HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

安さに釣られたツケ。

2021-05-05 06:51:24 | Weblog
 昨年の8月6日、ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔氏がネット版の現代ビジネスで以下のような記事を配信された。(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74552)

 アパレルの「売れ残り」、じつは「大量廃棄」されてなかった…その意外な真実!

 記事の骨子を拾うと、「ベーシックな商品は10%以上も持ち越すことが多く、紳士既製服では30%以上を持ち越すのが常態化している

 「持ち越しても何年も売れ残り、二次流通業者も引き取らないほど価値が落ちてしまえば、産業廃棄物として廃棄するしか無くなってしまう。こうなると廃棄の費用も負担しなければならないから、そこまで持ち越す「新古衣料」は極めて限られる。おそらく、売れ残り品の数%止まりだろう

 「持ち越して販売したり二次流通業者に放出したりしてとことん換金した挙句、どうにも行き場がなくなった商品が廃棄されるのだと認識してほしい」(以上、原文のまま)になる。

 要約すれば、日本のアパレルも売れ残った商品は次シーズンに持ち越し、米国のようなバーチカルな消化システムを利用してできる限り現金化し、それでも残ったものを仕方なく廃棄している。だから、「大量廃棄」されていると表現するのは語弊があると、考えられる。

 加えて、小島氏はマスメディアがほとんど報道してこなかった環境省の調査データにも触れている。それが以下だ。

 「環境省の調査によると我が国では毎年100万トンの衣類(下着や靴下も含む)が廃棄される一方、19年の輸出統計では26万トンの中古衣料(仕分けられて中古衣料として販売できないものはウエスや繊維原料になる)がマレーシアなどアジア諸国に輸出されたが、そのほとんどは消費者のタンス在庫から出たもので、「新古品」のアパレル製品は最大でも2万トン(6600万点)止まりだと推計される

 整理すると、国内で廃棄される衣類100万トン輸出中古衣料26万トン(タンス在庫)輸出新古品アパレル2万トン、となる。海外に輸出されて廃棄処分されるのは、国内廃棄の約4分の1。だから、「日本の廃棄衣料が大量に海外に持ち出され、受け入れ国に非常に負荷をかけているのは、けしからん」という批判も、的を射たとは言い難い。


廃棄削減は商品のレベルによってやり方を変える

 環境省は「日本で消費される衣服と環境負荷」に関して、昨年12月から今年3月までの期間で調査を行い、先日その結果を報告した。この際だから、調査期間の短さと小泉環境大臣へのツッコミは置いといて、内容を冷静に見てみよう。(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html)



 まず、「服を手放す手段の分布」では、古着や譲渡、地域などでの回収を除いた残りの68%が可燃・不燃ごみとして廃棄されている。また、可燃・不燃ごみに出される衣類の総量は58万トン、そのうちの95%48.4万トンが焼却・埋め立てされている。再資源化されるのはわずか5%2.4万トンに過ぎない。



 一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン。廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。小島氏が書かれているように企業から出る廃棄衣料が意外に少ないことが、今回の調査で裏付けられた。

 逆に一般家庭の「タンス在庫」から出た廃棄衣料がいちばんの元凶だ。それをどう減らしていくかである。ただ、ひと口に家庭から出される廃棄衣料と言っても、高価格帯のラグジュアリーブランドから、百貨店やセレクトショップが販売した中価格帯のアイテム、郊外SCや量販チェーン系の低価格品までと色々。それぞれで処理は異なってくる。



 まず、高級ブランドは絶対量が少ない(最近はサブスクのレンタルも登場)。原価コストをかけているため、流行を無視すれば10年以上着られる。平均着用期間を7年としても、中古ブランドとして再販=リユースされるはずで、廃棄処分されるケースは極めて少ないだろう。



 中価格帯のアイテムは平均着用期間を5年としても、十分にリユースは可能だ。だが、ユーズドショップやアプリを利用した二次流通がこれ以上の増えるとは考えにくい。だから、環境省も提唱している「1着をできるだけ長く着る」こと。現在より1年長く着ることで、日本全体として4万トン以上の廃棄を減らせるのだから、実践すべきだと考える。



