今回は2020年のビジネスについて考えてみたい。業界系メディアでは、ビジネストレンドというか、成功する要件がいろいろ挙がっている。
総括すれば、今年もECがアパレルの主流になるようだ。消費者が使用する端末はスマートフォンが主役だから、ECサイトは商品が選びやすく、購入に誘う工夫が不可欠になる。もちろん、配送がスピーディで、送料や負担をどうするかも懸案事項。また、店舗受け取りやそこでの試着、返品OKなどのサービスを充実するところが競争力を持つところが、ECをリードしていくと思われる。
売り方はECが支えても、根本は商品やもの作りだ。アパレルメーカーではEC専用のブランドに注力ところもある。しかし、店舗や販売スタッフが不要=コストカット、現物を細かく確認しないから売りやすいとの理由だけで、参入するのであれば疑問符がつく。リアルでもネットでも、原価をかけた商品を見抜いて購入するお客はいるわけで、その意識が大きく変わることはないからだ。
それは伊勢丹のセールを見れば、一目瞭然である。今年は本館とメンズ館で合わせて約1万1,600人が並んだという。暖冬とは言え、早朝の寒さも厭わず、お客は行列を作ったわけだ。EC台頭の時代にあっても、リアルを象徴する出来事。「婦人服は例年通り3階のトゥモローランドとサカイ、 メンズ館では2階に出店しているサカイやヨウジヤマモトに人気が集中」とのメディア報道もある。判で押したような記事内容ではあるが、国内外のデザイナーブランドやセレクト系アイテムがお客のお目当てなのは、不変の構図ということだ。
創造性のあるデザインや確かなもの作りは、プロパーでもお客を惹き付けるが、それらが1円でも安く買えるのなら、なおさら多くが反応する。お客は現物が確認できること、ECでは販売されないブランドなど、ネットとリアルを使い分けている。いくらECが浸透しようと、この構図は底堅い。つまり、ECは販売の手段に過ぎず、実店舗とうまく融合させることで、優劣が決まる。その辺に成功のヒントがありそうだ。
もっとも、自らECインフラを整備し、充実させて顧客を集めるには、コストも時間もかかる。だから、Amazonや楽天に頼りきるのだろうが、今年はプラットフォーマーも選別しなければならないのではないか。昨年はヤフーがZOZOを買収したが、その狙いは「フルフィルメント」の仕組みを手に入れることだった。ヤフーはECモールを運営していても、単なる販売代行に過ぎない。自社では出店者に対する商品の保管から注文処理、ピッキングや梱包、配送、返品までのサービスは行っていなかったのだ。
一方、 ZOZOに出店してきたアパレル系のブランドは、 ヤフーの傘下入りでヤフーが抱える某大な会員から自社の顧客を獲得できる可能性はある。ただ、スマホ決済のPayPayを全面的に押すヤフーだから、ZOZOARIGATOのような「割引サービス」によるブランドの毀損や利益減少の畏れもある。必ずしもウィンウィンの関係になれるとは言い難いのである。
一口にECモールと言っても、いろんなタイプがある。ZOZOが行ってきたのはフルフィルメント型だ。これはモール側に商品を預け、在庫管理から受注、決済、出荷まですべて代行してもらうので、手数料が売上げ対比の30%〜40%とバカにならない。手数料が同15%〜20%で済むのは「場所貸し型モール」だが、こちらは販促やポイント負担のコストはかかる。手数料は同20%未満に収まる「マーケットプレイス型」は、モール側がサイトの設定やデザイン、受注、決済を行ってくれるが、在庫管理や出荷は出店者で行わなけれならない。
フルフィルメント型のように手数料が40%もかかるのであれば、単純に考えて中小零細企業では、ほとんど利益が出ないと考えるべきだ。逆に手数料が20%程度と安くなれば、その分の自社サイトの誘導する販促や在庫管理や出荷の手間がかかる。ECがますます浸透するとは言っても、モール出店には一長一短があるのだ。
