに近いモデルだ。前橋中央通り店では5月末の時点で3事業者が利用したというが、1日4000円の賃料を月に換算すれば12万円にもなる。一坪ビジネスとは言え、今の地方で1日4000円以上の利益が出せる商売がどれほどあるのだろうか。

 良品計画は地方展開で出店中の600坪型店舗は、月坪効率の目標を15万円に設定する。だが、現状の実績は10万円というから目標には遠く及ばない。つまり、一坪開業も月額に換算すると家賃は12万円になるのだから、「月坪15万円の売上げがあれば、3万円の利益が出ますよ」という目論見なのだろう。同社は商店街の活性化と宣言しているが、借りたスペースをまた貸しするだけで、発想はデベロッパーと何ら変わらない。しかも、とても安価とは言い難い家賃を取るのだから、借り手にとって出店のハードルが高くなる。

 第一、無印良品が地方で独立店舗を展開したとしてどこまで集客力を発揮し、地域住民を顧客にできるかはわからない。堂前社長は「月坪15万円の目標を達成するには、商品の中身を変えていく必要がある」という。だが、地域の住民がデイリーで必要とするのは、生鮮三品と惣菜、グロサリーである。それは地元スーパーが押さえている。それを切り崩し、無印に立ち寄らせるにはお客が購入したくなる商品が必須で、店長の力だけでは限界がある。

 無印良品は東京有明店ではスーパーと提携して青果を扱い始めたが、そのモデルはまだ緒についたばかりだ。地方都市、地元スーパへの小判鮫的な店舗で、自社ブランドの雑貨や菓子類などを拡販して利益を回復できるかと言えば、非常に厳しいと言わざるを得ない。まして、そんな環境下で、店長の仕事に携わる人材を集めきれるか。良品計画は、前職の色がついていない無印な良人を見つけ出し、「地方で働く魅力」という大局のテーマにも立ち向かわなければならない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする