楽天グループ(以下、楽天)が楽天市場の出店者に対して、一定額以上の購入代金を「送料込み」とする新制度(送料無料との表示を要求されれば、実質的には出店者が配送業者に支払うもの)について、公正取引委員会(以下、公取)は12月6日、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑の審査を終了すると発表した。
と言っても、楽天側が営業方針を変更して自主的な改善措置の申し出をしたため、公取は出店者に対する状況が改善されると推定し処分を取り下げただけ。「楽天市場の制度は独金法違反の疑いがある」とした判断したことに変わりない。
改善措置を額面通りに信じられるか
改善措置は以下の通りになる。
改善措置1:出店者側の参加、不参加の意思を尊重
改善措置2:商品の表示順位を下げるなど不参加店に不利な扱いをしない
改善措置3:出店者からの苦情や相談を受け付ける
改善措置4:会社の方針に違反する働きかけをした社員の処分規定を整備
これで楽天、公取が手打ちをするのか。筆者はとてもそうとは思えない。なぜなら楽天の三木谷浩史社長は出店の条件にした送料無料を公取が問題視した時、民間企業の経営者として「国家権力が規制を元に自由なビジネスを阻害するなら徹底して抗う」的な発言をしている。自社が右肩あがりの成長をしていくには、折に触れてお上と対峙しなければならないとの姿勢は、今後も変わることはないだろう。
一方、公取側も三木谷発言の趣旨は十分に理解しているはずだ。3980円以上購入すると送料は原則無料となる制度が弱い立場にある出店者に負担を強いるものであるのは言うまでもない。楽天が今後もプラットフォーマーという優越的地位を振りかざすかもしれないことに、公取は出店者へのヒヤリングなどを通じて調査、監視を続けていくと思う。
では、改善措置により出店者は救済されるのか。まず、送料込みの制度に参加、不参加を出店者の意思で自由に決められる点は評価される。ただ、制度に参加を見送る店舗に対し商品の表示順位を下げないという点は、あくまで楽天側がSEO対策を行うわけだから何とも言えない。苦情や相談の受け付けについても、楽天が速やかに対応し改善するには時間を要する。額面通りに受け入れない方がいい。
そして、会社の方針に違反する働きかけをした社員の処分については?がある。そもそも、送料込みの制度に不参加なら商品の表示順位が下がるようになることを社員が単独で行ったとは考えにくい。むしろ上層部の指示があったとみた方が合点がいく。言い換えれば、今後も出店者への何らかの不利益を示唆すれば、「それは社員がやったことだ」と、上層部はトカゲの尻尾切りで済ませるのではないか。ならば、非常に問題である。
楽天がAmazonに対抗していく上で、送料サービスは目下のところ一番の肝だ。というか、ネット通販の場合、同じ商品なら価格はほぼ同等だから、送料で違いを出すのが最も有効と言える。楽天はどの出店者であろうと商品が売れればいいわけで、送料を無料にすることで出店者同士を競争させ、自社に有利な状況を作っていくと思われる。
運送事業者は外部委託でネット通販に対応
もっとも、送料問題は物流の課題を抜きには語れない。運送業界はドライバー不足やガソリン価格の高騰に喘ぎ、輸送コストが高止まりの傾向にある。そうした問題にはプラットフォーマーも出店者も購入者も目もくれず、自ら利益ばかりを求めている。
プラットフォーマーは、とにかく出店者を増やして購入者の選択肢を増やすことで競争力をつけ、収益を伸ばそうとしている。出店者は実店舗や販売スタッフが必要ないネットモールでとにかく粗利益を稼ごうと躍起だ。購入者は同じ商品なら価格や送料を比較して1円でも安く買いたい。利害が三つ巴になる中でも、送料というコストはかかっている。
もう少し詳しく言うと、以前Amazonの配送に参加していた佐川急便は、定額送料では利益が出ないために撤退した。その後、Amazonは個人配送業者、いわゆる赤帽さんを組織して配送を一括で委託する方針を打ち出した。現在、どうなっているのか。