企画に力を入れ、素資材や縫製にコストをかけ、創造性のある商品を売りたいのなら、どこに潜在顧客がいるのかわからないから、市場を広げなければならない。ECは格好のツールではあるが、自社の立ち位置や体制もあり、EC用の業務が増えることを考えると、一概にどのタイプがいいとは言えない。注視すべきポイントは、ECそのものより購入してもらえるサービスに移っていると考えた方がいいと思う。
受取拠点の展開がカギ
自社で画期的なビジネスシステムや商品を簡単に生み出せるわけがない。ならば、既存のものをうまく組み合わせていくというのもある。例えば、ECにショールーム(共同で展開する場合も)や受け取り拠点(試着、返品を実店舗が代行する場合も)を組み合わせる手法だ。ところが、店舗等に取り寄せて試着、購入、返品ができるところはベイクルーズなど少数派だ。
前澤ZOZOもそれを行わないまま、ヤフー傘下となった。今のところ、ヤフーもスマホ決済のPayPayばかりに前のめりで、本当にお客が必要としている現物確認や「試着」、その場で「返品」可能といったサービスを充実させる気配は見えない。だから、ショールームや実店舗を持たない中小のアパレルなら、宅配事業者と共同で受け取り拠点などの開設に乗り出してもいいのではないか。それがECでリードできるチャンスなのだ。
話はズレるが、1月4日付けのネット報道で、「徳島県が日本初の百貨店ゼロ県に」「行き場失う上顧客」が目を引いた。地方百貨店の閉店は後を絶たないが、ついに受け皿となるところもなくなり、地元の上顧客への対応が憂慮され始めた。店売りを止めて外商部隊が対応することも考えられるが、人海戦術によるペイラインの高さを考えると、それに代わるのはECしか無いと思う。
百貨店の上顧客である富裕層や中高年が購入してきた高級ブランドのアパレルやバッグ、宝飾品や輸入時計、あるいは百貨店の包装紙を重視する中元やお歳暮。百貨店の閉店でこれらの市場が手つかずの状態になれば、近隣の大手百貨店が受け皿となって対応していくしかないと思う。もちろん、上顧客ほど高額商品あるがゆえにネット販売に二の足を踏むだろうから、商品のお試しや受け取り、返品などのサービスがより重要になる。
地方百貨店が閉店すると、その跡地利用が心配されるが、ならばショールームというか、上顧客へのサービス拠点というか、何らかの形でフォローできる業態を整備してもいいのではないか。これもEC+αというか、ECにリアルな拠点機能を組み合わせることで、勝機を見いだすものだ。ところが、昨今の百貨店は大手であっても採算が合わないブランドはカットし、空いた部分にテナント誘致することで生き残りを図ろうという施策しかない。
商品を買取らない=在庫を管理していないので、店間で商品を移動させてのピックアップや試着、その場で返品などが難しいのはわかるが、顧客に対するサービスを充実させないまま、生き残れるとは思えない。その辺の取り組みを考える年にもなると思う。
アパレルも小売りも自社ECに注力するだろうが、サイトに掲載する商品情報において、個人的には「生地」のディテール=「どんな生地を使っているか」をビジュアル化してはどうかと思う。インポートブランドでは、文章で長々と説明しているものもあるが、EC購入のメーンツールがスマートフォンになっているのだから、視覚に訴える方が伝わりやすいはずだ。
一例をあげると、これまで生地の特長は、「厚い⇔中くらい⇔薄い」と、アナログな図式で抽象的な説明に終始するものが多数派だった。これでは受け取り方によって、いろいろ解釈できてわかりづらい。確かにデニムやカットソーを「オンス」で表示しても、よほどのマニアでない限り厚みを理解することはできない。ならば、カットソーや革、こしやハリがある生地については、生地厚を「ゲージ測定」して写真表記してもいいのではないかと考える。(写真)
アイテムにもよるのは十分に承知の上だが、冬場のレザーウエアなんかは革がどのくらいの厚みかを表示してくれると、購入の選択肢が断ぜん増える。買ってもらうための情報を一つでもプラスすることで、それが顧客にとって優良なサービスとなるし、差別化にもつながる。新しい売り方に一喜一憂するよりも、アナログでは可能な手段をECにも上手く組み合わせることが重要と思う次第である。果たして、今年はどこが勝機を見いだすのだろうか。