HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

バイヤーが育てる。

2017-11-01 05:39:25 | Weblog
 東京コレクション2018年春夏が開催された。アマゾンが冠スポンサーになって3シーズン目。世界で活躍する日本人デザイナーを応援する「アットトウキョウ」などの新企画も生まれ、これまでにはない盛り上がりを見せた。

 アットトウキョウには「サカイ」「アンダーカバー」「トーガ」など、今では人気、実力とも認められているブランドが参加したのだから、盛り上がるのは当然と言えば当然。彼らに続く若手の有望株が登場してくれればいいのだが、デザイナー側がアマゾンの思惑に乗せられ、ネット通販を主力販路に位置付けることが、はたしてクリエーション発信やブランドのインキュベーションとしてふさわしいのかとの疑念もある。

 確かに若手デザイナーの意識さえ変えかねないアマゾンの隆盛には、目を見張る。この際、各デザイナーのクリエーションの完成度は抜きにしても、アマゾンのECプラットフォームを活用すれば、デザイナーは自らのブランドを国内だけでなく、海外まで発信することができるのは間違いない。認知されるとまではいかなくても、いくらかのレスポンスには期待できるだろう。

 しかし、アマゾンのフォーマットは決まっている。アップされるブランド、商品は膨大な量があるわけで、ブランド価値を世界中のネット客に浸透させるには限界がある。ネットを活用するにしても、アマゾン内にリンクを貼るなど、自社サイトに誘導させてブランドコンセプトからルックブック、素材やサイズなどのスペックをしっかり公開しながら、販売はもちろん、マーケットの反応を見る仕組みを構築しなければならない。

 EC礼賛の諸兄が宣われるように既存のネット含めた販売チャンネルで、検索率やコンバージョンレートにつながるのは、アマゾンを差し置いて他にはないだろう。ただ、いくらアマゾンとは言え、ネット通販という性格を考えると、現物の商品を確認できるチャンネルも並行して整備しないと、ブランドの認知はもちろん、購買につなげるには無理がある。ましてブランド価値がお客に伝わるはずはない。

 特にデザイナーがクリエーションはもちろん、素材や色、着心地などを打ち出していくのなら、現物を確認できることはなおさらである。今回、アットトウキョウに参加したサカイの阿部千登勢、トーガの古田泰子もデザイナーとしてブランド創立から20年近くなるが、登場からメディアの喝采を浴びたわけではない。愚直に展示会を行い、中小のセレクトショップの目に触れて、少しずつ売れて来たのだ。

 先にブランドの良さを感じとったのはメディアではなく、いくつもの服を選り抜き、売って来た百戦錬磨のバイヤーたちだ。そうした彼らがクリエーションを認めたからこそ、少しずつブランドビジネスを安定させ、東京からパリやロンドンに拠点を移し、今回の凱旋につながった。それでも、両ブランドとも軌道に乗るまでには10数年の時間を要している。バイヤーが彼らを時間をかけて育てたと言ってもいいだろう。情報技術の進歩とは裏腹にファッションビジネスには時間を要するのだ。

 確かに最近では卸をやったところで、小売り側がそれほど付けなくなっているし、シーナウ、バイナウの時代にダイレクトに販売しないのは無意味との意見もあるだろう。しかし、お客に直に売るネット通販では商品の見た目で衝動買いを誘えても、お客が「気に入らなければメルカリで売ればいいや」という落とし穴もついて回るわけで、ブランドのインキュベーションや価値の醸成には諸刃の剣と言えなくもない。

 ファッション衣料は長年店舗で販売されてきており、そうした商慣行に照らし合わせて考えると、クリエーション、ブランド力、ロイヤリティの確立にはネットチャンネルだけでは片手落ちと言わざるを得ない。もちろん、展示会卸をするにも、小売り側がリスクを負わなくなった点で、若手デザイナーが営業ベースに乗せるのは至難の業なのは、百も承知だ。だからと言って、ネットで簡単に買い手がつくほどビジネスは甘くない。

 IoTの技術はこれからますます発展していくだろうから、現状の文字情報、写真、画像に加えて、PCとVRを活用することによるバーチャル試着、色や触感、サイズの確認、服の試嗅くらいが可能になれば、ファッション流通は完全にネットが支配すると思う。ただ、それにアマゾンが先鞭をつけるかどうかはわからない。

 サイトがもつ機能が限りなく高度化された時、それは世界中の消費者にリアル店舗を超え、それ以上の情報発信力をもつことになるだろうが、そこまでにはもう少し時間がかかりそうだ。それにしてもアマゾンがネット通販で主導権を握り、IoTまで駆使してブランドインキュベーションにどこまで手を貸すかは未知数である。

