7月に入ると、2022〜23年秋冬アイテムのメディア露出が始まる。ただ、メンズはレディスのような変化がないため、「今年はこれを着てみたい」というものになかなか巡り会えない。ベーシックなアイテムを今風に焼き直す企画があってもいいと思うが、そこまでにチャレンジするようなブランドもデザイナーも少ない気がする。
デザインはそのままで素材だけでもオリジナリティのあるものに変えるとか、ディテールを少しいじってモダンに仕上げるとかでも十分お洒落になると思うんだけど。そんなことを考えていると、繊研PLUSがこの冬の注目の東京ブランドをピックアップし、絶妙なデザインバランスを評価していた。https://senken.co.jp/posts/tokyobrand-220713
まさにこんなデザインがメンズにもあったらと思うものだ。まず一つ目は、サイの「ベルテッドジャケット」。ブランドのベーシックライン「サイベーシック」で長く支持されているモーターサイクルコートの進化版という。生地にメルトンを使い、肩回りを動かしやすくしたラグランスリーブ。ミリタリーディテールのフラップポケットを斜めに付けるなどで今風にアレンジしている。
「ベルテッドジャケット」「モーターサイクル」「メルトン」「ラグランスリーブ」「ミリタリー」と、企画に加えられた各条件はメンズアイテムが多用するものだ。特にベルテッドジャケットやモーターサイクルコートは、80年代にはよく目にした。男性は肩幅が広いため、トップのシルエットはどうしてもすとんとした落ち感が出てしまう。そこに変化をつけるのがベルトだ。ウエストを絞るとバストラインが強調される。
モーターサイクルコートでは風を内部にこもらせず、身体の冷えを抑える役目もあるが、肩幅の狭いレディスでは、ウエストマークもソフトでいい。その方がラインが綺麗になる。ベルトをループに通したまま背中側でバックルに通せば、ダーツが入るし粋な着こなしになる。ジャケットにベルトを付けるだけなのに、着こなしのバリエーションが出せるユーティリティなアイテムと言える。
二つ目は、ザ・リラクス。ピークドラペルのダブルジャケットをベースに張りのある生地でショート丈のコートに仕立てた。レディスのため、肩幅は広くない。だからあえて袖付けの位置を落としてダウンショルダーに。それが短めの丈と相まって緩やかなアンプルラインを形作り、モダンな印象を生み出している。
身幅のあるメンズジャケットの肩パッドを外して、女性用の人体に着せバストやウエストのライン、着丈をピンを打って調整してレディス向けに。まさに逆転の発想で仕立てたように見えなくもない。もちろん、野暮ったくならないようにボリュームの取り方や流れるような美しいシルエットは、女性デザイナーならではの感性だ。メンズなら多少陳腐化したトラディショナルなアイテムでも、女性向けにアプローチを変えれば、こうも垢抜けてくるということだ。
そして、三つ目はラシュモン。アイビールックのアイテムを女性向けにアレンジしている。定番とも言える縄編みのチルデンセーターをボタン止めでロング丈のカーディガンに変えた。チルデンセーターではVネックと裾にラインが入っている。それをこのカーディガンでは左右身頃の縁と裾、袖口、ポケット上部に施し、コンサバなテイストを拭いながら個性を際立たせている。
合わせるのがパンツやスカートなら、ロング丈が主張し過ぎてバランスが崩れてしまう。しかし、インナーにロービングツイードのにマキシ丈ドレスを合わせることで、エレガンスな印象を引き出している。女性ならではの着こなしを楽しんでほしいとのブランド側の意図がうかがえる。
メンズにも欲しいディテール変化
振り返ると、筆者が過去に購入してきた海外メーカーのアイテムも、ベーシックなもののディテールを削ぎ落とすことで、現代風のテイストに仕上げたものが少なくない。例えば、メンズの定番でもある「ピーコート」は、パイピングした縦型の「マフポケット」が基本仕様になっている。英国海軍の艦上用コートがルーツのため、寒さから手を温めるハンドウォーマーの役割でもあったからだ。
フランスのメーカーが企画したピーコートは、ポケットをジップ仕様にしていた。フラップなしの縦ポケットではカギやウォレットを入れると、落としてしまいそうな不安がある。ジップならその心配がなく、ファッション的にもモダンな印象になる。オリジナルデザインや仕様にこだわる日本ブランドにはないテイスト。購入して15年以上にになるが、今でも寒さが厳しい日には必ず着るお気に入りのコートだ。
トラディショナルなカーディガンは、メンズでも縄編みなどで前ボタン、襟なしと仕様が決まっているが、どれかを変えることで印象がずいぶん変わってくる。カーディガンの前合わせをジップ仕様にしたものもそうだ。ジップの上げ下げを調整してインナーを見せる着方もできるし、フルアップすればタートルネックになって首元を冷気から守れる。