ヤマト運輸が同社と連携したオンラインショップ等で注文した商品(ヤフーのネコポス、ZOZOなど)の受け取りを、購入者の自宅敷地内の玄関ドア前やガスメーターボックス、車庫などに置き配し、非対面で荷物を受け取れる「EAZY」をスタートしている。(https://www.yamato-hd.co.jp/news/2020/20200616.html)
同社のSD(セールスドライバー)が配送するのではなく、外部パートナー「EAZY CREW(イージー・クルー)」に委託するもの。既存の個人配送業者や赤帽の資格をとったドライバーがこの業務に当たっている。Amazonはこれに乗っかる形で配送を委託している。
だからと言って、送料が簡単に下げられるものでない。Amazonの物流倉庫や出店者から出荷された商品はヤマト運輸の荷受けターミナルに集まり、県ごとに仕分けされて大型トラックで各県のターミナルまで配送される。そこで今度はエリアごとに手作業で仕分けされた後、大型トラックで各エリアセンターまで運ばれ、さらに配送ルートごとに手作業で仕分けされて、それをイージー・クルーが購入者の自宅まで届けるのである。
大型トラックでの配送、ターミナルやセンターでの仕分け、委託業者の個別配送などなど。どれだけの人員や車を要し、どれだけの手間やコストがかかっているのか。むしろ、配送事業者がAmazonの通常配送料450円の範囲内で応分のコストを吸収している方に驚く。また、イージー・クルーもヤマト運輸が支払う荷物1個の配送料(160円程度か)で、生活が成り立つのかである。
おそらく、ヤマト運輸にとってEAZYは、Amazonの配送を請け負うのと、輸送コストを下げる上での苦肉の策ではないか。ただ、Amazonは一般会員からは送料を取っているし、プライム会員には手数料を取って送料負担させているから、まだマシだ。
果たしてOMOは理想形なのか
ところが、楽天は2019年8月に送料無料化の方針を打ち出し、出店者にはその制度に参加しなければ、検索順位の低下や退店要求、サイト内のセールに出られないなど圧力をかけた。無人配送ロボットの実証実験や置き配ボックスの配布は行なっているが、自社物流の体制整備を差し置いて、送料無料の代償を出店者に強いる横暴さは目に余る。
もちろん、出店者もネット市場には無尽蔵なお客がいて売上げが伸びた事実から、ネット通販無しではビジネスが成り立たないと信じ込んでいる。しかし、楽天が送料無料の方針を出した途端、利益の目減りどころか旨味の無さを突きつけられた。今のビジネス環境はコロコロ変わる。一寸先は闇、それほど簡単には行かないという証左だ。もちろん、物流業界もコストダウンや効率化に向けた自助努力は必要だと思う。
タダでは済まないという慣用句がある。ただ、今回の問題はそのままの意味に当てはまる。公取は楽天に対しお上の言うことを聞かなければ、排除措置命令を下すなどタダでは済まないとの判断を下した。出店者は送料を無料にすればお客は食いつくが、商品価格に上乗せすれば競争力失う。こちらもタダでは済まないのだ。購入者は店舗に出向けば送料は払わなくいい。店舗まで買いに行けない理由があるにしても、配送を選べばタダで済まないということだ。
アパレル業界ではOMO(オンラインとオフラインの融合)が叫ばれている。ネットショップと実店舗の境目はなくなり、お客がチャネルの違いを意識せずにサービスを受けられるようにオンラインとオフラインを一緒のものとして戦略を進めようという考え方だ。だが、そうすればサイトと実店舗で二重のコストがかかってしまう。
そこまでやらないと生き残れないと言われればそれまでだが、中小零細のメーカーや小売業者に両方のコストが負担できるとは思えない。逆にOMOに注力すればコスト増で、商品づくりへのしわ寄せが行かないとも限らない。