 そんなアマゾンが先日、「アマゾンバー」なるリアルな酒場を営業した。銀座の目抜き通りから少し離れた隠れ処的な場所で、約5000のサイトで取り扱うワインからビール、焼酎、ウイスキー、日本酒までを提供し、一部はカウンター越しにディスプレイ。日替わりイベントやその日の気分で酒を選べるなどの仕掛けで、お客を迎え入れている。

 10月20日~29日の期間限定とは言え、ネット販売した酒類、人気銘柄、お客の評価、リピーターなどの情報をもとに実店舗にセレクトするという逆の発想に打って出たわけだ。これもある意味、アマゾンがバイヤーとしてバーづくりに関わったとも言える。

 つまり、ネット通販がこれから成熟に向かっていく中で、次なる一手を考えていたということだろうか。通販で磨いたセレクトノウハウがリアル店舗の開業に生かされたことになる。これをファッション業界に置き換えると、アマゾンのサイトで販売実績を上げた人気ブランドをセレクトしたリアルなショップの展開もあり得るだろう。

 また、そこでブランドが売上げ実績をあげると、そうしたブランドを集めた次シーズンのプレコレクションをアマゾンがプロデュースすることもできなくない。アマゾンとて、リアル店舗に新たな価値を見いだそうとしているのかもしれないのだ。

 どちらにしても、ネットと実店舗、バーチャルとリアル。クリエーションの発信やブランドインキュベーションには、この両方をいかにうまく活用するかが必要になる。若手デザイナーは自らのブランド特性や世界観をじっくり見つめながら、孵化していくには卸を含めて実店舗とネットのどちらが向くのか。初期投資やランニングコストのバランスと併せながら考えていかなければならない。

 また、ネットのレスポンスとバイヤーや実店舗での反応をいかにマーチャンダイジングに落とし込んでいくか。情報技術を生かした高度なスキルをもたなければ、デジタル時代のファッションビジネスは成り立たないと考える。すでにニューヨークでは有名ブランドの旗艦店さえ、閉店に追い込まれる現実がある。こうした点からすれば、すべてのブランドが実店舗を出す時代ではないのかもしれない。いかに持続可能にしていくかの方が重要なのである。

 この間、渋谷でコンサルタントと食事をしながらそんな話をしていると、彼が「若手デザイナーはショーを行うだけでなく、その模様を動画にしてもっとYou-Tubeで流せばいいのに」と、言っていた。確かにスマートフォンの普及で画質の高い映像を気軽にネットにアップできる時代なったのだから、デザイナーが自分の作品をアピールするにはネットの動画サイトは格好の媒体になる。やってみる価値はありそうだ。

 まあ、筆者も何度と無く仕事をしたことがあるが、これまでデザイナーのコレクション映像は、ブランド側がカメラマンを手配してプロモーションビデオとして制作するか、マスメディアがテレビ番組やニュース報道用に撮影するくらいだった。デジタル技術の発展で撮影や編集がより簡単になったので、コレクションショーの会場で、正面、両斜め、両横と4〜5台のカメラを設置し、録画した映像をパソコンを使って編集し、新たにBGMを加えることは難しくない。

 事前にプロモーションビデオを撮影するなら、カット割に手間がかかるかもしれないが、1台のスマートフォンでもできなくはない。

 ただ、デザイナー自身がそこまでやるには時間的、技術的には厳しいだろう。自分でやるにしても、ブランド力を高める完成度の高い動画を作るには、ディレクターの能力や感性も必要になる。誰かに頼むとしても、カメラとPCに長けた人間が不可欠だ。糸へんだけの業界を歩いて来た人間でもできなくはないが、動画制作の技術はつけるには経験も必要になる。

 ともあれ、ネット環境がこれだけ整備されてきたわけだから、ブランドをインキュベーションするために利用しない手はないという意見は一理ある。アマゾンが今後、ECのプラットフォームを高度化するのにどの程度のイノベーションを繰り出すのか。また、アマゾンバーに見られるように実店舗でも新たな機軸を打ち出すのか。

 そうしたガリバー型企業がアパレル業界を席巻していくのは間違いない。しかし、情報発信や検索率ばかりにとらわれ過ぎて、足下にいる潜在客を見失うようなビジネスでは、クリエーションや世界観は伝わらないし、ブランド価値も醸成できないと思う。アマゾンをうまく活用しながら、いかに自身でもネット環境に合致する仕組みを整備していくか。アマゾン頼みは若手デザイナーが目の当たりにする危うさを暗示する。

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