お気に入りを一つ購入すれば、そればかりを着てしまうので、ついつい同じ仕様のものに手が出てしまう。秋冬だけではく、梅春から初夏に着るブライトカラーや生地にカットソーを使ったものなど、いつの間にかジップ仕様ばかりになってしまった。ただ、モダンなテイストでなかったら、リピートすることもなかったと思う。
テーラージャケットはデザインがほぼ決まっており、そのまま着るだけではそれほど変わり映えはしない。だが、ヘムの縫い代に異素材を加えることでずいぶん印象が変わる。ノッチラペルやフラップポケットは当たり前だが、始末を単なる縫い合わせにするだけでなく、レザーを挟むことで光のラインが出てシャープに見えてくる。ちょっとした工夫で陳腐化したアイテムをまったく違ったものにしてくれるのだ。
そして、数年前にネットで見つけて迷った挙句に購入したのが、前身頃のみ左右をダウンベスト仕様にしたニットジャケット。ダウンベストはアウトドアブランドでは定番だし、ユニクロはじめSPAも数多くの企画を打ち出している。薄手にしてインナーに着られるようにしたり、そのままジャケットに縫い付けたものまで登場した。2018年秋冬ではヨウジヤマモトですら、オイルコーティングした厚手のコットンジャケットにダウンベストをセットしたものを企画していた。
ダウン系のアイテムは外地に光沢のあるポリエステルを使っているため、素材的にあまり好みではない。薄手のベストにしてもウールのジャケットに下に着ると、静電気が気になってしまう。この両方の課題に応えてくれたのが前身頃のみをダウンベスト仕様(おそらくボンディング)にしたニットジャケットだ。しかも、ダウンの外地にはマットカラーのコットンを使用しているため、光沢も静電気も気にならない。
これらのアイテムを見ると、何もゼロから全く新しいものを企画したわけではない。一つのディテール、一つの部位について、仕様や処理を変えたり、異素材に置き換えることで、違った印象を生み出したものだ。元はベーシックで少し野暮ったく感じるアイテムでも、一つ手を加えることでモダンでエッジが効いたものに変貌する。
デザインもアイテムも豊富なレディスでは、ゼロから全て作り替えるには、相当の時間とエネルギーを要する。でも、それが必ずしもお客にを惹きつけて、大々的に売れるとは限らない。だったら、既存のベーシックアイテムでディテールをいじくったり、削ぎ落とす方が半歩先の感覚でお客に受け入れてもらえる可能性は高い。こうした企画発想もクリエイティビティの一つではないか。
メンズもレディスの企画からインスパイアされていいのではないか。両方を持つブランドなら、一旦レディスに採用してそれから足し算、引き算の手法でメンズのデザインを仕上げる方法もありかと思う。それがメンズオンリーのブランドではなかなか見られないのは残念だ。
デザインはそのままで素材だけでもオリジナリティのあるものに変えるとか、ディテールを少しいじってモダンに仕上げるとかでも十分お洒落になると思うんだけど。そんなことを考えていると、繊研PLUSがこの冬の注目の東京ブランドをピックアップし、絶妙なデザインバランスを評価していた。https://senken.co.jp/posts/tokyobrand-220713
まさにこんなデザインがメンズにもあったらと思うものだ。まず一つ目は、サイの「ベルテッドジャケット」。ブランドのベーシックライン「サイベーシック」で長く支持されているモーターサイクルコートの進化版という。生地にメルトンを使い、肩回りを動かしやすくしたラグランスリーブ。ミリタリーディテールのフラップポケットを斜めに付けるなどで今風にアレンジしている。
「ベルテッドジャケット」「モーターサイクル」「メルトン」「ラグランスリーブ」「ミリタリー」と、企画に加えられた各条件はメンズアイテムが多用するものだ。特にベルテッドジャケットやモーターサイクルコートは、80年代にはよく目にした。男性は肩幅が広いため、トップのシルエットはどうしてもすとんとした落ち感が出てしまう。そこに変化をつけるのがベルトだ。ウエストを絞るとバストラインが強調される。
モーターサイクルコートでは風を内部にこもらせず、身体の冷えを抑える役目もあるが、肩幅の狭いレディスでは、ウエストマークもソフトでいい。その方がラインが綺麗になる。ベルトをループに通したまま背中側でバックルに通せば、ダーツが入るし粋な着こなしになる。ジャケットにベルトを付けるだけなのに、着こなしのバリエーションが出せるユーティリティなアイテムと言える。
二つ目は、ザ・リラクス。ピークドラペルのダブルジャケットをベースに張りのある生地でショート丈のコートに仕立てた。レディスのため、肩幅は広くない。だからあえて袖付けの位置を落としてダウンショルダーに。それが短めの丈と相まって緩やかなアンプルラインを形作り、モダンな印象を生み出している。
身幅のあるメンズジャケットの肩パッドを外して、女性用の人体に着せバストやウエストのライン、着丈をピンを打って調整してレディス向けに。まさに逆転の発想で仕立てたように見えなくもない。もちろん、野暮ったくならないようにボリュームの取り方や流れるような美しいシルエットは、女性デザイナーならではの感性だ。メンズなら多少陳腐化したトラディショナルなアイテムでも、女性向けにアプローチを変えれば、こうも垢抜けてくるということだ。