楽天の送料無料に端を発し、オンライン、オフラインのそれぞれにメリット、デメリットがあることも浮き彫りとなった。2022年はネット販売のみ、OMO、実店舗のみのどれを選択し、磨きをかけて勝負するか。それが問われるのではないかと思う。
と言っても、楽天側が営業方針を変更して自主的な改善措置の申し出をしたため、公取は出店者に対する状況が改善されると推定し処分を取り下げただけ。「楽天市場の制度は独金法違反の疑いがある」とした判断したことに変わりない。
改善措置を額面通りに信じられるか
改善措置は以下の通りになる。
改善措置1:出店者側の参加、不参加の意思を尊重
改善措置2:商品の表示順位を下げるなど不参加店に不利な扱いをしない
改善措置3:出店者からの苦情や相談を受け付ける
改善措置4:会社の方針に違反する働きかけをした社員の処分規定を整備
これで楽天、公取が手打ちをするのか。筆者はとてもそうとは思えない。なぜなら楽天の三木谷浩史社長は出店の条件にした送料無料を公取が問題視した時、民間企業の経営者として「国家権力が規制を元に自由なビジネスを阻害するなら徹底して抗う」的な発言をしている。自社が右肩あがりの成長をしていくには、折に触れてお上と対峙しなければならないとの姿勢は、今後も変わることはないだろう。
一方、公取側も三木谷発言の趣旨は十分に理解しているはずだ。3980円以上購入すると送料は原則無料となる制度が弱い立場にある出店者に負担を強いるものであるのは言うまでもない。楽天が今後もプラットフォーマーという優越的地位を振りかざすかもしれないことに、公取は出店者へのヒヤリングなどを通じて調査、監視を続けていくと思う。
では、改善措置により出店者は救済されるのか。まず、送料込みの制度に参加、不参加を出店者の意思で自由に決められる点は評価される。ただ、制度に参加を見送る店舗に対し商品の表示順位を下げないという点は、あくまで楽天側がSEO対策を行うわけだから何とも言えない。苦情や相談の受け付けについても、楽天が速やかに対応し改善するには時間を要する。額面通りに受け入れない方がいい。
そして、会社の方針に違反する働きかけをした社員の処分については?がある。そもそも、送料込みの制度に不参加なら商品の表示順位が下がるようになることを社員が単独で行ったとは考えにくい。むしろ上層部の指示があったとみた方が合点がいく。言い換えれば、今後も出店者への何らかの不利益を示唆すれば、「それは社員がやったことだ」と、上層部はトカゲの尻尾切りで済ませるのではないか。ならば、非常に問題である。
楽天がAmazonに対抗していく上で、送料サービスは目下のところ一番の肝だ。というか、ネット通販の場合、同じ商品なら価格はほぼ同等だから、送料で違いを出すのが最も有効と言える。楽天はどの出店者であろうと商品が売れればいいわけで、送料を無料にすることで出店者同士を競争させ、自社に有利な状況を作っていくと思われる。
運送事業者は外部委託でネット通販に対応
もっとも、送料問題は物流の課題を抜きには語れない。運送業界はドライバー不足やガソリン価格の高騰に喘ぎ、輸送コストが高止まりの傾向にある。そうした問題にはプラットフォーマーも出店者も購入者も目もくれず、自ら利益ばかりを求めている。
プラットフォーマーは、とにかく出店者を増やして購入者の選択肢を増やすことで競争力をつけ、収益を伸ばそうとしている。出店者は実店舗や販売スタッフが必要ないネットモールでとにかく粗利益を稼ごうと躍起だ。購入者は同じ商品なら価格や送料を比較して1円でも安く買いたい。利害が三つ巴になる中でも、送料というコストはかかっている。
もう少し詳しく言うと、以前Amazonの配送に参加していた佐川急便は、定額送料では利益が出ないために撤退した。その後、Amazonは個人配送業者、いわゆる赤帽さんを組織して配送を一括で委託する方針を打ち出した。現在、どうなっているのか。
