HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店を出す先。

2017-11-08 05:17:49 | Weblog
 先月、生活雑貨店の「ママイクコ」などを展開する(株)システムジュウヨンが民事再生法の適用を申請した。このニュースを見た時、ロゴマークに見覚えがあったので、どこかのショッピングセンター(SC)に出店しているのはわかったが、それがどこだったのかは思い出せなかった。

 そのことをSNSでつぶやいたら、アパレルメーカーの方から親切に「ゆめタウンにありますよ」と、教えていただいた。仕事柄、専門店は衣料品だけでなく、服飾雑貨からインテリア、ステーショナリー、時計宝飾、アクセサリーまで、都市部、郊外を問わずチェックしている。ただ、アパレルの不振で、雑貨や飲食を加えた「ライフスタイル業態」が攻勢をかけ始めてからは、似たような出店があまりに多いので、自分の生活圏では全部チェックするのは困難になっている。

 筆者は商業施設が開業すると、プレスプレビューに誘っていただけるし、リリースも送られてくるので、内覧会に参加しなくても興味をもった業態は、オープン後に必ずチェックするようにしている。その方が背広族やメディアしかいない売場と打って変わり、お客さんの入りもわかるし、売れる商品や人気が出るであろうアイテムの確認には好都合だ。

 ママイクコは雑貨のみならず、フレンチテイストのカジュアルウエアやアクセサリー、バッグや帽子、コスメや菓子、キッチュな生活家電まで揃えている。中には知名度のあるブランドもあり、買いやすいプライスラインなので、SC向けのライフスタイルストアとしては一定のポジションを確立していたと思う。それが全国に159店舗という店舗数にもあらわれている。

 しかし、そんな業態であっても、店舗を運営するシステムジュウヨンは民事再生法の申請せざるをえなかった。信用調査系メディアはご多分に漏れず、要因を「100円均一ショップや同業他社との競争激化」「顧客の低価格志向に伴い、店舗の集客力は低下したことで売上げは伸び悩んだ」と、報道した。

 ただ、これ以上の詳しい分析はないので、経営が行き詰まった根本的な理由は何なのか。筆者なりに探ってみたい。



 ママイクコは若い主婦の感性や目線で、ファミリーのライフスタイルに必要なファッション、生活グッズをほぼフルアイテムで揃え、編集し提案している。価格は100円ショップやプチプラの雑貨店ほど安くはないが、ウエアは4000円〜5000円、バッグ2000円〜3000円、服飾小物は2000円以下で購入できる。

 価格の手頃さから夫の年収が300万円以下の若いファミリー、非正規雇用でやりくりしながら暮らすシングルマザーでも、決してダサくないライフスタイルを維持できる。加えてフレンチテイストのアクセサリーやシーズンイベントのアイテムは、中高生までもを惹き付けていたはずだ。それがSCを運営するデベロッパーに好評で、出店依頼が次々と舞い込み、店舗が増えていったと思われる。

 しかし、実際のところ、収益性はどうだったのか。ママイクコの他に「ジュ・マ・モア」(3店舗)などを加えた総売上高は、2008年8月期に約75億3600万円を達成して以降は下降をたどり、16年同期には約68億6000万円までダウンしている。現在の店舗数159店から単純計算すると、1店舗当たりの売上高は約4300万円だ。純利益は大きく見積もって10%としても、430万円くらいにしかならない。

 一方、一般的な郊外ビルインの出店コスト、初期投資を考えると、雑貨業態の場合、保証金(20坪、最低2年の定借として)、内装費などを合わせると1000万円〜1200万円はかかると思う。ママイクコは店舗面積が30坪程度と大きめだから、初期投資は通常の雑貨店より200万円〜300万円は多めにかかっていると思う。

 店舗利益を原資にするのではとても出店コストを賄えない。金融機関から借り入れせざるを得なかったのである。そのため、FC加盟店も募集していたが、出店コストは店舗あたりの純利益に対して2.5から3倍もかかっていたことになる。店舗数が30店、50店と100店舗を目指す時点では出店の勢いから、投資を回収して借入金を返済できるとの目論見だったのかもしれない。