そして、三つ目はラシュモン。アイビールックのアイテムを女性向けにアレンジしている。定番とも言える縄編みのチルデンセーターをボタン止めでロング丈のカーディガンに変えた。チルデンセーターではVネックと裾にラインが入っている。それをこのカーディガンでは左右身頃の縁と裾、袖口、ポケット上部に施し、コンサバなテイストを拭いながら個性を際立たせている。
合わせるのがパンツやスカートなら、ロング丈が主張し過ぎてバランスが崩れてしまう。しかし、インナーにロービングツイードのにマキシ丈ドレスを合わせることで、エレガンスな印象を引き出している。女性ならではの着こなしを楽しんでほしいとのブランド側の意図がうかがえる。
メンズにも欲しいディテール変化
振り返ると、筆者が過去に購入してきた海外メーカーのアイテムも、ベーシックなもののディテールを削ぎ落とすことで、現代風のテイストに仕上げたものが少なくない。例えば、メンズの定番でもある「ピーコート」は、パイピングした縦型の「マフポケット」が基本仕様になっている。英国海軍の艦上用コートがルーツのため、寒さから手を温めるハンドウォーマーの役割でもあったからだ。
フランスのメーカーが企画したピーコートは、ポケットをジップ仕様にしていた。フラップなしの縦ポケットではカギやウォレットを入れると、落としてしまいそうな不安がある。ジップならその心配がなく、ファッション的にもモダンな印象になる。オリジナルデザインや仕様にこだわる日本ブランドにはないテイスト。購入して15年以上にになるが、今でも寒さが厳しい日には必ず着るお気に入りのコートだ。
トラディショナルなカーディガンは、メンズでも縄編みなどで前ボタン、襟なしと仕様が決まっているが、どれかを変えることで印象がずいぶん変わってくる。カーディガンの前合わせをジップ仕様にしたものもそうだ。ジップの上げ下げを調整してインナーを見せる着方もできるし、フルアップすればタートルネックになって首元を冷気から守れる。
お気に入りを一つ購入すれば、そればかりを着てしまうので、ついつい同じ仕様のものに手が出てしまう。秋冬だけではく、梅春から初夏に着るブライトカラーや生地にカットソーを使ったものなど、いつの間にかジップ仕様ばかりになってしまった。ただ、モダンなテイストでなかったら、リピートすることもなかったと思う。
テーラージャケットはデザインがほぼ決まっており、そのまま着るだけではそれほど変わり映えはしない。だが、ヘムの縫い代に異素材を加えることでずいぶん印象が変わる。ノッチラペルやフラップポケットは当たり前だが、始末を単なる縫い合わせにするだけでなく、レザーを挟むことで光のラインが出てシャープに見えてくる。ちょっとした工夫で陳腐化したアイテムをまったく違ったものにしてくれるのだ。
そして、数年前にネットで見つけて迷った挙句に購入したのが、前身頃のみ左右をダウンベスト仕様にしたニットジャケット。ダウンベストはアウトドアブランドでは定番だし、ユニクロはじめSPAも数多くの企画を打ち出している。薄手にしてインナーに着られるようにしたり、そのままジャケットに縫い付けたものまで登場した。2018年秋冬ではヨウジヤマモトですら、オイルコーティングした厚手のコットンジャケットにダウンベストをセットしたものを企画していた。
ダウン系のアイテムは外地に光沢のあるポリエステルを使っているため、素材的にあまり好みではない。薄手のベストにしてもウールのジャケットに下に着ると、静電気が気になってしまう。この両方の課題に応えてくれたのが前身頃のみをダウンベスト仕様(おそらくボンディング)にしたニットジャケットだ。しかも、ダウンの外地にはマットカラーのコットンを使用しているため、光沢も静電気も気にならない。
これらのアイテムを見ると、何もゼロから全く新しいものを企画したわけではない。一つのディテール、一つの部位について、仕様や処理を変えたり、異素材に置き換えることで、違った印象を生み出したものだ。元はベーシックで少し野暮ったく感じるアイテムでも、一つ手を加えることでモダンでエッジが効いたものに変貌する。
デザインもアイテムも豊富なレディスでは、ゼロから全て作り替えるには、相当の時間とエネルギーを要する。でも、それが必ずしもお客にを惹きつけて、大々的に売れるとは限らない。だったら、既存のベーシックアイテムでディテールをいじくったり、削ぎ落とす方が半歩先の感覚でお客に受け入れてもらえる可能性は高い。こうした企画発想もクリエイティビティの一つではないか。
メンズもレディスの企画からインスパイアされていいのではないか。両方を持つブランドなら、一旦レディスに採用してそれから足し算、引き算の手法でメンズのデザインを仕上げる方法もありかと思う。それがメンズオンリーのブランドではなかなか見られないのは残念だ。