ヤマト運輸が同社と連携したオンラインショップ等で注文した商品(ヤフーのネコポス、ZOZOなど)の受け取りを、購入者の自宅敷地内の玄関ドア前やガスメーターボックス、車庫などに置き配し、非対面で荷物を受け取れる「EAZY」をスタートしている。(https://www.yamato-hd.co.jp/news/2020/20200616.html)
同社のSD(セールスドライバー)が配送するのではなく、外部パートナー「EAZY CREW(イージー・クルー)」に委託するもの。既存の個人配送業者や赤帽の資格をとったドライバーがこの業務に当たっている。Amazonはこれに乗っかる形で配送を委託している。
だからと言って、送料が簡単に下げられるものでない。Amazonの物流倉庫や出店者から出荷された商品はヤマト運輸の荷受けターミナルに集まり、県ごとに仕分けされて大型トラックで各県のターミナルまで配送される。そこで今度はエリアごとに手作業で仕分けされた後、大型トラックで各エリアセンターまで運ばれ、さらに配送ルートごとに手作業で仕分けされて、それをイージー・クルーが購入者の自宅まで届けるのである。
大型トラックでの配送、ターミナルやセンターでの仕分け、委託業者の個別配送などなど。どれだけの人員や車を要し、どれだけの手間やコストがかかっているのか。むしろ、配送事業者がAmazonの通常配送料450円の範囲内で応分のコストを吸収している方に驚く。また、イージー・クルーもヤマト運輸が支払う荷物1個の配送料(160円程度か)で、生活が成り立つのかである。
おそらく、ヤマト運輸にとってEAZYは、Amazonの配送を請け負うのと、輸送コストを下げる上での苦肉の策ではないか。ただ、Amazonは一般会員からは送料を取っているし、プライム会員には手数料を取って送料負担させているから、まだマシだ。
果たしてOMOは理想形なのか
ところが、楽天は2019年8月に送料無料化の方針を打ち出し、出店者にはその制度に参加しなければ、検索順位の低下や退店要求、サイト内のセールに出られないなど圧力をかけた。無人配送ロボットの実証実験や置き配ボックスの配布は行なっているが、自社物流の体制整備を差し置いて、送料無料の代償を出店者に強いる横暴さは目に余る。
もちろん、出店者もネット市場には無尽蔵なお客がいて売上げが伸びた事実から、ネット通販無しではビジネスが成り立たないと信じ込んでいる。しかし、楽天が送料無料の方針を出した途端、利益の目減りどころか旨味の無さを突きつけられた。今のビジネス環境はコロコロ変わる。一寸先は闇、それほど簡単には行かないという証左だ。もちろん、物流業界もコストダウンや効率化に向けた自助努力は必要だと思う。
タダでは済まないという慣用句がある。ただ、今回の問題はそのままの意味に当てはまる。公取は楽天に対しお上の言うことを聞かなければ、排除措置命令を下すなどタダでは済まないとの判断を下した。出店者は送料を無料にすればお客は食いつくが、商品価格に上乗せすれば競争力失う。こちらもタダでは済まないのだ。購入者は店舗に出向けば送料は払わなくいい。店舗まで買いに行けない理由があるにしても、配送を選べばタダで済まないということだ。
アパレル業界ではOMO(オンラインとオフラインの融合)が叫ばれている。ネットショップと実店舗の境目はなくなり、お客がチャネルの違いを意識せずにサービスを受けられるようにオンラインとオフラインを一緒のものとして戦略を進めようという考え方だ。だが、そうすればサイトと実店舗で二重のコストがかかってしまう。
そこまでやらないと生き残れないと言われればそれまでだが、中小零細のメーカーや小売業者に両方のコストが負担できるとは思えない。逆にOMOに注力すればコスト増で、商品づくりへのしわ寄せが行かないとも限らない。
楽天の送料無料に端を発し、オンライン、オフラインのそれぞれにメリット、デメリットがあることも浮き彫りとなった。2022年はネット販売のみ、OMO、実店舗のみのどれを選択し、磨きをかけて勝負するか。それが問われるのではないかと思う。