 しかし、店舗が増えれば増えるほど、未返済分は嵩んでくる。そこで、システムジュウヨンは金融機関に返済時期の繰り延べを願い出るなどリスケに努めている。それでも8億円もの債務超過に陥っていたところから類推すると、明らかに出店戦略に無理があったと言わざるを得ない。既存店の売上げが右肩上がりならまだ活路を見出せるが、それも厳しくなれば手の打ちようが無い。

 ママイクコの商品政策や価格体系は間違っていないと思う。1店舗でウエアからキッチングッズまで手頃な価格で提供できているし、個々の雑貨もテイスト軸がしっかりして編集もきちんとなされていた。ウエアや服飾小物は価格の割になかなかの作りで、大手SPAにはないレベルの高さをキープしている。

 お客は目的買いというより、SCを回遊していたらグッズやアクセサリーが気に入ったので、買ってしまったという衝動買いを誘うようなショップだ。100円ショップよりも、商品レベルを上げたバラエティストアとでも言おうか。

 全国に100店舗以上の店舗を展開したのだから、ニューズがあったはずだ。しかし、結果として民事再生法の申請をしなければならなかったのは、やはり市場規模を超える店舗展開に根本的な要因があるのではないか。さらにSCを中心にドミナント展開していく中で、店舗が50店、80店を超えて以降、嵩む投資を回収し、未返済の借入金を返済する抜本的な一手を打ち出せなかったことは、要因としてあげられるだろう。

 総売上げや利益に対しての店舗数のバランス、また雑貨業態が乱立する中での商品政策の見直し、新業態の開発など潮目を見誤ると、致命傷になりかねない。チェーン店の場合、経営者は出店規模に沿って全体売上げが上がっていくと、既存店の中に業績不振があったり、現場からMD改善を求められても、つい後回しにしがちだ。このツケが貯まると、システムジュウヨンのようなケースに陥る。その時になって手を付けようとしても、時すでに遅しなのである。

 市場がこれ以上伸びない日本で、同じ業態が100店舗以上も必要だったのかと言えば、甚だ疑問である。しかも、商品の半分以上が仕入れだと考えると、店舗数が150店を超えたところで、それほど値入れ率が改善するとは思えない。総利益額はそれ以上高くなりようがない。必ずしも100%オリジナルの完全SPAが最善策とは思わないが、少しでも収益を好転させる商品政策を取らないと、店舗経営は立ち行かなくなってしまうのだ。

 今のところ、EC、ネット通販が影響したとの報道はないが、仕入れで商品構成をする以上、同じ商品が通販サイトに並んでいるケースも考えられる。

 ママイクコの場合、平均客単価は3000円を超えないだろう。お客が配送料値上げが必至のネット通販に一気に流れるとは考えにくい。一方で、年収に限りがある主婦やシングルマザーが同じテイスト、同じ商品なら少しでも安いものを探すのは当然のこと。SCを訪れた時に商品を見分け、さらにネットでも同じ商品、価格を比較するのは、もはや当たり前の購買行動になって来ている。店舗販売のまま営業を続けるだけでは、ますます厳しくなっていく。

 雑貨業界全体にも言えることだが、利益の薄い雑貨店を歩率家賃や賃貸物件で販売していくことは、これから非常に難しくなるのではないか。だったら、どうするのか。それが業界全体の経営課題でもある。以前は「商店街でも洋服を売っている店は潰れるところが少ない」と、羨む雑貨店のオーナーもいた。今はアパレルの方が大手であっても次々と店を畳んでいるが、かと言ってこれからの雑貨店がアパレル不振のあだ花にはなりえることなどありえない。



 チャーン店の論理は100年も前に作られたもので、すでに時代に合致しなくなっているのではないか。企業にとって規模を拡大することは経営の意思かもしれないが、それが正解と言えるのかどうか。人手不足や人件費増が重くのしかかる時代でもある。雑貨業態とてアパレル不振の一時的な穴埋めにはなったが、すでに紋切り型で飽きられいるのは間違いない。

 店を出す意味とは、いったい何なのか。どこまで出せば、適性規模なのか。それをベースにした上で、常に商品を作り出し、作れないのであれば開拓調達し、そして新業態の開発も併せて考えていかないと、物販ビジネスは売り方や販売スタイルだけでは立ち行かなくなると思う。
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