 長く着るための手法としては、リメイクやリペアがある。これには技術が必要だから、洋裁のプロが積極的にやり方をYou-tubeなどで教示すべきだし、コンテストを設けてプロからアマチュアまでの参加を呼びかけ、「直し」が市民権を得る土壌を作ることだ。環境省は専門事業者を認定し、消費者が利用すれば「エコポイント」を与えるという方法もある。



 低価格品は流通量が非常に多く、いちばんタンス在庫になっていると考えられる。ローコストで製造し、1シーズンで着古す次元だから、二次流通に不向きで廃棄されるケースが圧倒的に多いはずだ。これらを減らす工夫としては、市場を上回る製造と無駄な購入の抑制、廃棄抑止、リサイクル推進の全方を視野に入れたポイント制を導入してはどうかと考える。


リサイクル可能の度合いで、+−のポイントを付与しては

 エコポイントは専門事業者のサービス内容によって修理程度では代金の5%、異素材などを用いた作り直しでは同10%とする。製造・購入の抑制、廃棄抑止・リサイクル推進については、買取できないがリサイクル可能なら業者や自治体がポイントで渡す。その原資は環境省が全額補助すればいい。かつてあった経済対策ではなく、環境負荷を減らす真のエコポイントだ。

 製造・購入の抑制、廃棄抑止・リサイクル推進のポイントは、素材や混紡率によって+5から−5まで数段階を規定する。例えば、綿100%のTシャツならウエスに再利用できるので+5ポイント。逆にリサイクルに手間がかかり、海洋プラスチックの問題もある合繊のみの数種混紡は−5ポイント。1ポイント1円で計算し、+ポイントは消費者からリサイクル業者に渡される時点で付与し、−ポイントは商品購入の時に別途現金で徴収する。環境税という形だ。

 ファッションだから、気に入ったアイテムを買いたい消費者心理は理解できる。その意味でも購入者に対し、それらが再資源化しやすい素材ならリサイクルの時点で+ポイントを与え、それが困難で廃棄により環境負荷になるものは−ポイントで徴税を意識づける。もちろん、−ポイントが貯まっても+ポイントの商品をリサイクルに出せば、相殺できるようにする。

 ポイントは環境省が専用のアプリを開発してスマートフォンで一元管理し、貯まった分は食品で利用を可能にする。アパレル側は−ポイントの商品は売れづらくなると見るかもしれないが、廃棄を減らすにはリサイクルに手間がかからない綿やウール主体の商品を増やし、消費者が無駄に購入するのを抑えていくことが必要だろう。ポイントが貯まるなら、消費者も分別やリサイクルを考えていくはずである。

 単に「廃棄を減らそう」と呼びかけても、どこまで実効性があるのか。環境省が音頭を取って、前出のリメイクやリペアの専門事業者、ブランドのリサイクルショップ、自治体と連携して、エコポイントの付与を進めながら衣料品の廃棄削減に繋げていく。+ポイントが貯まれば、それだけエコ、リサイクルに貢献している証明にもなる。どうだろうか。

 筆者はエコやSDGsを叫ぶアパレル事業者を信用できないと、声高に叫ぶつもりはない。だが、素資材については天然で、リサイクルしやすいものに回帰することは重要だと考える。そうすると、コストが上がり価格に跳ね返るが、分別しやすくリサイクルに回せるという見方もできる。タンス在庫のまま廃棄を待つよりは有益だろう。

 やはり、効率優先で低価格品を製造しすぎる余り、安さに釣られた消費者が商品を購入した結果、廃棄が増えている感は否めない。ここに来て、そのツケはとてつもなく大きくなっている。一方で、消費者は生活防衛に追われるのだから、商品を少しでも安く購入し、そうした賢い買い物術ばかりをSNSなどで自慢している諸兄が多い。

 ただ、そういった方々も身体は一つしかないわけで、タンス在庫はいったいどうされているのだろうか。そちらもしっかり発信しないとフェアではない。フリマにもリサイクルショップにも見向きもされない商品をこっそり廃棄しているようでは、それこそ安さに釣られたツケを踏み倒すようで、失笑ものである。
コメント
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